200スキ記念リク
嫉妬にご注意:Beckman
私の恋人はとっても大人で聡明な我らの副船長。
破天荒なお頭をいつも冷静にサポートする彼の苦労はどれほどだろうかと、賑やかな甲板を眺めながら思う。確かそうお頭に言ったら「お前の方がベックに苦労かけてると思うがな」と言われたのは最近のことだが、それだけは解せない。
「いい加減にしろよい!!赤髪ィ!!」
「だっはっは!!やっぱりマルコうちに来いよ!」
「誰が行くかよい!!」
白ひげ海賊団との宴はたまに開かれる。互いに好きな時に落ち合って飲むことになっているらしいのだけれど、大抵はうちのお頭が気まぐれに「飲みに行こう!」という一言でそれは開催される。
航路もログも、予定も無視。航海士の胃痛と副船長の頭痛の原因は大抵これだ。まあ、今に始まったことではないからすぐに『ヨーソロー!』と笑いに変わってしまうのだけれど。……いや、今回は違ったな。
『ベック、なんでそんなに不機嫌なの?』
『いや……お前は野郎どもの輪に入るなよ』
宴はいつも白ひげ海賊団の方の船で行われるから支度をしていれば不機嫌そうなベックがドアにもたれかかって立っていて目を瞬かせたのはさっきのことだ。
わざわざ言われなくとも酒に飲まれた男たちの相手はするのは面倒だし、そもそも敵船であることは変わりないので羽目を外すわけがない。意図が読めず、首を傾げつつも素直に「はい」と返事をすればたばこの煙を吹きかけられて。せき込んでいるところを一瞬抱き込まれたあれは一体何だったのだろうか。
余り表情は変わっていないが、酒の進みは悪くたばこの吸い殻が山のように増えていく恋人を遠くから眺めていればふっと落ちた影。
「赤髪海賊団一、いい女がこんな端にいていいのかい?」
ふわりと鼻を掠めたのは上品な匂い。視界を遮るように立ったのは、白ひげ海賊団16番隊隊長。多少気を抜いていたとは言え、気配がなかったのはさすがだ。
「お褒めいただき光栄ですけど、その辺の女性より綺麗な方に言われても微妙ですね」
「おや、口が上手なことで。だが、つれねェなァ……」
伸びてくる手。それに敵意がなかったから避けずにいればさらりと髪を揺らされた。それから「いい趣味だな」と言われるから何がと尋ねればとんとんと鼻を指される。
「……貴方の匂いでは?」
「とぼけてるのか、馴染むほど一緒にいるのかどっちかねェ。まあ、どっちでもいいが」
少しぐらい遊ばねェか?
すいっとあごを掬われ少しかがまれて落とされた言葉はたぶんそう言ったのだと思う。たぶんと言うのは、失礼ながら私も必死だったからちょっとよく聞き取れなかったのだ。
16番隊隊長が一歩近づき私の顎に触れた瞬間、飛んできたのは死を覚悟するほどの殺気。それはよく知っているもので私に向けられているものではないと知りつつも、とっさの判断で横に跳躍したのは我ながら冴えていたと思う。
……響いた銃声が一つだったのは同時だったからだ。たばこを燻らす私の恋人も、紅の引かれた唇を持ち上げている16番隊長も得物をまっすぐに互いに向けていて。
「怖ェなァ」
怖いと言うならくすくす笑うのを今すぐにやめて欲しい。
「奪うつもりなら相手をするが?」
「名前も首輪もついてねェものに奪うも何もねェと思わないかい?」
いつの間にかどんちゃん騒ぎが止まっている。静かな牽制の中、すうっとベックの目がこっちに向いた。瞬時に反応して駆けよればすぐに抱き込まれて、何かを確かめるように首元に顔を寄せられた。それから何かを落ち着けるように大きく息を吐くものだから、顔を覗き込めばぎゅっと眉間に皺を寄せている。
「ベック?」
どうしたの、と尋ねた言葉に返事は返ってこなかった。代わりのようにまたあの楽し気で恐ろしい控えめな笑い声が背の方からして。
「匂いなんて簡単に上書きできンだろ?」
その瞬間、首に鋭い痛み。悲鳴をあげなかったのは奇跡だと思う。
「これは俺の女だ」
獣がうなるような声をけたけた笑う声にもうやめてくれと思ったのは私だけじゃないらしく、さっきまでお頭と痴話喧嘩していたはずの1番隊隊長が止めに入ってくれた。
私は呆然としつつ首を押さえた手の平を見た。どれだけ強く噛んだのか知らないがそれなりに血が出ている。
「……あの、ベック」
「……なんだ」
見上げればほんの少しだけ拗ねたようなベックの顔。
「嫉妬は嬉しいけど、爆発させる前に言葉にして……」
「努力する」
あ、それしてくれないやつ……。私は若干頭痛を覚えて額を押さえた。
再び賑やかな声が戻る中、お頭に「な、お前の方が苦労駆けてるだろ?」と笑いながら言われたが、笑い事ではない。
聡明な恋人。いつも冷静で大人だと思っていたけれど、どうやら少し嫉妬深いらしい。
「死にたくなかったらベックに嫉妬させるなよ」
「……冗談ですよね?」
「だとよ、ベック」
「お頭、今日はもう部屋に戻っていいか」
「分かった!!分かりましたから!!」
結局必死に分かったと言ったのに連行された部屋はたばこの匂いで満たされていて。
その匂いと首の痕が染みつくまで離してもらえなかったのは言うまでもない。
リクエスト
「なかなか表情や行動に出ないだけで実はすごく嫉妬してるベックマンと、それに気づかないヒロインに対して耐えきれず気づかせるベックのお話」
または
「イゾウさんに弄ばれるお話」
どちらかで、と言うことでしたがもったいなかったので組み合わせて書かせていただきました。
碧さん、リクエストありがとうございました!
私の恋人はとっても大人で聡明な我らの副船長。
破天荒なお頭をいつも冷静にサポートする彼の苦労はどれほどだろうかと、賑やかな甲板を眺めながら思う。確かそうお頭に言ったら「お前の方がベックに苦労かけてると思うがな」と言われたのは最近のことだが、それだけは解せない。
「いい加減にしろよい!!赤髪ィ!!」
「だっはっは!!やっぱりマルコうちに来いよ!」
「誰が行くかよい!!」
白ひげ海賊団との宴はたまに開かれる。互いに好きな時に落ち合って飲むことになっているらしいのだけれど、大抵はうちのお頭が気まぐれに「飲みに行こう!」という一言でそれは開催される。
航路もログも、予定も無視。航海士の胃痛と副船長の頭痛の原因は大抵これだ。まあ、今に始まったことではないからすぐに『ヨーソロー!』と笑いに変わってしまうのだけれど。……いや、今回は違ったな。
『ベック、なんでそんなに不機嫌なの?』
『いや……お前は野郎どもの輪に入るなよ』
宴はいつも白ひげ海賊団の方の船で行われるから支度をしていれば不機嫌そうなベックがドアにもたれかかって立っていて目を瞬かせたのはさっきのことだ。
わざわざ言われなくとも酒に飲まれた男たちの相手はするのは面倒だし、そもそも敵船であることは変わりないので羽目を外すわけがない。意図が読めず、首を傾げつつも素直に「はい」と返事をすればたばこの煙を吹きかけられて。せき込んでいるところを一瞬抱き込まれたあれは一体何だったのだろうか。
余り表情は変わっていないが、酒の進みは悪くたばこの吸い殻が山のように増えていく恋人を遠くから眺めていればふっと落ちた影。
「赤髪海賊団一、いい女がこんな端にいていいのかい?」
ふわりと鼻を掠めたのは上品な匂い。視界を遮るように立ったのは、白ひげ海賊団16番隊隊長。多少気を抜いていたとは言え、気配がなかったのはさすがだ。
「お褒めいただき光栄ですけど、その辺の女性より綺麗な方に言われても微妙ですね」
「おや、口が上手なことで。だが、つれねェなァ……」
伸びてくる手。それに敵意がなかったから避けずにいればさらりと髪を揺らされた。それから「いい趣味だな」と言われるから何がと尋ねればとんとんと鼻を指される。
「……貴方の匂いでは?」
「とぼけてるのか、馴染むほど一緒にいるのかどっちかねェ。まあ、どっちでもいいが」
少しぐらい遊ばねェか?
すいっとあごを掬われ少しかがまれて落とされた言葉はたぶんそう言ったのだと思う。たぶんと言うのは、失礼ながら私も必死だったからちょっとよく聞き取れなかったのだ。
16番隊隊長が一歩近づき私の顎に触れた瞬間、飛んできたのは死を覚悟するほどの殺気。それはよく知っているもので私に向けられているものではないと知りつつも、とっさの判断で横に跳躍したのは我ながら冴えていたと思う。
……響いた銃声が一つだったのは同時だったからだ。たばこを燻らす私の恋人も、紅の引かれた唇を持ち上げている16番隊長も得物をまっすぐに互いに向けていて。
「怖ェなァ」
怖いと言うならくすくす笑うのを今すぐにやめて欲しい。
「奪うつもりなら相手をするが?」
「名前も首輪もついてねェものに奪うも何もねェと思わないかい?」
いつの間にかどんちゃん騒ぎが止まっている。静かな牽制の中、すうっとベックの目がこっちに向いた。瞬時に反応して駆けよればすぐに抱き込まれて、何かを確かめるように首元に顔を寄せられた。それから何かを落ち着けるように大きく息を吐くものだから、顔を覗き込めばぎゅっと眉間に皺を寄せている。
「ベック?」
どうしたの、と尋ねた言葉に返事は返ってこなかった。代わりのようにまたあの楽し気で恐ろしい控えめな笑い声が背の方からして。
「匂いなんて簡単に上書きできンだろ?」
その瞬間、首に鋭い痛み。悲鳴をあげなかったのは奇跡だと思う。
「これは俺の女だ」
獣がうなるような声をけたけた笑う声にもうやめてくれと思ったのは私だけじゃないらしく、さっきまでお頭と痴話喧嘩していたはずの1番隊隊長が止めに入ってくれた。
私は呆然としつつ首を押さえた手の平を見た。どれだけ強く噛んだのか知らないがそれなりに血が出ている。
「……あの、ベック」
「……なんだ」
見上げればほんの少しだけ拗ねたようなベックの顔。
「嫉妬は嬉しいけど、爆発させる前に言葉にして……」
「努力する」
あ、それしてくれないやつ……。私は若干頭痛を覚えて額を押さえた。
再び賑やかな声が戻る中、お頭に「な、お前の方が苦労駆けてるだろ?」と笑いながら言われたが、笑い事ではない。
聡明な恋人。いつも冷静で大人だと思っていたけれど、どうやら少し嫉妬深いらしい。
「死にたくなかったらベックに嫉妬させるなよ」
「……冗談ですよね?」
「だとよ、ベック」
「お頭、今日はもう部屋に戻っていいか」
「分かった!!分かりましたから!!」
結局必死に分かったと言ったのに連行された部屋はたばこの匂いで満たされていて。
その匂いと首の痕が染みつくまで離してもらえなかったのは言うまでもない。
リクエスト
「なかなか表情や行動に出ないだけで実はすごく嫉妬してるベックマンと、それに気づかないヒロインに対して耐えきれず気づかせるベックのお話」
または
「イゾウさんに弄ばれるお話」
どちらかで、と言うことでしたがもったいなかったので組み合わせて書かせていただきました。
碧さん、リクエストありがとうございました!
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