七夕2019
七夕の話:ハルタ
「……何してるの、君」
「あ、やっぱりいらっしゃいましたね」
マストの上でぶらぶらと足を揺らしていればトンと軽い音がしてやって来たのはハルタ隊長。彼はよくマストの上にいるのでこうして待っていれば来ると予想していたけれど当たるとやっぱりうれしくて、思わずふふっと笑えば落とされたのは溜息一つ。
「物好きだね」
「隊長を慕うのは悪いことじゃないですよね?」
「まあね。だから、物好きだって言ってるじゃん」
無理して慕わなくてもいいんだよ、といわれるけれどとんでもない。私は好きでハルタ隊長を慕っているのだから。そう言えばハルタ隊長はもう一度溜息をつきつつ私の横に座った。肩が触れそうなほどの距離に少しだけ胸が高鳴ったのは気づかれただろうか。
「今日は七夕なんでしょ」
「そうですね。だから宴だって言ってましたよ」
ちらりと下を見れば賑やかな家族たち。まだ始まったばかりだから潰れている人たちはいないが時間の問題だろう。
「君、願い事ないの?」
しばらく眺めていれば、唐突に落とされた意外な言葉に瞬きパチリ。
だってハルタ隊長は現実主義だ。いくら七夕とは言え空に、星に、神様に願いましょうなんて絶対に言うはずがない。困惑していればハルタ隊長がくすっと笑った。こちらを見る猫のような目が一瞬細くなって「よくわかってんじゃん」と溢された。どうやら顔に出ていたらしい。
「そう。僕は気休めが嫌いだよ。だから、もし願い事を言うなら現実的なことにしてね」
「つまり、叶えられるものを言えってことですか?」
「うん」
にこにこと効果音がつきそうなほどいい笑顔の隊長が、じいっとこちらを見ている。私は少しだけ考えて、じゃあと願いを口にした。
「ずっとハルタ隊長の隊にいさせてください」
「移動できると思っているところが図々しいよね。はい、次」
「……もし私が死んだら悲しんでください」
「死ぬかもって思ってるところが気に食わない。あと、僕のことそんなに冷徹な男だと思ってるの?次」
「…………おいしいもの食べたいです」
「サッチに頼みなよ、君ってバカ?次」
口にした願いをことごとく一刀両断され私はついに膝を抱えた。ハルタ隊長はけらけらと笑っていて楽しそうだが、笑い事ではない。
「君ってお願いするのへったくそだね」
「ハルタ隊長が意地悪なんだと思うのですが」
「お願いするときはね、素直じゃないといけないんだよ」
どういうことですか?と尋ねようとしたが言葉にならなかった。グイっと肩を引かれて気づいたときにはハルタ隊長の顔が真横にあって。
ね、本当の願い事はなあに?
急に耳元に落とされたささやきと吐息に思いっきり肩を跳ねさせた。すっかりマストの上だと言うことを失念していた私はそのままずるっと落下する。
「ほんっと間抜けだね」
ぎゅうっと目をつぶった暗闇の中。聞こえたのはそんな声。そして柔らかい衝撃の後、とんと軽く着地した音。そうっと目を目を開ければ、私を抱えてくれているらしい、ハルタ隊長の少し呆れた顔が間近にあった。
「で?君の願い事は?」
ばくばくと波打っている心臓は、落下のせいかそれとも――。小さな声で落とした願い事に「よくできました」とハルタ隊長が笑った。
「……何してるの、君」
「あ、やっぱりいらっしゃいましたね」
マストの上でぶらぶらと足を揺らしていればトンと軽い音がしてやって来たのはハルタ隊長。彼はよくマストの上にいるのでこうして待っていれば来ると予想していたけれど当たるとやっぱりうれしくて、思わずふふっと笑えば落とされたのは溜息一つ。
「物好きだね」
「隊長を慕うのは悪いことじゃないですよね?」
「まあね。だから、物好きだって言ってるじゃん」
無理して慕わなくてもいいんだよ、といわれるけれどとんでもない。私は好きでハルタ隊長を慕っているのだから。そう言えばハルタ隊長はもう一度溜息をつきつつ私の横に座った。肩が触れそうなほどの距離に少しだけ胸が高鳴ったのは気づかれただろうか。
「今日は七夕なんでしょ」
「そうですね。だから宴だって言ってましたよ」
ちらりと下を見れば賑やかな家族たち。まだ始まったばかりだから潰れている人たちはいないが時間の問題だろう。
「君、願い事ないの?」
しばらく眺めていれば、唐突に落とされた意外な言葉に瞬きパチリ。
だってハルタ隊長は現実主義だ。いくら七夕とは言え空に、星に、神様に願いましょうなんて絶対に言うはずがない。困惑していればハルタ隊長がくすっと笑った。こちらを見る猫のような目が一瞬細くなって「よくわかってんじゃん」と溢された。どうやら顔に出ていたらしい。
「そう。僕は気休めが嫌いだよ。だから、もし願い事を言うなら現実的なことにしてね」
「つまり、叶えられるものを言えってことですか?」
「うん」
にこにこと効果音がつきそうなほどいい笑顔の隊長が、じいっとこちらを見ている。私は少しだけ考えて、じゃあと願いを口にした。
「ずっとハルタ隊長の隊にいさせてください」
「移動できると思っているところが図々しいよね。はい、次」
「……もし私が死んだら悲しんでください」
「死ぬかもって思ってるところが気に食わない。あと、僕のことそんなに冷徹な男だと思ってるの?次」
「…………おいしいもの食べたいです」
「サッチに頼みなよ、君ってバカ?次」
口にした願いをことごとく一刀両断され私はついに膝を抱えた。ハルタ隊長はけらけらと笑っていて楽しそうだが、笑い事ではない。
「君ってお願いするのへったくそだね」
「ハルタ隊長が意地悪なんだと思うのですが」
「お願いするときはね、素直じゃないといけないんだよ」
どういうことですか?と尋ねようとしたが言葉にならなかった。グイっと肩を引かれて気づいたときにはハルタ隊長の顔が真横にあって。
ね、本当の願い事はなあに?
急に耳元に落とされたささやきと吐息に思いっきり肩を跳ねさせた。すっかりマストの上だと言うことを失念していた私はそのままずるっと落下する。
「ほんっと間抜けだね」
ぎゅうっと目をつぶった暗闇の中。聞こえたのはそんな声。そして柔らかい衝撃の後、とんと軽く着地した音。そうっと目を目を開ければ、私を抱えてくれているらしい、ハルタ隊長の少し呆れた顔が間近にあった。
「で?君の願い事は?」
ばくばくと波打っている心臓は、落下のせいかそれとも――。小さな声で落とした願い事に「よくできました」とハルタ隊長が笑った。