長編:一兎を奪ったそのあとで
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4.夢現
目が覚めてあれやこれやと検査を受けてふうっと一息ついたのは結局夜のことだった。
医務室に押しかけたみんなが騒いだせいでエーギルさんの雷が落ちたのはめちゃくちゃ怖かった。メスが飛んだ、文字通り。「静かにしないなら声帯切るけれどどうする?」なんて言われて誰が騒げるだろうか、いや誰も騒げまい。
「三ヶ月も眠ってたんですね」
「ああ、鼻つまんでも起きなかったな」
「……そんなことしてたんですか」
「ナースに叱られた」
「当たり前です」
「お前が悪い」
全く責めるようではない声でそう言いながら私で暖を取るかのようにあぐらの上で引き寄せられる。くてりとされるがままなのはものすごく筋力が落ちてしまったのもあるけれど、手首に付けられている腕輪のせいでもある。
「海に落っこちるだけじゃないんですね」
「海楼石も能力者の力を奪う。……怠いだろう」
「ん、ちょっと支えてもらわないと……すみません」
「いい。役得だ」
「……はずしたらダメなんですか?」
尋ねて返ってきたのは無言。それからするっと服の上から二の腕を撫でられた。少しの沈黙の後イゾウさんは言った。
「寝てる間に腕に埋め込まれてたのをはずした時、お前がウサギになったのを見てな」
「はい」
「エースが『うまそう』つって、俺がキレた」
「……食べられるのは勘弁したいですね」
「だろう?」
ベッドの上。イゾウさんの部屋にベッドはないけど、イゾウさんが我が儘を言ってベッドを入れたらしい。
私は医務室でいいと言ったし、イゾウさんが部屋に私を置きたいのなら布団でいいとも言ったのだけれど体に負担がかかるから布団はダメだとナースさんたちが言って。
部屋の匂いはイゾウさんの匂いなのに、ベッドからは医務室の薬品の匂いでなんだか変な感じがする。
検査をたくさん受けたせいか、腕輪のせいか体が重くて眠い。でもここではあまり眠りたくなくて。
「イゾウさん」
「……医者に怒られんぞ」
「一緒に怒られてください」
力のない手で襟を引けば、仕方ないと言いたげに抱き上げられてイゾウさんが床に足をついた。ゆったりと短い距離を歩いて布団まで。寝巻きからすいっと足が伸びて掛け布団を軽く蹴る。行儀は悪いけど私を抱き上げてくれてるから仕方ない。
コロリと布団の上に転がされてすぐにイゾウさんも横になったかと思うとバサリと布団をかけられる。コロンと転がって向かい合えば、暗闇の中でじいっとイゾウさんがこちらを見ているのが分かった。
「……久しぶりだな」
「ですね」
「お前が目を覚さねえから」
「ごめんなさい」
「少しずつ体力戻せ。それからマルコに能力の使い方を習え」
「……怒っていますか?」
尋ねたことに返事は返ってこなかった。代わりのように抱き寄せられて焦がれた匂いが肺いっぱいに満たされた。
怒ってはないと思う。でもなんだろうな。分からないけれどきっと三ヶ月の間でイゾウさんになにか負担をかけてしまったのは確かで、少しでも詫びる気持ちがあるなら彼の願いは聞くべきだろう。
「おやすみなさい」
「……ああ。目を覚ませよ」
不安に揺れるような言葉が落ちる。今答えるのは違う気がして、私はそっと目を閉じた。
目が覚めてあれやこれやと検査を受けてふうっと一息ついたのは結局夜のことだった。
医務室に押しかけたみんなが騒いだせいでエーギルさんの雷が落ちたのはめちゃくちゃ怖かった。メスが飛んだ、文字通り。「静かにしないなら声帯切るけれどどうする?」なんて言われて誰が騒げるだろうか、いや誰も騒げまい。
「三ヶ月も眠ってたんですね」
「ああ、鼻つまんでも起きなかったな」
「……そんなことしてたんですか」
「ナースに叱られた」
「当たり前です」
「お前が悪い」
全く責めるようではない声でそう言いながら私で暖を取るかのようにあぐらの上で引き寄せられる。くてりとされるがままなのはものすごく筋力が落ちてしまったのもあるけれど、手首に付けられている腕輪のせいでもある。
「海に落っこちるだけじゃないんですね」
「海楼石も能力者の力を奪う。……怠いだろう」
「ん、ちょっと支えてもらわないと……すみません」
「いい。役得だ」
「……はずしたらダメなんですか?」
尋ねて返ってきたのは無言。それからするっと服の上から二の腕を撫でられた。少しの沈黙の後イゾウさんは言った。
「寝てる間に腕に埋め込まれてたのをはずした時、お前がウサギになったのを見てな」
「はい」
「エースが『うまそう』つって、俺がキレた」
「……食べられるのは勘弁したいですね」
「だろう?」
ベッドの上。イゾウさんの部屋にベッドはないけど、イゾウさんが我が儘を言ってベッドを入れたらしい。
私は医務室でいいと言ったし、イゾウさんが部屋に私を置きたいのなら布団でいいとも言ったのだけれど体に負担がかかるから布団はダメだとナースさんたちが言って。
部屋の匂いはイゾウさんの匂いなのに、ベッドからは医務室の薬品の匂いでなんだか変な感じがする。
検査をたくさん受けたせいか、腕輪のせいか体が重くて眠い。でもここではあまり眠りたくなくて。
「イゾウさん」
「……医者に怒られんぞ」
「一緒に怒られてください」
力のない手で襟を引けば、仕方ないと言いたげに抱き上げられてイゾウさんが床に足をついた。ゆったりと短い距離を歩いて布団まで。寝巻きからすいっと足が伸びて掛け布団を軽く蹴る。行儀は悪いけど私を抱き上げてくれてるから仕方ない。
コロリと布団の上に転がされてすぐにイゾウさんも横になったかと思うとバサリと布団をかけられる。コロンと転がって向かい合えば、暗闇の中でじいっとイゾウさんがこちらを見ているのが分かった。
「……久しぶりだな」
「ですね」
「お前が目を覚さねえから」
「ごめんなさい」
「少しずつ体力戻せ。それからマルコに能力の使い方を習え」
「……怒っていますか?」
尋ねたことに返事は返ってこなかった。代わりのように抱き寄せられて焦がれた匂いが肺いっぱいに満たされた。
怒ってはないと思う。でもなんだろうな。分からないけれどきっと三ヶ月の間でイゾウさんになにか負担をかけてしまったのは確かで、少しでも詫びる気持ちがあるなら彼の願いは聞くべきだろう。
「おやすみなさい」
「……ああ。目を覚ませよ」
不安に揺れるような言葉が落ちる。今答えるのは違う気がして、私はそっと目を閉じた。