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モビーのとある一日


隊長同士の喧嘩は面倒だ。特にキレ者同士は。

銃声が止むことなく響いている。船体に傷をつけないのはさすがと言えばいいのかなんなのか。

「はっ!!腕が落ちてるんじゃないかよい!!」
「うるっせェ鳥だなァ」

どごっという鈍い音が甲板に響く。中央で一戦交えているのは1番隊隊長サマと16番隊隊長サマで。

「馬鹿みたいに元気だねぇ」
「元気ですねぇ」

メインマストの上で文字通りハルタ隊長と高みの見物を決めている私はゆったりと自隊の隊長であるイゾウ隊長を見た。得物を構え、的確にぶちかましているところを見るに、マルコ隊長でなければ死んでいる。笑えないが笑えてしまうのはなんなのか。

隊長格の中でも滅多なことでは喧嘩はしない2人だが、極たまに、何を言うのか言われたのかこうして派手な喧嘩が起こる時がある。そうなると基本的には皆止めない。理由は見応えがある一戦が見られるのが一つ。そして単純に面白いが一つ。

まあぶっちゃけてしまえば派手な喧嘩ではあるが被害は当人だけだし、普段冷静な隊長2人もストレス発散は大事だろうということで。

弾切れかイゾウ隊長が銃をしまった。マルコ隊長も甲板に降り立ったところを見るに体術勝負になるようだ。私は横のハルタ隊長を見たが笑顔を返されたのでため息一つ。

「…私ですか」
「うん、いってらっしゃい」
「はあ…」

笑顔で手を振られ私はするり、マストから降りた。ハルタ隊長は可愛い顔をしているくせに可愛くない。

隊長同士の喧嘩は基本的には隊長達にしか止められないのだが、そこは女は強し、とは言うかなんと言うのか。

「そこまでですよ」

わざと無防備に2人の間に降り立った私の顔ギリギリで、マルコ隊長の足とイゾウ隊長の腕が止まった。その両方をぽんぽんと叩き下ろしてもらうと舌打ちの音は両者から。私は思わず苦笑い。

女は強し、というか女は理不尽な扱いは受けないのだと教えてくれたのは確かナース達だ。それをこうして喧嘩を止めるダシにするのはいかがなものかとは思うが、男だと情け無用で止めに入った者ごと蹴り飛ばされると言うのだから仕方ないところもあるかもしれない。

不完全燃焼なのか未だに不機嫌そうな隊長2人にため息1つ。

「ハルタ隊長に切り刻まれるか、ジョズ隊長に海へ放られるよりはマシでしょう?」
「違ェよい。危ねェだろ」
「うっかり殴っちまったらどうすんだ」

怪我はねェな?と確認されて、思わず驚きそして笑った。やはり優秀な隊長方だ。

なんとなく少し誇らしくて、嬉しくて、調子に乗って「そんなうっかりしませんよね」と笑えば「当たり前だ」と2人の声が揃ってしまって。ピクリと両者の眉が動いた。

あ、しまった。
そう思った時にはもう手遅れで。

「普段体を使わねェ銃手はうっかりするんじゃねェかよい」
「そりゃテメェの方だろ、鳥頭」

だん!と強く甲板を蹴る音がして気づいた時には2人ともマストの上へ。私は静かに手を合わせた。一度は止めたからあとは知らない。

「…2人ともいい加減にしなよね」

低い低いハルタ隊長の声と勢いよく海へ落ちた音が喧嘩の終わりを告げたのだった。


今日もモビーは平和です。
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