七夕2019
七夕の話:イゾウ
『ええ……。そっちは宴なんですか』
「ああ」
『ずるい……』と溢す電話越しの声に俺はくすくすと笑い声。『笑い事じゃない!お酒が飲みたい!』と言う彼女には悪いが、きっとぷんすか頬を膨らませて言っているのだろうと思うと余計に可笑しくて俺は笑いがこらえられなかった。
今日は七夕。七夕、なんて行事を家族が知っているかといえばそれは少数なのだけれど、「宴がしたい」と言えば二つ返事で「やろう!」と言うのは全員だ。天気も良く、ちょうど航路も星がよく見える。甲板で家族がどんちゃん騒ぐ声を背に、俺は船尾で遠征に出かけている彼女に電話をかけていた。
『イゾウ隊長いま絶対おいしいお酒飲んでるでしょ』
「よくわかったな」
『あ~もう~!!残しておいてくださいよ~!?』
一緒に飲みたいと思っているのはどうやら自分だけじゃないらしい。そのことに喜びを感じながら俺は夜空を見上げて杯を煽った。すっきりとした清酒が喉を通り、心地よく胃を焼いた。心地よい声を耳に同じように何度かそうして杯を煽っていれば、その熱がじんわりと胸にまで到達して、柄にもなく少しだけ――。
『……会いたいなぁ』
一瞬心が読まれたのかと思って息が止まった。寸でのところで音を立てずに済んだが、電話の向こうがそれっきり静かになるものだから俺は顔を覆ってはは、と笑いを溢した。答える声はない。だが、それだから余計に強い願いなのだと分かって、どうしようもない切なさと幸福感が胸を満たした。
「会えねェと恋焦がれる時間もいいもんさ」
くだらない男の見栄。会いたいと思っているのは俺もだ、と言ってやればいいものをと思いつつ、そう言ってしまうのは少しかっこ悪ィ気がして。
「好きだぜ」
気を付けて帰って来い、と続けた言葉には「うん」と優しくも元気な声が返ってきて、互いに「おやすみ」と溢せばそのすぐ後に電話は切れた。
片手に受話器を掴んだまま、満天の空の下に倒れ込んだ。そしてこぼした言葉は誰も聞いていないだろう。
「数日でもこれなのに、一年ってのは尊敬するな」
恋焦がれるにも限度ってもんがある。俺は一年も待ってやらねぞ、と明日には帰ってくるだろう彼女のことを思った。
『ええ……。そっちは宴なんですか』
「ああ」
『ずるい……』と溢す電話越しの声に俺はくすくすと笑い声。『笑い事じゃない!お酒が飲みたい!』と言う彼女には悪いが、きっとぷんすか頬を膨らませて言っているのだろうと思うと余計に可笑しくて俺は笑いがこらえられなかった。
今日は七夕。七夕、なんて行事を家族が知っているかといえばそれは少数なのだけれど、「宴がしたい」と言えば二つ返事で「やろう!」と言うのは全員だ。天気も良く、ちょうど航路も星がよく見える。甲板で家族がどんちゃん騒ぐ声を背に、俺は船尾で遠征に出かけている彼女に電話をかけていた。
『イゾウ隊長いま絶対おいしいお酒飲んでるでしょ』
「よくわかったな」
『あ~もう~!!残しておいてくださいよ~!?』
一緒に飲みたいと思っているのはどうやら自分だけじゃないらしい。そのことに喜びを感じながら俺は夜空を見上げて杯を煽った。すっきりとした清酒が喉を通り、心地よく胃を焼いた。心地よい声を耳に同じように何度かそうして杯を煽っていれば、その熱がじんわりと胸にまで到達して、柄にもなく少しだけ――。
『……会いたいなぁ』
一瞬心が読まれたのかと思って息が止まった。寸でのところで音を立てずに済んだが、電話の向こうがそれっきり静かになるものだから俺は顔を覆ってはは、と笑いを溢した。答える声はない。だが、それだから余計に強い願いなのだと分かって、どうしようもない切なさと幸福感が胸を満たした。
「会えねェと恋焦がれる時間もいいもんさ」
くだらない男の見栄。会いたいと思っているのは俺もだ、と言ってやればいいものをと思いつつ、そう言ってしまうのは少しかっこ悪ィ気がして。
「好きだぜ」
気を付けて帰って来い、と続けた言葉には「うん」と優しくも元気な声が返ってきて、互いに「おやすみ」と溢せばそのすぐ後に電話は切れた。
片手に受話器を掴んだまま、満天の空の下に倒れ込んだ。そしてこぼした言葉は誰も聞いていないだろう。
「数日でもこれなのに、一年ってのは尊敬するな」
恋焦がれるにも限度ってもんがある。俺は一年も待ってやらねぞ、と明日には帰ってくるだろう彼女のことを思った。
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