長編:一兎を奪う
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6.恩人と呼ばれる彼にも恩人はいる
side:白ひげ
「ログは一日で貯まるみたいだよい」
「そうかァ。停泊期間はてめェに任せるぜ、マルコ」
「よい」
船の停泊を報告し、口癖を口にして背を向けた息子に「アイツはどうだ」と聞いてみた。
「問題ねえ。イゾウが世話を焼いてるよい」
「グラララララ!珍しいこともあるもんだなァ」
「本当だよい。どこかの海賊に奇襲でもされるんじゃねェかって気が気じゃねえ」
負けやしねえがねい、と溜息をつきながらけれど楽しそうに言う息子と同じ顔を俺はしているのだろう。機嫌よく酒を煽ればほどほどにしてくれ、と小言が飛んでくるがそれすらも気にならない。
数日前船に乗せた女はどうやらイゾウの手を取ったらしい。こいつはおもしれェと船に戻った息子を見た時笑みを浮かべたのを覚えている。マルコの方かエースが攫ってくると思ったが、いい予想外だった。
楽しくなりそうだと酒を煽る。軽い酒樽に眉を顰めれば息子にやや呆れたように溜息をつかれたが、気にせず小さな袋を投げてよこした。がちゃん、と金属が鳴る。
「アイツの小遣いだ、渡しておけ」
「……受け取らねェと思うよい」
「なんだァ、親子そろってハナッタれか?」
「親父……こっちの常識はあっちの常識じゃねェんだろい……?」
「アホンダラァ、この世界にいる限りはこっちの常識で過ごさせろ」
受け取らなかったらイゾウにでも渡せと言えばマルコは溜息をついてまた「よい」と返事をし、今度こそ背を向けて部屋を出て行った。
静かになった部屋でどこにしまったかと本棚を見た。赤い背表紙に引かれて一冊抜き取りパラパラとページをめくれば、簡単にそれは見つかった。
「グララララ!よく似てやがる!」
懐かしい記憶を思い返せば、その時のことを鮮明に思い出す。そして、その時の約束も。
海賊が約束を守るのかと笑われようが、これは守られるべきささやかな約束で。それが恩人との約束ならばなおさらそうである。その約束の先は約束しなかったから、最終的にはあの少女の判断になるのだが。
俺たちは海賊だから、それらしい思考を持つ。約束を守れどもそこはかわらない。
誰かに掲げるように一度酒樽を持ち上げて、俺は一気に酒を飲みほした。
side:白ひげ
「ログは一日で貯まるみたいだよい」
「そうかァ。停泊期間はてめェに任せるぜ、マルコ」
「よい」
船の停泊を報告し、口癖を口にして背を向けた息子に「アイツはどうだ」と聞いてみた。
「問題ねえ。イゾウが世話を焼いてるよい」
「グラララララ!珍しいこともあるもんだなァ」
「本当だよい。どこかの海賊に奇襲でもされるんじゃねェかって気が気じゃねえ」
負けやしねえがねい、と溜息をつきながらけれど楽しそうに言う息子と同じ顔を俺はしているのだろう。機嫌よく酒を煽ればほどほどにしてくれ、と小言が飛んでくるがそれすらも気にならない。
数日前船に乗せた女はどうやらイゾウの手を取ったらしい。こいつはおもしれェと船に戻った息子を見た時笑みを浮かべたのを覚えている。マルコの方かエースが攫ってくると思ったが、いい予想外だった。
楽しくなりそうだと酒を煽る。軽い酒樽に眉を顰めれば息子にやや呆れたように溜息をつかれたが、気にせず小さな袋を投げてよこした。がちゃん、と金属が鳴る。
「アイツの小遣いだ、渡しておけ」
「……受け取らねェと思うよい」
「なんだァ、親子そろってハナッタれか?」
「親父……こっちの常識はあっちの常識じゃねェんだろい……?」
「アホンダラァ、この世界にいる限りはこっちの常識で過ごさせろ」
受け取らなかったらイゾウにでも渡せと言えばマルコは溜息をついてまた「よい」と返事をし、今度こそ背を向けて部屋を出て行った。
静かになった部屋でどこにしまったかと本棚を見た。赤い背表紙に引かれて一冊抜き取りパラパラとページをめくれば、簡単にそれは見つかった。
「グララララ!よく似てやがる!」
懐かしい記憶を思い返せば、その時のことを鮮明に思い出す。そして、その時の約束も。
海賊が約束を守るのかと笑われようが、これは守られるべきささやかな約束で。それが恩人との約束ならばなおさらそうである。その約束の先は約束しなかったから、最終的にはあの少女の判断になるのだが。
俺たちは海賊だから、それらしい思考を持つ。約束を守れどもそこはかわらない。
誰かに掲げるように一度酒樽を持ち上げて、俺は一気に酒を飲みほした。