Izo
<一目惚れ>
『男ですか?』
性別などどちらでもよくなるぐらい美しいく、しかし一緒の船に乗り、まして隊長ならば聞いておいた方がいいだろうと思っただけだった。しかし、尋ねれば目の前の美しい人は言った。目を合わせるようにかがみ、その形の良い唇で紅い弧を引きながら。
『可愛い子やねェ……ウチが野蛮なにーちゃんに見えるかい?』
私はゆっくりと首を振った。
「なんてこともありましたね」
「懐かしいな」
クツクツ笑う彼は機嫌がいい。それもそのはず今日は非番。昨日の夜から部屋にお邪魔して、もう昼になろうとしているが二人してまだ布団から出ずにいた。朝に弱い彼は非番の日はいつもこうだ。
横に寝そべる彼は少し乱れた長い黒髪が顔にかかって妙に色っぽく、乱れた浴衣もその色気を助長させている。けれどその色気というのは紛れもなく男のもので女のそれではない事は随分前から確かめなくと知っている事で。
「あの時他の隊長さんたち、すごい顔してましたよね」
「ああ。サッチなんか顎外れてんじゃねェかってぐらい間抜けに口開けてたなァ」
くすくすくす。笑い合いながら乱れた髪に指を通した。邪魔がなくなった化粧のしてない切れ長の目が猫のように細まっている。そのまますりっと頬を擦り付けられるので本当に猫のようで思わずふふ、と笑い声。
「まあでも、あの返答で男だと見抜いた奴はそういねェ」
「あらまあ、あんなにいい男しか言えない返答に気づかないなんて」
もったいない、と溢せば「褒めても何にも出ねェよ」と言いつつぐるりと腕が回され抱き込まれた。他の隊長格と比べれば華奢だが、十分男らしい胸板に頬をくっつけてすんと鼻をならせば白檀と彼の匂い。一晩一緒にいたから私にも移っただろうなあと思っていれば「俺が女だったらどうしてたんだ?」と尋ねられた。私が少し考えて「変な男が寄らないようにずっと側についていたでしょうね」と答えたら彼は笑ったが、私は大真面目だ。こんなに美しい人がいたら誰だって欲しくなるに決まっているのだから。
「そいつは恋は盲目ってやつだろう?」
「盲目でもなんでも、欲しいものを取られるのは嫌です」
海賊ですから、と顔を上げてふふんと笑えば、一瞬キョトリと目を瞬かせて彼は大笑い。「違ェねえな」と言う彼の目元にキス一つ。お返しに同じように目元にキスを貰って、勢いをつけて二人同時に布団から這い出た。
モビーにはナース以外の女は航海士や整備士にちらほらいるが戦闘員としては乗せない方針だからどうしても女は肩身が狭くなる。
『可愛い子やねェ……ウチが野蛮なにーちゃんに見えるかい?』
——— 安心しな、女だからと雑に扱う男じゃねェよ———
美しい人だったからどちらに間違えるも失礼かと純粋に性別を尋ねただけだったのだけれど、彼は女の私を揶揄いつつ、構えなくていいとあの時言ってくれたのだ。男所帯だから間違いが起こったり、節操なしがいないこともないが俺は違うから安心しな、と。そしてあの時せっかくのその気遣いを台無しにしたのは私だ。
『……いいえ。いい男だと分かったので貰うことにします』
そう言ってにこりと笑って屈んでいた彼の目元にキスを落としたのは私だったから。
「野蛮なのは私だったかもしれませんね」
「俺はそれで落ちたんだからいいだろ」
初めは美しさに落ちた。そして二つ目は優しさに。もちろんその後、強さにも落ちるのだけれど、そこはまあ隊長だし強いのは誰もが知っているだろうから割愛だ。
『男ですか?』
性別などどちらでもよくなるぐらい美しいく、しかし一緒の船に乗り、まして隊長ならば聞いておいた方がいいだろうと思っただけだった。しかし、尋ねれば目の前の美しい人は言った。目を合わせるようにかがみ、その形の良い唇で紅い弧を引きながら。
『可愛い子やねェ……ウチが野蛮なにーちゃんに見えるかい?』
私はゆっくりと首を振った。
「なんてこともありましたね」
「懐かしいな」
クツクツ笑う彼は機嫌がいい。それもそのはず今日は非番。昨日の夜から部屋にお邪魔して、もう昼になろうとしているが二人してまだ布団から出ずにいた。朝に弱い彼は非番の日はいつもこうだ。
横に寝そべる彼は少し乱れた長い黒髪が顔にかかって妙に色っぽく、乱れた浴衣もその色気を助長させている。けれどその色気というのは紛れもなく男のもので女のそれではない事は随分前から確かめなくと知っている事で。
「あの時他の隊長さんたち、すごい顔してましたよね」
「ああ。サッチなんか顎外れてんじゃねェかってぐらい間抜けに口開けてたなァ」
くすくすくす。笑い合いながら乱れた髪に指を通した。邪魔がなくなった化粧のしてない切れ長の目が猫のように細まっている。そのまますりっと頬を擦り付けられるので本当に猫のようで思わずふふ、と笑い声。
「まあでも、あの返答で男だと見抜いた奴はそういねェ」
「あらまあ、あんなにいい男しか言えない返答に気づかないなんて」
もったいない、と溢せば「褒めても何にも出ねェよ」と言いつつぐるりと腕が回され抱き込まれた。他の隊長格と比べれば華奢だが、十分男らしい胸板に頬をくっつけてすんと鼻をならせば白檀と彼の匂い。一晩一緒にいたから私にも移っただろうなあと思っていれば「俺が女だったらどうしてたんだ?」と尋ねられた。私が少し考えて「変な男が寄らないようにずっと側についていたでしょうね」と答えたら彼は笑ったが、私は大真面目だ。こんなに美しい人がいたら誰だって欲しくなるに決まっているのだから。
「そいつは恋は盲目ってやつだろう?」
「盲目でもなんでも、欲しいものを取られるのは嫌です」
海賊ですから、と顔を上げてふふんと笑えば、一瞬キョトリと目を瞬かせて彼は大笑い。「違ェねえな」と言う彼の目元にキス一つ。お返しに同じように目元にキスを貰って、勢いをつけて二人同時に布団から這い出た。
モビーにはナース以外の女は航海士や整備士にちらほらいるが戦闘員としては乗せない方針だからどうしても女は肩身が狭くなる。
『可愛い子やねェ……ウチが野蛮なにーちゃんに見えるかい?』
——— 安心しな、女だからと雑に扱う男じゃねェよ———
美しい人だったからどちらに間違えるも失礼かと純粋に性別を尋ねただけだったのだけれど、彼は女の私を揶揄いつつ、構えなくていいとあの時言ってくれたのだ。男所帯だから間違いが起こったり、節操なしがいないこともないが俺は違うから安心しな、と。そしてあの時せっかくのその気遣いを台無しにしたのは私だ。
『……いいえ。いい男だと分かったので貰うことにします』
そう言ってにこりと笑って屈んでいた彼の目元にキスを落としたのは私だったから。
「野蛮なのは私だったかもしれませんね」
「俺はそれで落ちたんだからいいだろ」
初めは美しさに落ちた。そして二つ目は優しさに。もちろんその後、強さにも落ちるのだけれど、そこはまあ隊長だし強いのは誰もが知っているだろうから割愛だ。