Happy Birthday Marco ‼︎ (2019)
海賊なら、海が一生の恋人だろ?
いつの日か、無駄に凝ったふざけた髪をした兄弟が得意げにそう言っていたのをマルコは思い出した。確かあの時は末の弟も横にいたんだったか。久しぶりの停泊。その言葉は数日の停泊でいい女に振られた男のただの負け惜しみの言葉だ。それを嘲るように笑えば、騒がしいその男は「マルコだってそうだろ?海に恋してなきゃ、海には出ねえし、まして海賊になんかならねえはずだ」と鼻息を荒くして言うものだから鬱陶しいことこの上なかったのを鮮明に覚えている。その時なんと答えたのだったか。いつものように蹴り飛ばしたんだったか。うるせぇと一蹴したのだったか。ただ覚えているのはその時の海は青くどこまでも続いていて、ただただそれが愛おしかったことだ。
不死鳥マルコはその名の通り、その身を不死鳥へと姿を変える。海の青と、空の青、宝石のエメラルドを混ぜたような煌めく炎を纏い羽ばたく姿は、海兵をも魅了した。美しさに付随するその強さは誰もが知るところであり、どんな攻撃さえもその身をもってほぼ無効とする姿は思わず跪きたくなるほど神々しかった。
その大きな翼を広げ守っていたのはモビー・ディック号とそのクルー。白ひげ海賊団のクルーはみな家族であり、家族に手を出せばどうなるかということは有名な話だった。船長であるエドワード・ニューゲートは愛をもってクルーをみな「息子」と呼び、息子たちもそれに敬意を払い彼を「親父」と呼んだ。偉大な親父。それを支える麗しのナース。どうしようもなく馬鹿でそれでも頼れる兄弟。海賊だと言うのにその「家族」と過ごす時間はどんな困難があろうとも幸せで……幸せだったのだと今更ながらにマルコは何度も思い出していた。
「毎日バカやってな、兄弟どもはうるせェし、仕事はさぼるし、喧嘩はするし、親父も親父で何度注意したって酒を水のように飲みやがって……本当に手のかかる奴らばかりだったよい。でも、それがたまらなく幸せでねい。俺も沢山馬鹿をやった」
気持ちの良い風が通り抜ける小高い丘。見晴らしのいいここには墓が二つあり、花冠が一つずつ供えられている。ここに住む小さな娘が誰の墓とも知らず枯れる前に代え供えてくれているのだ。
何よりも大切な家族であった親父と末の弟の眠る場所。マルコは毎日ここに来るわけではない。それではきっと親父に「口うるせェ息子だなァ」と笑われてしまうだろうと思うから、何となく赴こうと思ったときと何か報告をするときだけこの墓の前に来た。今日は後者だった。
「今度は絶対に守るよい」
優しい村に近づく馬鹿を一蹴せねばならない。この小さな村を守るために自分はここにとどまっているのだから。
青々とした緑と透き通るような青い空に青い灯が広がる。その翼をはためかせれば体が海を請うた気がしたが、嘲笑とともにそれは気のせいだともみ消した。自分はもう、海の向こうへとは飛べないのだから。こんな大きな翼をもっておいて馬鹿を言うなと家族なら笑っただろうか。いっそ笑ってくれて構わないとマルコは思う。そんなことでまたみんなで笑えるのなら大きな翼が無能になろうとも安いものだと思える――それこそ馬鹿なことをいうなと言われそうだが。大きな翼をもっていても海の向こうへと飛ぶには不足なのだ。
「……情けないねい」
口に出しても全くそうだ。しかしどんなに鍛えた体でも飛び続けることは難しいのだ。情けないながらこの小さな村は絶対に守ると固く決めているのだから家族は許してくれないだろうか。
悪魔の実を食べれば海に嫌われる。あのうるさい兄弟、サッチの言葉で遊ぶならば、実を食べてから一生海へ片思いとなると言ったところだろうか。
大きな翼と高い再生能力。万能に見える能力を羨まれたことは多い。それは正常な人間の性だと思うし、それを咎めたことはないが一度だけ些細なことを溢したことがあった。
『飛べるのがうらやましいって言うがねい、飛びたてば大抵下は海だい』
つまり一寸先は死。それが怖くてたまらなくて、能力を得た初期のころはずいぶんと臆病に飛んでいた記憶もある。飛べるのがうらやましいと言う家族はそれでも飛びたいと思うのだろうかと小さな愚痴のような何かに家族は何と言ったのだっけ。ああ、確か。
ふっと笑みをこぼした。悲しいのとは少し違う。寂しいのとも少し。気持ちに霧がかかったようにすっきりしないが、やらなければならないことははっきり見えていた。滝の向こうでここに近づくべきでない気配が近づいている。自分がやるべきことは明確だ。
「なあ――」
先の言葉は羽音に消えた。
無駄に騒ぎ立てる耳障りな声を消すように持っている力を遠慮なく発揮する。ただえさえ耳障りだと言うのにそこにみっともなく痛みにうめく声が混ざるのだから不快感は増すばかり……無駄に人数が多い。
「鬱陶しいねい」
青い炎は静かに燃える。決して激しくは燃えない。それを纏った腕を振るって突風を起こし得意の足技を使うまでもない敵を海に落とす。相変わらず耳障りな喧噪。眉間に皺が寄る。
心がものすごく静かで、戦っていると言うのに好きな高揚感はまるでない。いつからそうなったのかもう忘れた。忘れても戦えるのだから問題ないと思っていた。守りたいものが守れるなら、もう二度と失うことがないならば、高揚感というある一種の快感のようなものは安いと。だが。
――バカ息子だなァ?――
「やっぱりそう言うよなァ……」
聞こえるわけもない声に苦笑が漏れる。そんなことは分かってんだい、でもどうしようもねえだろい?なんて言ってもそれには何も返って来ないのだから余計に虚しい。はじめに突っこんできた者たちはやはり囮のようなものだったのか敵がそこそこ強くなってきた。それでも高揚感は微塵もない。それがなぜか漠然と悲しかった。
守らなければ。なんのために?
親父が残した大切なもののために。
家族のために命を懸け戦ったその結果に後悔はない。末の兄弟は最後まで馬鹿な弟だったがそれでも愛おしかったし、その弟が家族の皆が好きだった笑顔で逝ったのだ。……本当最後まで馬鹿な弟だと思った。あの戦争が起こった原因はそもそもエースではないのだ。家族のために裏切り者を追って出て行ったあの日。もっと必死に止めていれば、あるいはそれこそ大きな翼で追いかけていればあの戦争は起こらなかった。
白ひげもマルコも他の隊長たちも、エースがどれだけ家族を愛していたかを知っていた。マルコはエースが複雑な過去を背負っていたことを知ったとき、とがったナイフのように長く白ひげに挑み続けた理由を理解し目を覆ったし、その過去を背負ってもなお人懐っこい笑顔を見せる姿になぜだか少し目が熱くなった。
愛し愛される関係はエースにとって何よりも愛おしく大切だったのだと知っていたからこそ裏切りはエースにとってとても許せるものではないのだと理解できた。自分たちも決して裏切りを許せるわけもなかった。……だから唯一後悔があるとすれば、追って出て行ったエースの背に少なからず自分たちの怒りを託したことだ。
あの酷い戦場の中だ。そのことを謝る場は気持ち程度しかなかった。全てが終わった後マルコはそれについてしっかり誠意ある謝罪をしようと思っていた。それなのに……やはり馬鹿な弟だ。自分が心から謝る時なんて一生にあるかないかだろうし、少しばかり命一杯うまいものでも食わせてやろうとも思っていたのに。
どうしてお前が礼を言うのだと泣きたかった。謝らせてもくれない弟を馬鹿だと言うしか気持ちを表せなかった。マルコはネコマムシが村にやって来た時に初めてエースの最後の言葉を知り涙した。体に風穴を開けられその苦しさは想像できるわけもないが、呼吸もままならかっただろうその死の間際、大きな声は出ないからとそれでも弟つてに礼を言うできた弟を馬鹿と言わずに何と言うか。
もっと言いたいことがあったのではないか。なんで親父に怪我をさせているのだと言われてもよかった。助けに来るのが遅いとののしってくれてもよかった。いつものように腹が減ったと言ってくれたってよかった。礼を言うのはお互い様だ。マルコ達がエースを愛していたように、エースもマルコ達家族を愛してくれていたのだから。
「死ね!!」
不死鳥は何度でも甦る。振りかぶられた剣を避けなくとも、能力者の天敵である海楼石でなければその身が実質傷つくことはない。マルコはわざと剣を何も纏わず腕で受けた。血の代わりに燃えるのは青い炎だ。
煌めく青は美しいと、いつだったかシルクハットをかぶった兄弟は言っていた。胸に差した赤いバラと対象の色を美しいと言った彼は『羽ばたく時に散る青が一等綺麗だぞ』とも言っていた。思い出してマルコは少し笑う。それを言われた時自分は珍しくも体に傷を残していた時だったからそれは誉め言葉ではなく忠告だったなと思い出したのだ。覚えていたのに今こうして自ら再生の炎を使う状況を作り出しているのだから家族が見たら口うるさく何か言われるに違いない。
マルコは器用だが、ひどく不器用だ。多彩な知識と技術が詰め込まれた頭は確かに器用だと言えて何でもそつなくこなすと言うのに、何でもできるが故になんでも一人でやってしまおうとするのは不器用だと言えた。それはマルコ自身自覚していた。だが、どうしようもなかった。それが自分の性格なのだからと特に苦もないからとそのままでいれば、仕方のない奴だとそれを受け止めてくれたのも家族だった。
自分はあの船を、あの家族を守る最高の盾だった。盾と言う言い方を家族はあまりいい顔をしなかったが、白ひげを守るときだけは『よくやった』と笑ってくれたのだった。そんなとき決まって白ひげは『馬鹿息子』と笑っていたと思う。
剣を弾く。生ぬるい攻撃が鬱陶しい。ああ、こんな時家族がいたら、骨のない相手でも何か違っただろうかと考えて、自嘲した。
「後悔、してんのかねい」
がちゃん、と言う音が不意に妙に重たく響き、それを認識したと同時にマルコの全身の力が抜けた。見れば手になんの変哲もない手錠がついていた。なんの変哲もないが、言いようのない嫌悪感。体の不自由。それが海楼石でできていることなど明確だった。
不死鳥を捕まえたと雄叫びが上がる。その瞬間フラッシュバックしたのはあの戦争だ。
不死鳥マルコは何度でも甦る。
そうだ、何度でも甦れた。
腕が落ち、足を落とされ、頭をぶち抜かれようとも自分は甦れた。あの時海楼石の手錠がついた腕を迷いなく切り落とせばよかったのではないか。能力が不能なまま腕を落とせば失うことになっただろうが、切り落としてしまえば再生できる。腕が一本なかろうが出血はすぐに止まっただろうし、痛みもそうだったはずなのだ。
どうしてあの時腕を落とさなかったのか。あの時は腕を落とすリスクの方が高かったと判断したのが事実であるし、そうとしか言えないのだが、結果を知ればあの時腕を落とせばよかったのかもしれないと幾度となく思う。
結果に後悔はない。その過程に後悔がある。
家族は女々しいと騒ぎ立てるだろうか。白ひげが生きていればやはり「バカ息子だなァ」と言うだろう。末の弟は「マルコが気持ち悪ィ!!」と大げさに舌を出して顔を顰めるだろうし、ふざけた頭の兄弟はむかつく笑顔で「マルコでもそんなこと考えるんだなァ!!」なんていうだろう。アイツは、アイツは、と一人ひとり思い浮かべては消えていく妙に鮮明な妄想にマルコは自嘲した。
「同じ過程を踏む馬鹿がどこにいるってんだい」
守るべきものは明確だ。ならばそれを守ることだけを考えればいい。マルコはろくに力の入らない手にさっき腕に刺さった剣を握ると、迷いなく自分の腕をめがけて振り下ろした。
「僕はマルコが一番馬鹿でどうしようもないぐらい阿保でもあると思うんだけどどう思う?」
『ある意味そうなんじゃねえか』
聞こえるはずもない声に目を見開いた瞬間思いっきり剣を弾かれた。そして次の瞬間には体が軽くなり、パキンッと言う空気を割るような音を遅れて捉える。
見れば細い剣が海楼石の手錠を叩き切り横へ振り払っていた。その切っ先を辿れば、黄緑のよく知っている服と、猫のような目。
音と、映像と、匂いと。全てを認識して理解するには難しくて。
「ハルタ……?」
「久しぶりの再会で初めに男の名前を呼ぶなんて、マルコもついにモテない男になったんだね」
やっとの思いで出した声には辛辣な言葉。しかしそれを援護するように響いた銃声に顔を向ければ、また言葉を失った。
白いナース服。妙に短い丈のそれに合わせられているのはヒョウ柄のロングブーツ。その手に握られているのはカルテでも注射器でもなんでもなく、紛れもなく銃だった。
「連絡が無いとは思いましたけど、男の方に趣味を変えたなんて予想外でしたわ」
「でも、それはそれでアリな気もするわね?」
「男から男を奪うって言うのも」
「燃えるわね!」
アンジュラ、リース、ルシオラ、ミラコ、テナー……忘れるわけもない、名前が次々に脳をめぐる。
嘘だろうと思った。なぜここにと思った。唖然としてしまい動けないマルコの耳にハルタは音貝を突き付けた。
『おい、長男坊。しっかりしろ。腑抜けた面してんじゃねえぞ。やることはとっととやれっつーのはお前の十八番だろう』
むかつくほど心地よい落ち着いた声で、まるで見えているかのようなメッセージ。
「……イゾウ?」
『なあ、フォッサ?お前さんも何か言っておやりよ』
『……ああ、俺たちはいけねェが他の家族を頼れ。仕事は分担した方が早ェだろ』
「動けるか、マルコ」
腕を取られ立たされる。背を押されながら横目で見れば相も変わらずシルクハットをかぶった兄弟――ビスタで息を飲んだ。
言いたいことはたくさんあった。だが、混乱のまま驚愕に任せて口を開こうとすればそのタイミングで次々と知った顔が出てきて、いい笑顔でマルコの名前を呼んだ。
医療道具ではなく得物を握ったナース、毒舌の剣士、優雅で紳士な剣士、煌めく巨体で暴れる戦士、突然滝につながる水路から顔を出す魚人……そしてついにはもはや顔を確認し一人ひとり名前を呼び事が難しいほどの人数が、マルコの名前を呼びながらマルコの元へと駆けてくる。
馬鹿だろうと思った。名前を呼ぶことが難しいのは単純に人数が多すぎるからだ。一人ひとり並んでくれればマルコはその一人ひとりの名前を間違えずに言うことができただろう。それほどまでに大切にしていた「家族」が、なぜだか知らないが自分の名前を叫んで、なぜだか知らないがいい笑顔で律儀に敵をぶん殴りながら駆けてくるのだ。
馬鹿だろうと思った。同時に可笑しくてたまらなかった。可笑しくて、懐かしくて、馬鹿だろうと思って、混乱と、驚愕と、呆れと、喜びに任せてマルコは大きな翼を広げた。
青い炎は静かに燃える。決して激しくは燃えない。けれどその胸の内は熱く燃え始めた。青を纏った腕を振るって突風を起こし、自慢の脚を使って相手を昏倒させる。家族も当然便乗し、戦い笑うものだから、ものすごい喧噪だったがなぜだかそれが軽快な音楽のようにすら聞こえ、緩んだ唇は無意識に弧を描いた。
心が躍り、さっきまで凪いでいた気持ちが昂る。忘れていた戦闘の高揚感と、生きる喜び。ただ敵がいるから、守らなければならないから戦うだけではない、充実感。守り守られ、背中を預けて生死を駆け抜けるスリルとロマン。
忘れていた何かを思い出した気がした。捨ててしまった何かを拾われた気がした。そして、それを受け取った自分を親父が心から機嫌よく笑った気がした。
気が付けば敵は全滅し、見知った顔だけが大勢立っていた。マルコは振り返ってその顔を見渡し、何をはじめに言うべきかと思案した。聞くべきことも、聞きたいことも多くあったが、まずは礼か。いや、自ら来たのだからそちらが話すのを待つべきか。
「マルコ隊長」
迷っていればマルコの前へと進み出てきたのはナース達だった。代表してなのかアンジェラが記憶と全く違わない笑みを浮かべてマルコの前へ。アンジェラは白ひげ海賊団のナース長だった。船医であったマルコともよく関わり、家族の中でも気の知れた仲だと言えた。
だが、今回ばかりは予測不可能だった。
「治療の時間です」
差し出された細い腕が握手か何かかと思って気を抜いた瞬間、落とされたのはそんな言葉。「は?」と短い声を出す間もなく、麗しいナース達はマルコに絡みつきそして突き放した。後ろの海にめがけて。
不死鳥マルコは能力者である。海に落ちれば、言わずもがなだ。
「ぶっは!!!げほ、ゲホッ!!……っな、んのつもりだよい……っ!?」
もちろん海に沈めるつもりは毛頭なくあくまで「治療」であるからすぐにナミュールがマルコを引き上げる。弱点の海水を被ったと言うのに上がったとたん力の入らない体で噛みつくところさすがと言ったところか。その様子を見て、家族はマルコも変わっていないと笑った。
「女々しくも、心を青い炎を燃やしていたようでしたので治療いたしました。ご気分はどうです、マルコ隊長?」
アンジェラの言葉に、マルコは目を見開いた。そしてそれから自分の胸に手を当てると、そう言うことかと苦笑した。
「ああ……最高の気分だよい」
『誕生日、おめでとう!!マルコ隊長ォ!!!』
応えれば叫ばれた言葉に再び驚く間もなく、いつの間に用意したのか大きなバスタオルを持った家族に飛びつかれる。祝いの言葉を叫ばれながらもみくちゃにされ、雑ながら動ける程度に乾かされたかと思ったら前に突き出されてクラッカーを鳴らされ、背中やら腕やら肩やらを遠慮なく叩かれ祝われた。
初めは驚くばかりのマルコだったが、だんだんと笑いがこみあげてきてついには声をあげて腹を抱えて笑った。こんなに笑ったのは久しぶりだった。自分の誕生日のためだけに危険な海を渡り、あの手この手でこの場所にやって来ただろう家族を、涙が出るほど笑って、「バカな家族ばっかだなァ」と独り言ちた。
「あら、私たちはいい女でしょう?」
「間違いねえ。流石、親父のもとにいた女たちだよい」
大きな翼をもっておいて飛べないと言う自分を家族は笑うだろうかと考えた。確かにそれを考えた自分は情けなかった。大きな翼をもっておいて飛べないと言う自分を家族は確かに笑うだろう。しかし、自分の家族はそれだけでは済まないことを忘れていた。
「飛びたいなら飛べばいい」と背中を蹴ってくるような家族だと言うことを忘れていた。海に落ちれば「バカだなァ」と笑いながら引き上げてくれる家族だと言うことを忘れていた。人の気持ちも知らないで空を飛ぶ自分を見て目を細める家族だと言うことを忘れていた。
そして……守りたいものを一人で守りたがる自分を良しとしない家族だと言うことを忘れていた。
マルコは本当に情けないと苦笑したが、すんでのところで言葉は飲み込んだ。今言うべき言葉はこれではないから。
「……ありがとよい」
そう大きくはない声であったが、その言葉に家族は笑った。
飛べるのがうらやましいと言う家族はそれでも飛びたいと思うのだろうかと小さな愚痴のような何かに家族は何と言ったのだっけ。ああ、確か。
『そりゃあ飛ぶだろ!家族がいるんだ何とだってなるさ!』
不死鳥は何度でも甦る。
久しぶりの再会だからと青い炎をねだる家族に応えてマルコはその身を変えた。溜息をつきつつもその口元には笑みが浮かんでいたのは気のせいではない。
Fin.
Happy Birthday Marco !! (2019)
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