Izo
<本気>
※一番隊隊長視点
「服貸してくれ」
昼時にノックもろくにせず入ってきた男はそう言った。入る時は声をかけろと言おうとドアの方を見て、はたり、俺は思わず動きを止める。
「イゾウ…か?」
「ここに来るまでにその反応は飽きるほど貰ったさ。いいから、服貸せ、服」
思わず確認した俺にイゾウは呆れたような顔をしてそう言った。本人はそう言うが、俺が確認するほどには普段と見た目が異なっている事をどこまで自覚しているのかは分からない。
普段器用に結い上げられている黒髪は綺麗に一本にまとめられ、いつも食えない笑みを浮かべている口は今日はそれを潜め、ついでに紅も引かれていない。不機嫌そうに、というよりは焦っているのか「勝手に借りるぞ」と俺の衣類を漁ることに怒るのも忘れて、俺はその姿に呆けてしまった。こんなに美男だったか、とは癪だから言わねェが、男でも認めるほどにはその容姿は整っていて。
イゾウとは割と長い付き合いだが、その素の姿を見るのは風呂上がりぐらいしかなかった。それがどうしてこんな昼間に?と疑問を持たずにはいられない。
「…女か?」
「半分正解だ」
尋ねれば意外にも答えが返ってきて、けれど半分とはどういうことかと首を傾げれば、イゾウは船に乗っている1人の女の名前を挙げて、普段化粧っ気のないそいつが今日は化粧をしていたと話した。そして今日はそいつと停泊中の島へ出かけるのだと。
「女が飾り立ててるってのに男が台無しにしちゃァいけねェだろ」
俺は思わず目を見開いた。そして思わず口元が緩む。
良さそうな服が見つかったのか、イゾウは話しながらバサバサと服を脱ぎ手早く着替えていく。野郎の着替えを見る趣味はねェが、自分の服が違う組み合わせで着られ、しかもセンスがいいというのは少し面白い。
「ベルトあるか?」
「そっちだ。ジャケットはそっちがいいだろうよい」
「ああ、悪いな」
ゆるい形の柄シャツを広めに開け、全体が締まるようにジャケットを羽織る。深い海色の細身のズボンにベルトを締めれば。
「へェ…なかなかだねい」
「そいつはどうも」
野郎に褒められても嬉しかねェよ、と言いながらイゾウは少し乱れた髪を結び直し、その腰には愛用の銃を下げた。多少浮かれても隊長の自覚はしっかりしているという事か。
「恋に落ちたかい?」
軽い礼とともに部屋を出て行く背にそう投げれば、ピタリと動きが止まった。振り返ったイゾウの口元はにいっと弧を描いていて。
「いいや、今から撃ち落としてくるのさ」
バタンとドアが閉じた。俺は思わずくつくつと喉を鳴らす。
「ありゃ、逃す気がないねい」
普段のらりくらりと過ごしている男の本気はどれほどのものか。答えは本人が戻るまで分からないが、そもそも俺たちは海賊だ。
欲しいものは奪ってでも手に入れる、それが答えだろう。
※一番隊隊長視点
「服貸してくれ」
昼時にノックもろくにせず入ってきた男はそう言った。入る時は声をかけろと言おうとドアの方を見て、はたり、俺は思わず動きを止める。
「イゾウ…か?」
「ここに来るまでにその反応は飽きるほど貰ったさ。いいから、服貸せ、服」
思わず確認した俺にイゾウは呆れたような顔をしてそう言った。本人はそう言うが、俺が確認するほどには普段と見た目が異なっている事をどこまで自覚しているのかは分からない。
普段器用に結い上げられている黒髪は綺麗に一本にまとめられ、いつも食えない笑みを浮かべている口は今日はそれを潜め、ついでに紅も引かれていない。不機嫌そうに、というよりは焦っているのか「勝手に借りるぞ」と俺の衣類を漁ることに怒るのも忘れて、俺はその姿に呆けてしまった。こんなに美男だったか、とは癪だから言わねェが、男でも認めるほどにはその容姿は整っていて。
イゾウとは割と長い付き合いだが、その素の姿を見るのは風呂上がりぐらいしかなかった。それがどうしてこんな昼間に?と疑問を持たずにはいられない。
「…女か?」
「半分正解だ」
尋ねれば意外にも答えが返ってきて、けれど半分とはどういうことかと首を傾げれば、イゾウは船に乗っている1人の女の名前を挙げて、普段化粧っ気のないそいつが今日は化粧をしていたと話した。そして今日はそいつと停泊中の島へ出かけるのだと。
「女が飾り立ててるってのに男が台無しにしちゃァいけねェだろ」
俺は思わず目を見開いた。そして思わず口元が緩む。
良さそうな服が見つかったのか、イゾウは話しながらバサバサと服を脱ぎ手早く着替えていく。野郎の着替えを見る趣味はねェが、自分の服が違う組み合わせで着られ、しかもセンスがいいというのは少し面白い。
「ベルトあるか?」
「そっちだ。ジャケットはそっちがいいだろうよい」
「ああ、悪いな」
ゆるい形の柄シャツを広めに開け、全体が締まるようにジャケットを羽織る。深い海色の細身のズボンにベルトを締めれば。
「へェ…なかなかだねい」
「そいつはどうも」
野郎に褒められても嬉しかねェよ、と言いながらイゾウは少し乱れた髪を結び直し、その腰には愛用の銃を下げた。多少浮かれても隊長の自覚はしっかりしているという事か。
「恋に落ちたかい?」
軽い礼とともに部屋を出て行く背にそう投げれば、ピタリと動きが止まった。振り返ったイゾウの口元はにいっと弧を描いていて。
「いいや、今から撃ち落としてくるのさ」
バタンとドアが閉じた。俺は思わずくつくつと喉を鳴らす。
「ありゃ、逃す気がないねい」
普段のらりくらりと過ごしている男の本気はどれほどのものか。答えは本人が戻るまで分からないが、そもそも俺たちは海賊だ。
欲しいものは奪ってでも手に入れる、それが答えだろう。