学パロシリーズ
消えるイゾウくん
イゾウ君はいつもいない。
「おーい、席つけー」
先生がゆるい声をかけながら教室に入ってくる。廊下側の後ろから2番目の席はまだ空席だ。
ホームルームに彼がこないのはもう分かっている事。でも授業中はちゃんといるのだからどこかのタイミングで教室に入ってくるはずで。
「あ」
思わず声が漏れたのは先生が出席確認している時。「欠席はねェな。今日も1日がんばれよー」と笑ったタイミングですっと音もなくイゾウ君は教室に入ってきて平然と席に着いた。ああこのタイミングで教室に来るんだなあと分かったものの、次に気になるのはどこにいたのかということで。
「ううん……どうしたら分かるんだろ……?」
いつも消えるイゾウ君の謎を解明しようとした人は他にもいる。でも聞くところによると、跡をつけてもどういうわけか絶対に巻かれるのだとか。……本当にどういうことなのか。廊下はまっすぐなはずなのに消えるなんてどこのマジックショーだろうか……。
ちなみに声をかけるとのらりくらりと交わされいつのまにかあしらわれているか、あんまりしつこくするとその時の会話には付き合ってくれるがそのままいつも彼がいるはずのところには絶対に行かないし、そのあと暫くは会話をしてくれないらしい。物理的に彼に避けられると聞いた。それをやられたクラスメイトは心が折れていた。元気出して欲しい。
できればそれは避けたい、そう思ったら大人しく偶然という機会を待つしかなくて、でも、そんな偶然。
「あったならもう誰か会ってるはず、え……?」
ドアを開けたまま思わずフリーズ。一旦そっと静かに閉じて上を見上げて『資料室』と書かれているのを確認。そう、私は先生に頼まれた資料を取りに来た、うん。間違っていないことを確認して意を決してもう一度ドアを開けるとやっぱり。
「うそ……」
狭い資料室。奥に無理やり置かれた古いソファーに寝ているのは何回瞬きしてもイゾウ君で。え、いや、確かにここならあまり人は来ないだろうけども。
まさかこんなところにいるとは思わず目を見張ってしまった。それから細く息を吐いて静かにまた扉を閉めた。いや、だって。
あんなに美人さんだったっけ?なんて言ったら失礼か。でも古い2人がけのソファーにがっつり体を預けて足まで組んで寝ているイゾウ君はすごく、ものすごく綺麗で、彫刻のようだと言っても過言ではなかった。
あんなの反則だ。そして確かに彼は教室にいなくて正解だ。あんな綺麗な顔で教室で寝てたらジロジロ見られるだろうし写真も撮られて鬱陶しいことこの上ないに違いない。
「あれ、お前資料取りに行ってくれたんじゃないのか?」
「あ……」
ぼうっとしてたらいつの間にか教室にいて、頼んだ資料を持っていない私に先生が首を傾げていた。しまった、ぼうっとしすぎた!と慌てて「すみません!忘れました!」と踵を返せばぼすんと何かにぶつかった。
「俺を荷物持ちにするのはおめえさんぐれェだな」
見上げればイゾウ君。教室の小さな悲鳴は私の心の代弁か。代わりに資料を持って来てくれたらしいイゾウ君は先生に渡すと私に目を向け「そそっかしいな」と薄く笑った。
これぞ視界の暴力。やっぱりイゾウ君は教室にいなくて正解だ。私は心臓発作で死にたくはない。
そう、思っていたのに。
「おはようさん」
次の日からなぜか綺麗な笑みとともに挨拶をされるようになった。
イゾウ君はちょっとだけ教室にいる。ちょっとだけいてちょっとだけ私をからかってどこかに消える。ちなみに消える場所はもう資料室じゃないらしい。
イゾウ君はいつもいない。
「おーい、席つけー」
先生がゆるい声をかけながら教室に入ってくる。廊下側の後ろから2番目の席はまだ空席だ。
ホームルームに彼がこないのはもう分かっている事。でも授業中はちゃんといるのだからどこかのタイミングで教室に入ってくるはずで。
「あ」
思わず声が漏れたのは先生が出席確認している時。「欠席はねェな。今日も1日がんばれよー」と笑ったタイミングですっと音もなくイゾウ君は教室に入ってきて平然と席に着いた。ああこのタイミングで教室に来るんだなあと分かったものの、次に気になるのはどこにいたのかということで。
「ううん……どうしたら分かるんだろ……?」
いつも消えるイゾウ君の謎を解明しようとした人は他にもいる。でも聞くところによると、跡をつけてもどういうわけか絶対に巻かれるのだとか。……本当にどういうことなのか。廊下はまっすぐなはずなのに消えるなんてどこのマジックショーだろうか……。
ちなみに声をかけるとのらりくらりと交わされいつのまにかあしらわれているか、あんまりしつこくするとその時の会話には付き合ってくれるがそのままいつも彼がいるはずのところには絶対に行かないし、そのあと暫くは会話をしてくれないらしい。物理的に彼に避けられると聞いた。それをやられたクラスメイトは心が折れていた。元気出して欲しい。
できればそれは避けたい、そう思ったら大人しく偶然という機会を待つしかなくて、でも、そんな偶然。
「あったならもう誰か会ってるはず、え……?」
ドアを開けたまま思わずフリーズ。一旦そっと静かに閉じて上を見上げて『資料室』と書かれているのを確認。そう、私は先生に頼まれた資料を取りに来た、うん。間違っていないことを確認して意を決してもう一度ドアを開けるとやっぱり。
「うそ……」
狭い資料室。奥に無理やり置かれた古いソファーに寝ているのは何回瞬きしてもイゾウ君で。え、いや、確かにここならあまり人は来ないだろうけども。
まさかこんなところにいるとは思わず目を見張ってしまった。それから細く息を吐いて静かにまた扉を閉めた。いや、だって。
あんなに美人さんだったっけ?なんて言ったら失礼か。でも古い2人がけのソファーにがっつり体を預けて足まで組んで寝ているイゾウ君はすごく、ものすごく綺麗で、彫刻のようだと言っても過言ではなかった。
あんなの反則だ。そして確かに彼は教室にいなくて正解だ。あんな綺麗な顔で教室で寝てたらジロジロ見られるだろうし写真も撮られて鬱陶しいことこの上ないに違いない。
「あれ、お前資料取りに行ってくれたんじゃないのか?」
「あ……」
ぼうっとしてたらいつの間にか教室にいて、頼んだ資料を持っていない私に先生が首を傾げていた。しまった、ぼうっとしすぎた!と慌てて「すみません!忘れました!」と踵を返せばぼすんと何かにぶつかった。
「俺を荷物持ちにするのはおめえさんぐれェだな」
見上げればイゾウ君。教室の小さな悲鳴は私の心の代弁か。代わりに資料を持って来てくれたらしいイゾウ君は先生に渡すと私に目を向け「そそっかしいな」と薄く笑った。
これぞ視界の暴力。やっぱりイゾウ君は教室にいなくて正解だ。私は心臓発作で死にたくはない。
そう、思っていたのに。
「おはようさん」
次の日からなぜか綺麗な笑みとともに挨拶をされるようになった。
イゾウ君はちょっとだけ教室にいる。ちょっとだけいてちょっとだけ私をからかってどこかに消える。ちなみに消える場所はもう資料室じゃないらしい。
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