長編:一兎を奪う
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22.兎の望む夢はなに
Side:Ace
「ユリトー?」
サッチがユリトを見つけたら食堂に来るように言ってくれ、なんていうから俺はユリトを探していた。マルコにも聞いたけど、「今日は何も頼んでねェよい」なんていうもんだからあてもなく。書庫も見た、ナースのとこも行った。洗濯ももう干されていたしどこ行ったんだ?イゾウの部屋かと思って見に行ったけど、そこも外れ。停泊はしてねェから、絶対船のどこかにはいるはずなんだけどな。
「エース」
「お、ハルタ」
甲板に出れば、マストの上から声を掛けられた。まぶしいし逆光で影になってるけど、ハルタが船尾の方を指しているのが分かった。
「ユリト探してるならそっち」
「まじ?サンキュー!」
「起こさないでよ」
「ん?寝てんのか?」
まだ昼にもなってねェのに昼寝か?外で?いや、俺はいつもやってるけどよ。
ユリトがわざわざ外で寝るなんてことあるのか?と思いながらもまあ行ってみるかと足を進めれば船尾に重ねられた樽の間。人一人分、つってもユリトみたいな小柄な奴しか入れそうにないその隙間にすっぽりと収まってユリトはいた。
「ユリト?」
膝を抱えて突っ伏しているユリトに声をかけるもピクリとも動かない。肩にはイゾウがたまに着てるような上着。羽織って言うんだっけか?
春島の気候に近いから寒くはねェけどそんなせめェところで寝てると体を痛める。声をかけても起きねェから、仕方なく樽を少し動かして持ち上げてやった。
……ほんっとに起きねェのな。完全に力も抜けちまってて、だらりと手足が落ちそうになるから慌ててしっかり抱えなおした。
部屋に連れてくかちょっと迷ったけど天気もいいし、今日は俺の隊が非番。俺が傍にいれば別にいいだろうと胡坐をかいてその上に横向きにユリトをもたれ掛からせると、俺は船尾の柵に背を預けた。
「ふはっ……ガキみてぇ」
あどけない顔で寝るユリトは同い年とは思えない。そりゃ俺よりは落ち着きもあるし、賢いのは知ってっけど、なんつーの?心が幼ぇつーのかな。
「……ルフィ……とはまた違うか?」
あの手のかかる弟とこいつを一緒にしちまうのは何かシツレイな気がした。だってあいつは馬鹿だけど、こいつは馬鹿じゃねえし。んん?いや、馬鹿なとこもあるけど、あーなんだ。
分かんねえけどなんか違う。ルフィは男だし、妹だったらこんな感じなのかもな。まあ、同じなのはどっちもすっげえ大事ってことだ。
抱えたままじいっと見つめる。肌が白い。まつ毛が長ェ。体はちっちぇえし、軽いし、やわっこい。守ってやんねえとすぐに死んじまいそうだ。
こいつの生きてた場所はここじゃない。全然口にしねェけど、ユリトが心のどこかで帰りたい気持ちがあるのは分かってる。でも、この船で楽しそうにしてるのもたぶん嘘じゃねえと思うから好きにすればいいと思う……まあ、できるならずっと残ってほしいなとは思うけど!
だって、お前が残ってくれたらこの船初めての妹だぜ?それに俺は末っ子卒業!
家族が増えるのを嫌がる奴らなんてここにいねェ。がさつな俺たちに笑って世話を焼いてくれるお前ならなおさらだ。
「ここは自由だぜ、ユリト」
縛られるものは何もない。大所帯だし野郎ばっかだからちょっとうるせえかもしれねェけど、この海は広いからちょうどいいだろ?
日差しが出てきたからテンガロンハットを貸してやろうと帽子をかぶせてやろうとしたら、ユリトが身じろぎして、寝てていいぞと声をかけようとした俺は目を見開いた。
「―――さ、ん」
なんて言ったかは聞こえなかった。でも、眉間にしわを寄せて空を掴むようにあげられた手の先が一瞬透けて見えて……は?嘘だろ!?
「おい!!ユリト!!」
何か考える前にとっさに手を掴んだ。必死過ぎて若干発火したごめん!!でも、だって消えちまうと思ったんだよ!あとから殴られるから許してくれ!!
帰るのか!?いや、確かにいきなり来たから帰るのも唐突かもなとは言ったけど、今帰るのはまずい。非常にまずい!
だって親父にも挨拶してねェし、いやたぶん親父はそんなこと気にしねェけど、でも一番大事な奴が今はいねえからだめだ!
力加減も考えず必死につかんで揺すって呼びかけて、もう一度もはや叫ぶように名前を呼んだらやっとでユリトは目を開けた。
「起きたか!?」
「あ、れ……エース……?」
今度は聞き取れた声にどっと肩の力が抜けた。けどすぐにぼんやりとした黒い目に透明な膜が張っているのに気が付いて俺は眉を顰めた。……なんで泣いてんだよ。
こいつが泣いてるところを見るのは二度目。一回目も気分がいいもんじゃなかったけど、今の涙の方がなんか嫌だと思った。うん、何かイライラする。
でも女だし殴るわけにもいかねぇ。いまだに夢と現実の間にいるようなユリトがどっかに行かねェようにそうっと頬を包めばゆっくりと目に光が戻ってくる。でも、不安定だ。透けてたのは見間違いかと思ったけどたぶん本当に透けてた。
「なにか夢でも見てたのか?」
零れてしまった水滴を指で掬い取ってじいっと瞳をのぞき込めば、首が横に振られた。それから一瞬くしゃりと顔がゆがんで、でもすぐに薄い笑みが浮かんだ。もどかしい。思わずぎゅうっとユリトの手を握った。
「ごめん、何か変な夢を見た……んだと思う。心配かけてごめんね」
絶対嘘の言葉なのに踏み込めねェのが苦しくて、むかつく。でも怒鳴ったって変わんねえのも分かっちまって何もいえねェ。言えよと言っても絶対に言わねェだろし、言えと言うのはたぶん俺の役目じゃない。
「……夜眠れてねェのか?」
「うん……少しね」
「なら、一緒に昼寝しようぜ」
ふふっと笑うユリトを引き寄せてまた、さっきのように自分に寄りかからせた。起き上がろうとするのを片手で抑えて今度こそテンガロンハットをかぶせてやる。
「……書類やったの?」
「いいや。でも、来る前にマルコに会ったけど何も言われなかったから平気だろ」
「……怒られる、よ」
そういいつつユリトはまだ眠いのか体の力が抜けたようだった。体重がかかるけど、やっぱ全然軽い。無意識なのかすりっと甘えるように肩に顔を寄せてくるから俺は溜息をつきつつ背を叩いてやった。
すぐにすうすうと寝息を立て始めるユリト。そう言えばさっきは寝息も立てずに寝てなかったか?と気が付いてぞっとした。……まさかな?
そんなわけねェと笑ってもやっぱちょっと心配だからちっちぇえ手に自分の手を絡めた。イゾウがいたら地味にうるさそうだけど、アイツはいねェし。いねェからいいだろと勝手に結論付けて守るかのように抱き寄せる腕にも力を込めた。
全く、何しに遠征なんて行ったんだよ……俺に言ってくれりゃあストライカーかっ飛ばして行ってやったのに!
「大事な奴がいねェのは誰だって寂しいってのにな?」
せめていねェ間、寒い思いはしないようにと俺はユリトを抱えなおした。
Side:Ace
「ユリトー?」
サッチがユリトを見つけたら食堂に来るように言ってくれ、なんていうから俺はユリトを探していた。マルコにも聞いたけど、「今日は何も頼んでねェよい」なんていうもんだからあてもなく。書庫も見た、ナースのとこも行った。洗濯ももう干されていたしどこ行ったんだ?イゾウの部屋かと思って見に行ったけど、そこも外れ。停泊はしてねェから、絶対船のどこかにはいるはずなんだけどな。
「エース」
「お、ハルタ」
甲板に出れば、マストの上から声を掛けられた。まぶしいし逆光で影になってるけど、ハルタが船尾の方を指しているのが分かった。
「ユリト探してるならそっち」
「まじ?サンキュー!」
「起こさないでよ」
「ん?寝てんのか?」
まだ昼にもなってねェのに昼寝か?外で?いや、俺はいつもやってるけどよ。
ユリトがわざわざ外で寝るなんてことあるのか?と思いながらもまあ行ってみるかと足を進めれば船尾に重ねられた樽の間。人一人分、つってもユリトみたいな小柄な奴しか入れそうにないその隙間にすっぽりと収まってユリトはいた。
「ユリト?」
膝を抱えて突っ伏しているユリトに声をかけるもピクリとも動かない。肩にはイゾウがたまに着てるような上着。羽織って言うんだっけか?
春島の気候に近いから寒くはねェけどそんなせめェところで寝てると体を痛める。声をかけても起きねェから、仕方なく樽を少し動かして持ち上げてやった。
……ほんっとに起きねェのな。完全に力も抜けちまってて、だらりと手足が落ちそうになるから慌ててしっかり抱えなおした。
部屋に連れてくかちょっと迷ったけど天気もいいし、今日は俺の隊が非番。俺が傍にいれば別にいいだろうと胡坐をかいてその上に横向きにユリトをもたれ掛からせると、俺は船尾の柵に背を預けた。
「ふはっ……ガキみてぇ」
あどけない顔で寝るユリトは同い年とは思えない。そりゃ俺よりは落ち着きもあるし、賢いのは知ってっけど、なんつーの?心が幼ぇつーのかな。
「……ルフィ……とはまた違うか?」
あの手のかかる弟とこいつを一緒にしちまうのは何かシツレイな気がした。だってあいつは馬鹿だけど、こいつは馬鹿じゃねえし。んん?いや、馬鹿なとこもあるけど、あーなんだ。
分かんねえけどなんか違う。ルフィは男だし、妹だったらこんな感じなのかもな。まあ、同じなのはどっちもすっげえ大事ってことだ。
抱えたままじいっと見つめる。肌が白い。まつ毛が長ェ。体はちっちぇえし、軽いし、やわっこい。守ってやんねえとすぐに死んじまいそうだ。
こいつの生きてた場所はここじゃない。全然口にしねェけど、ユリトが心のどこかで帰りたい気持ちがあるのは分かってる。でも、この船で楽しそうにしてるのもたぶん嘘じゃねえと思うから好きにすればいいと思う……まあ、できるならずっと残ってほしいなとは思うけど!
だって、お前が残ってくれたらこの船初めての妹だぜ?それに俺は末っ子卒業!
家族が増えるのを嫌がる奴らなんてここにいねェ。がさつな俺たちに笑って世話を焼いてくれるお前ならなおさらだ。
「ここは自由だぜ、ユリト」
縛られるものは何もない。大所帯だし野郎ばっかだからちょっとうるせえかもしれねェけど、この海は広いからちょうどいいだろ?
日差しが出てきたからテンガロンハットを貸してやろうと帽子をかぶせてやろうとしたら、ユリトが身じろぎして、寝てていいぞと声をかけようとした俺は目を見開いた。
「―――さ、ん」
なんて言ったかは聞こえなかった。でも、眉間にしわを寄せて空を掴むようにあげられた手の先が一瞬透けて見えて……は?嘘だろ!?
「おい!!ユリト!!」
何か考える前にとっさに手を掴んだ。必死過ぎて若干発火したごめん!!でも、だって消えちまうと思ったんだよ!あとから殴られるから許してくれ!!
帰るのか!?いや、確かにいきなり来たから帰るのも唐突かもなとは言ったけど、今帰るのはまずい。非常にまずい!
だって親父にも挨拶してねェし、いやたぶん親父はそんなこと気にしねェけど、でも一番大事な奴が今はいねえからだめだ!
力加減も考えず必死につかんで揺すって呼びかけて、もう一度もはや叫ぶように名前を呼んだらやっとでユリトは目を開けた。
「起きたか!?」
「あ、れ……エース……?」
今度は聞き取れた声にどっと肩の力が抜けた。けどすぐにぼんやりとした黒い目に透明な膜が張っているのに気が付いて俺は眉を顰めた。……なんで泣いてんだよ。
こいつが泣いてるところを見るのは二度目。一回目も気分がいいもんじゃなかったけど、今の涙の方がなんか嫌だと思った。うん、何かイライラする。
でも女だし殴るわけにもいかねぇ。いまだに夢と現実の間にいるようなユリトがどっかに行かねェようにそうっと頬を包めばゆっくりと目に光が戻ってくる。でも、不安定だ。透けてたのは見間違いかと思ったけどたぶん本当に透けてた。
「なにか夢でも見てたのか?」
零れてしまった水滴を指で掬い取ってじいっと瞳をのぞき込めば、首が横に振られた。それから一瞬くしゃりと顔がゆがんで、でもすぐに薄い笑みが浮かんだ。もどかしい。思わずぎゅうっとユリトの手を握った。
「ごめん、何か変な夢を見た……んだと思う。心配かけてごめんね」
絶対嘘の言葉なのに踏み込めねェのが苦しくて、むかつく。でも怒鳴ったって変わんねえのも分かっちまって何もいえねェ。言えよと言っても絶対に言わねェだろし、言えと言うのはたぶん俺の役目じゃない。
「……夜眠れてねェのか?」
「うん……少しね」
「なら、一緒に昼寝しようぜ」
ふふっと笑うユリトを引き寄せてまた、さっきのように自分に寄りかからせた。起き上がろうとするのを片手で抑えて今度こそテンガロンハットをかぶせてやる。
「……書類やったの?」
「いいや。でも、来る前にマルコに会ったけど何も言われなかったから平気だろ」
「……怒られる、よ」
そういいつつユリトはまだ眠いのか体の力が抜けたようだった。体重がかかるけど、やっぱ全然軽い。無意識なのかすりっと甘えるように肩に顔を寄せてくるから俺は溜息をつきつつ背を叩いてやった。
すぐにすうすうと寝息を立て始めるユリト。そう言えばさっきは寝息も立てずに寝てなかったか?と気が付いてぞっとした。……まさかな?
そんなわけねェと笑ってもやっぱちょっと心配だからちっちぇえ手に自分の手を絡めた。イゾウがいたら地味にうるさそうだけど、アイツはいねェし。いねェからいいだろと勝手に結論付けて守るかのように抱き寄せる腕にも力を込めた。
全く、何しに遠征なんて行ったんだよ……俺に言ってくれりゃあストライカーかっ飛ばして行ってやったのに!
「大事な奴がいねェのは誰だって寂しいってのにな?」
せめていねェ間、寒い思いはしないようにと俺はユリトを抱えなおした。