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Haruta

僕は彼女を大事にする。

「うん、俺っちそれすっげー意外」
「髪、切り落とすよ?」

やめろよこっえーな!?と慌てて髪を守ろうとするサッチがうるさい。いいから早く朝ご飯出してよね。

海賊はあんまり特定の女を作らないし、口先だけの約束をして陸に女を残すのも珍しいことじゃない。でもそれは大多数は、ということであって少数派ではあるが特定の女をつくる者もいるし、愛を誓って陸に降りる者もいる。
僕はその少数派だけれど、それが意外と言われるのが鬱陶しい。意外だと思うのは勝手だが口に出すのは野暮じゃないのかな。

とんとんとん、とカウンターを軽く蹴って急かせばサッチは呆れたように笑った。分かってるならさっさとしてよ。

サッチが二人分の朝食をプレートとついでというように水の入ったピッチャーも寄越した。それには輪切りになったレモンが浮かんでいるから無駄に気が利いてる。

軽く礼を言って席を立つ。長居は無用だ。

僕は彼女を大事にする。
部屋で彼女が待っている。

「海賊らしくねェな」

食堂を出る直前で溢された言葉にピタリと足を止めた。振り返ればサッチがカウンターに両肘をついて物憂げにこっちを見ていた。......気持ち悪。
海賊ならもっとがっつくだろう、とサッチは言った。下品すぎ。そういう目で僕を見ないでくれないかな。僕は自分の欲求をぶつけるために彼女を大事にしているのではない。

出て行こうにもペラペラ自論を語るその口がうるさくて、放って置いてもいいけどこの話を今後何度も持ち出されるのは面倒だ。

今ここで止めるのも面倒だけど、とため息ひとつ。

「あのさ」
「ん?」
「僕が何を手に入れたか知ってる?」

僕の言葉にサッチは瞬きをした。知るわけないよね。だって僕がそうしてるんだもの。

「僕は宝を見せびらかす趣味ないんだよね」

馬鹿なサッチは意味が分からなかったみたいだけど、説明するほど僕は親切じゃないから、にっこり笑って食堂を出てやった。サッチぐらいは笑顔で黙らせるのは簡単だ。

みんなは「女」という宝を僕が大事にしていると思っているのだろうけどそれは少し違う。確かに彼女は僕の女で僕の宝だけどみんなが見ているのは言ってしまえば「宝箱」であって中身ではない。

もらった朝食のスープが冷めないように、と少し早足で自室に向かう。
多分まだシーツにくるまって馬鹿みたいに緩んだ顔で寝てるだろうが、その方がいい。起きた時に寂しい思いをさせるのは本意でないし、何より起き抜けの間抜けな彼女の顔を見るのが僕は好きだから。

宝箱の中身は僕だけが知っている。

目覚めた時一番に「おはよう」と挨拶をもらうのも、その乱れた髪を整えるのも———

「全部僕だけ」

僕は彼女を大事にする。
だってそのために手に入れた、僕だけの宝だから。
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