Izo
<雨降る前に地を固めよ>
呼吸が荒い。目が霞む。下品な笑いが鬱陶しい。仲間は…逃げられただろうか。
「いい目だなァ?」
どこまで持つか見ものだぜ、と笑う男を睨みつけた。白ひげ海賊団を舐めてもらっては困る。たとえ殴られようが蹴られようが、どんな拷問を受けたって家族を売ったりなどしない。家族を危険に晒すぐらいなら死ぬし、家族に手を出した者は殺す。殴られた頬は痛いし、腹を蹴られたせいで胃は空っぽ、骨もいくつか。でも、私は強くなると決めて、実際自分でも頑張ったと思うほど急速に腕を上げた。だから何をされたって
「指を落とせ」
かしゃんと得物が落ちた。
『恋人…?いるじゃねえか、ここに』
そう言って笑った貴方は愛おしそうに銃を手にしていた。
海賊なんかが恋愛なんて馬鹿馬鹿しいと、そう思われて当然だ。けれど私は恋に落ちた。酷く愚かなことにも自隊の隊長に。恋は盲目というけれど、私の目も、頭も馬鹿になったようで、かろうじて目を覚まさせてくれたのが「恋人、いないんですか?」と聞いた私への返答だ。
隊長はやはりすごいのだ。私のように恋だ、好きだと浮ついた心は全くなく、海賊として戦うための得物を恋人だと笑った。私は自分を恥じた。でも恋心は捨て切れなかった。だから、自分が隊長のもう一つの銃になろうと思って。ただその一心で強くなった。強く、強く、なった、のに。
白ひげ海賊団の家族に手を出せばどうなるかなんてとうの昔から有名だ。
鈍い音と共にドアが吹き飛んだのが見えた。間をおかず発砲音と剣がぶつかる音が暫くして、やがて止んだ。聞き慣れた足音を耳が捉えるが体を起こす体力はもうない。いや違う。その心がもう壊れてしまったのだ。
隊長が私の体を起こしてくれた。眉を寄せ「遅くなった」と謝る隊長に泣きそうになる。泣くな泣くなと言い聞かせて、必死に大丈夫だと笑って、そっと手を隠した。けれどそれに気づかない隊長ではない。そうでないから好きになったのだから。
「お前…!」
イゾウ隊長は私の手を見て呆然とした表情をした。私の右手の薬指と両手の人差し指はもうない。銃を撃つには指がいる。もう彼の横には立てない。もう彼の、「恋人」にはなれない。けれど、私は馬鹿だから、なれないと分かっているなら、分かっているから言ってしまってもいいじゃないかと浅ましくも思ってしまって。
「好きです」
好きです、好きです、好きでした。貴方の恋人になりたかったのだと、そう繰り返す私に返ってくる言葉はない。目の前のイゾウ隊長は驚いたように目を見開くばかりで、そりゃそうだと思った。海賊なんかが好きだ何だと馬鹿馬鹿しい。でも、そう思っても溢れそうになる涙に、泣くな笑えと必死になる沈黙に終止符を打ったのは、どごっという鈍い音。
「バッカじゃないの?」
呆然としていたイゾウ隊長の頭を殴ったのはハルタ隊長で。今度は私が驚いて目を見開いた。そんな私は置いてきぼりに「僕わざわざ言ってあげたよね?絶対わかってないよって」と呆れた様子でハルタ隊長が言う相手はイゾウ隊長で。さっさとしろ、と言わんばかりにハルタ隊長が顎で私を指せば、珍しく少し後悔している様子で、言いにくそうにイゾウ隊長がこっちを見て。
言われた言葉に我慢していた涙が溢れた。けれどそれは落ちきる前に、柔らかい唇に掬われて。痛みも忘れるぐらいの驚きと喜びが胸を満たした。
「俺の恋人はお前だ」
呼吸が荒い。目が霞む。下品な笑いが鬱陶しい。仲間は…逃げられただろうか。
「いい目だなァ?」
どこまで持つか見ものだぜ、と笑う男を睨みつけた。白ひげ海賊団を舐めてもらっては困る。たとえ殴られようが蹴られようが、どんな拷問を受けたって家族を売ったりなどしない。家族を危険に晒すぐらいなら死ぬし、家族に手を出した者は殺す。殴られた頬は痛いし、腹を蹴られたせいで胃は空っぽ、骨もいくつか。でも、私は強くなると決めて、実際自分でも頑張ったと思うほど急速に腕を上げた。だから何をされたって
「指を落とせ」
かしゃんと得物が落ちた。
『恋人…?いるじゃねえか、ここに』
そう言って笑った貴方は愛おしそうに銃を手にしていた。
海賊なんかが恋愛なんて馬鹿馬鹿しいと、そう思われて当然だ。けれど私は恋に落ちた。酷く愚かなことにも自隊の隊長に。恋は盲目というけれど、私の目も、頭も馬鹿になったようで、かろうじて目を覚まさせてくれたのが「恋人、いないんですか?」と聞いた私への返答だ。
隊長はやはりすごいのだ。私のように恋だ、好きだと浮ついた心は全くなく、海賊として戦うための得物を恋人だと笑った。私は自分を恥じた。でも恋心は捨て切れなかった。だから、自分が隊長のもう一つの銃になろうと思って。ただその一心で強くなった。強く、強く、なった、のに。
白ひげ海賊団の家族に手を出せばどうなるかなんてとうの昔から有名だ。
鈍い音と共にドアが吹き飛んだのが見えた。間をおかず発砲音と剣がぶつかる音が暫くして、やがて止んだ。聞き慣れた足音を耳が捉えるが体を起こす体力はもうない。いや違う。その心がもう壊れてしまったのだ。
隊長が私の体を起こしてくれた。眉を寄せ「遅くなった」と謝る隊長に泣きそうになる。泣くな泣くなと言い聞かせて、必死に大丈夫だと笑って、そっと手を隠した。けれどそれに気づかない隊長ではない。そうでないから好きになったのだから。
「お前…!」
イゾウ隊長は私の手を見て呆然とした表情をした。私の右手の薬指と両手の人差し指はもうない。銃を撃つには指がいる。もう彼の横には立てない。もう彼の、「恋人」にはなれない。けれど、私は馬鹿だから、なれないと分かっているなら、分かっているから言ってしまってもいいじゃないかと浅ましくも思ってしまって。
「好きです」
好きです、好きです、好きでした。貴方の恋人になりたかったのだと、そう繰り返す私に返ってくる言葉はない。目の前のイゾウ隊長は驚いたように目を見開くばかりで、そりゃそうだと思った。海賊なんかが好きだ何だと馬鹿馬鹿しい。でも、そう思っても溢れそうになる涙に、泣くな笑えと必死になる沈黙に終止符を打ったのは、どごっという鈍い音。
「バッカじゃないの?」
呆然としていたイゾウ隊長の頭を殴ったのはハルタ隊長で。今度は私が驚いて目を見開いた。そんな私は置いてきぼりに「僕わざわざ言ってあげたよね?絶対わかってないよって」と呆れた様子でハルタ隊長が言う相手はイゾウ隊長で。さっさとしろ、と言わんばかりにハルタ隊長が顎で私を指せば、珍しく少し後悔している様子で、言いにくそうにイゾウ隊長がこっちを見て。
言われた言葉に我慢していた涙が溢れた。けれどそれは落ちきる前に、柔らかい唇に掬われて。痛みも忘れるぐらいの驚きと喜びが胸を満たした。
「俺の恋人はお前だ」