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Izo

<賭け事>


「約束ですからね!!」

と得意げな顔で若干興奮気味に扉を閉められた。全く、と半ば少し呆れながらも俺はゆるりと笑ってしまうのを抑えられなかった。花札で遊んでいたのはついさっきで勝った方が一つ言うことを聞く、なんて賭け事をしたのだ。そしてわざと負けて今に至る。

 花札なんぞ親しみないだろうに一生懸命ちっこい頭を悩ませるおめえさんが無性に可愛くて一個ぐらい聞いてやろうと思ったのは気まぐれで、せっかく負けてやったのに「イゾウ隊長の正装が見たいです!」なんて笑ってしまう。接吻の一つでも強請ればいいものをと思うのは自分の欲だろうか。

 しゅるりと布擦れの音を聞きながらでもまあ、いつも化粧をして女形の格好をしているわけで、見たくなる気持ちも分かる気もするがと思う。男が惚れた女の服をひん剥きたくなるのと一緒だろう?なんて言ったらおめえさんは顔をリンゴのように真っ赤に染めやがるんだろうが。

 男物の着物は持っていないわけではねェが自分をより魅せるために久しく着てなかった。女を真似て美しく見せられるのは本当の色男だけだろう?

 着物を紺で揃え、おめえさんに貰った羽織紐で羽織りを留め、紅の代わりに目元に赤を。髪は下ろして緩く一本に結べば...こんなもんだろう。
 まあ男の格好の方が仕度はかからねェわな、と思いながら「いいぞ」とどうせいるのだろう廊下に向かって声をかければ予想通り勢いよく、けれど律儀に「失礼します!」と入ってきたおめえさんの目は見開かれ、見る間にぶわりと赤くなる。

あーァ、女がそうも美味そうにしてちゃァいけねェなァ。

 金魚のように顔を赤く、口をパクパクさせるばかりで声を発さないおめえさんにくつくつ笑いながら近づいて、すいっと顎を掬い上げた。よほど感動しているのか潤んだように見える目元。そんなに喜んで貰えるなら男冥利に尽きるって奴だがまだ足りねェ。

「何か言うことがあるんじゃねェか」

 なァ、聞かせてくれねえのかい?なんて白々しいが、聞きてェと思って何が悪い。真っ赤な顔のまま意を決したようにおめえさんが口を開く。

「...惚れました」

 素直な言葉に笑み一つ。

 俺は、「いい子だ」なんてこぼしてその愛らしい口にキスをした。
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