Izo
所有印
「イゾウさんの本気の化粧ってどんなですか?」
「気になるんなら明日やってやろうか?」
興味本位で聞いたのは昨日のこと。そして「そういや最近はしてなかったな」なんて軽い調子で言った彼は今日、まさに今、化けたと言う言葉以外見つからないほど美しい姿で甲板にいた。
艶やかな着物はいつもより濃い紫色。金と銀の繊細な刺繍が蝶と風を散らしていて、いつもと変わらず少し着崩すような着こなし。切れ長の目にはラインが引かれ強調された上に朱が差されていて、目を伏せて煙管をふかす姿を見れば誰もが魅了されることは明白だ。
「……美しいですね」
「中身は変わんねェぞ」
思わず溢れた賞賛に、見た目とは正反対の凛とした男の声が返ってきて。私は一瞬驚いたものの笑ってしまった。
「演技も出来るでしょうに、しないんですか?」
「バーカ。完璧ほどつまらねェものはねえのさ、分からねェか?」
カツンと煙管を鳴らして楽しそうににいっと笑う姿は彼本来のもの。
呼び寄せるように手を差し出してくるから素直に近づけば、ぐっと引かれてイゾウさんに寄りかかるように座らされた。鼻をくすぐるのはいつものイゾウさんの匂い。海と硝煙と懐かしいような切ないような独特の。
「俺は俺よりもお前さんを着飾ってみてェなァ」
くすぐるように横髪を弄ばれ、それに促されて顔を上げれば、すぐ近くにイゾウさんの顔があって真っ赤な紅が美しく線を描いていた。それに引き寄せられるように唇を寄せれば、予想外だったのか一瞬イゾウさんの動きが止まった。
ゆっくり顔を離せば綺麗だった赤にはムラができて、代わりに私の唇に赤が乗る。そしてそのままそうっとスタンプを押すように頬に唇を押し付ければ。
「できた」
粉が叩かれた白い肌に真っ赤なキスマーク。絶対に本人がつけられるはずのない目立つ位置のそれはマーキングだ。男女問わず人を惑わす美しさ、それを手にしてるのは私だとみんなに知らしめるためのもの。
「……愛されてンなァ」
イゾウさんは一拍おいてしみじみとそうこぼすと苦笑した。不快ゆえの苦笑なのではない。彼は予想外の好意に弱いのだ。
あまり知られていない一面。自分は知っていると思うと笑みがこぼれる。
「愛してるよ」
追い討ちのようにしっかり目を合わせて伝えれば、いつもちょっとやそっとじゃ動揺しない切れ長の目が伏せられた。照れを隠すようなそれが可愛くて、うん、確かに完璧じゃないから好きなのかもなぁなんて。
「ったく……本当にいい女だよ、お前さんは」
ふふっと笑っていれば諦めがついたらしいイゾウさんが顔を上げた。すっと目尻に唇が寄せられて、優しく優しく落とされる心地よい温度。離れて見えた唇に、もう赤はなかった。
「俺も愛してるぜ」
返ってきた言葉に微笑めば、私しか知らない優しい笑みが返された。
「イゾウさんの本気の化粧ってどんなですか?」
「気になるんなら明日やってやろうか?」
興味本位で聞いたのは昨日のこと。そして「そういや最近はしてなかったな」なんて軽い調子で言った彼は今日、まさに今、化けたと言う言葉以外見つからないほど美しい姿で甲板にいた。
艶やかな着物はいつもより濃い紫色。金と銀の繊細な刺繍が蝶と風を散らしていて、いつもと変わらず少し着崩すような着こなし。切れ長の目にはラインが引かれ強調された上に朱が差されていて、目を伏せて煙管をふかす姿を見れば誰もが魅了されることは明白だ。
「……美しいですね」
「中身は変わんねェぞ」
思わず溢れた賞賛に、見た目とは正反対の凛とした男の声が返ってきて。私は一瞬驚いたものの笑ってしまった。
「演技も出来るでしょうに、しないんですか?」
「バーカ。完璧ほどつまらねェものはねえのさ、分からねェか?」
カツンと煙管を鳴らして楽しそうににいっと笑う姿は彼本来のもの。
呼び寄せるように手を差し出してくるから素直に近づけば、ぐっと引かれてイゾウさんに寄りかかるように座らされた。鼻をくすぐるのはいつものイゾウさんの匂い。海と硝煙と懐かしいような切ないような独特の。
「俺は俺よりもお前さんを着飾ってみてェなァ」
くすぐるように横髪を弄ばれ、それに促されて顔を上げれば、すぐ近くにイゾウさんの顔があって真っ赤な紅が美しく線を描いていた。それに引き寄せられるように唇を寄せれば、予想外だったのか一瞬イゾウさんの動きが止まった。
ゆっくり顔を離せば綺麗だった赤にはムラができて、代わりに私の唇に赤が乗る。そしてそのままそうっとスタンプを押すように頬に唇を押し付ければ。
「できた」
粉が叩かれた白い肌に真っ赤なキスマーク。絶対に本人がつけられるはずのない目立つ位置のそれはマーキングだ。男女問わず人を惑わす美しさ、それを手にしてるのは私だとみんなに知らしめるためのもの。
「……愛されてンなァ」
イゾウさんは一拍おいてしみじみとそうこぼすと苦笑した。不快ゆえの苦笑なのではない。彼は予想外の好意に弱いのだ。
あまり知られていない一面。自分は知っていると思うと笑みがこぼれる。
「愛してるよ」
追い討ちのようにしっかり目を合わせて伝えれば、いつもちょっとやそっとじゃ動揺しない切れ長の目が伏せられた。照れを隠すようなそれが可愛くて、うん、確かに完璧じゃないから好きなのかもなぁなんて。
「ったく……本当にいい女だよ、お前さんは」
ふふっと笑っていれば諦めがついたらしいイゾウさんが顔を上げた。すっと目尻に唇が寄せられて、優しく優しく落とされる心地よい温度。離れて見えた唇に、もう赤はなかった。
「俺も愛してるぜ」
返ってきた言葉に微笑めば、私しか知らない優しい笑みが返された。