長編:一兎を奪う
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16.兎の世界の味を知る
白いエプロンを付けて、リズムよくトントントンと。背の方では鍋が心地よくコトコトと音を立てていて。目の前には頬杖をついてにこにこしているサッチさんを筆頭にした4番隊の皆さん。
「……見てても面白くないと思うんですけど」
「いやいやいや!!目の保養だから気にしないで!」
「そんなこと言われましても……」
料理しているだけだと言うのに、こんなにもほほえまし気に見られては気になると言うもの。私は若干困りつつも、ご飯を炊いていた鍋に手をかけた。
『ユリトちゃん料理できたりしねェ?』
『家庭料理程度ならできますよ』
サッチさんに聞かれてそう答えたのは今朝の事。そしたらぱっと顔を弾ませて「食べてみたい」と言われてしまって。いつも4番隊の戦うコックたちのご飯を食べている身としては恐れ多すぎて断りたかったのだけれど、いつも作る側だから食べる側になりたいだの、他の世界の料理を知りたいだの理由を並べられては断れるはずもなく。
こっちの食材は少し私の知っているものと違うから、食べたことがあるもので使いたい材料をサッチさんに伝えて用意してもらって。
得意なものでいいとは言われたけど、せっかくならこっちで食べたことのないものにしようと思って献立は、炊き込みご飯、味噌汁、肉じゃが、浅漬けなど、和食に。
浅漬けは初めに漬けておいたからたぶん大丈夫。ご飯が炊けたから、味噌汁と肉じゃがをあっためて……と思っていればひょいと落ちた影。
「懐かしい。和食だな」
「イゾウさん」
いつの間に厨房側に回ってきたのか。綺麗な指がひょいと一枚漬けていたキュウリ(だと思う)をつまんで口にぽいと口に放り込んだ。
「うまい」
「漬かってます?」
「ああ。でも、ここの野郎たちは食わねェかもな。野菜を食うやつらじゃ……」
『食べますよ!!』
「だ、そうですけど」
「現金な奴らだな」
普段は食わない癖にとイゾウさんが笑いながらもう一枚食べれば、「なくなる!」「ずるい!」などなど声が飛び交う。少しおかしくて笑っていれば、今度はお味噌汁にまで手を伸ばそうとするからそれはペチリと叩いて止めた。
「イゾウさん、め、です」
「俺は幼子か何かか」
「つまみ食いをするような人は子どもですよ」
「ふうん」
ぽりぽりと咀嚼しながら、イゾウさんは私が叩き落とした手をするりと私の腰に回してきた。正直動きずらいが離れる様子がないのでそのままにしていればもう片方の手で肉じゃがを炒めていたフライパンを傾けてくれた。私じゃ持ち上げられないのを気づいていたのか、と目を瞬かせればにやりと。
「ほら、早く皿に移せ」
「……腰の手がなかったら完璧だったんですけどね」
「牽制だ、牽制」
「なんのですか……」
溜息をつきながら厚意には甘えて皿に移す。ご飯と味噌汁は自分たちでとれるようにお椀だけ出して「できました」と言えば、めちゃくちゃ笑顔の4番隊の皆さんがご飯を炊いていた大きな鍋と味噌汁の入った大きな鍋をテーブルへと運んでくれた。
4番隊の皆さんは食事に関しては行儀がいい。運び終わってそわそわしつつもしっかり席に座って待っている。それにまたくすくす笑いながらも「どうぞ」と言えば文字通り飛びつくように食べ始めた。
『いただきます!!』
料理を人にふるまうのは久しぶり。流石に4番隊の人全員には量が多すぎて無理だから今日の当番の人たちだけに。
私はこっちの世界の料理を問題なく食べられたけど、こっちの人たちは食べれるのかななんてじっと見ていれば一口ご飯を食べた人たちが軒並み動きを止めた。
口に合わなかったか、と思ったがそうではないらしい。
「うまい!」
「母ちゃんの味がする……」
「なあ、これって味付けどうしてるんだ?」
「コメってこうやっても使えるんだな」
「ミソとか出汁って使いにくいんだよなァ……これってさ……」
「野菜もつまみになるのか!」
おいしいと言う感想と、流石コックたち。味付けや料理の仕方などの質問まで怒号の勢いで飛んできて。ぱちぱち目を瞬かせている間にあっという間に料理が消えた。
「良かったな」
ぽすんと頭を撫でられて、上を向けばまたつまんだのかぽりぽりと漬物を食べているイゾウさん。気に入ったならまた漬けますよ、と言えば笑みだけ返された。
「サッチ隊長、ユリト4番隊に入れましょうよ!」
「せめて毎朝味噌汁だけでも!!」
「俺っちもそう思ったけどよ、イゾウ見ろ、イゾウ」
「なんで俺なんだ。ユリトに聞け」
「作るのはいいですけど、皆さんが作った方がおいしいと……」
『味が違う!!』
そろった声に肩をびくつかせる。料理は性格が出るのだと、野郎が作るよりかわいい子が作った方がいいだとか。また怒号の勢いで説得されて、結果的にお味噌汁だけ私が2日に一度作ることになった。
別に毎日でもよかったのだけれど、そこはイゾウさんが首を横に振ったのだ。
「変なところ許さないんですね?」
「うん?知らないか?俺の出身では結構有名なセリフなんだが」
絶対ろくな事言わないことを察知して逃げようと思ったけれどすでに腰に回された腕によって逃げられない。そうしている間にすすっと顔を耳に寄せられて、綺麗な所作で口元を袖で隠したイゾウさんに小声で言われた。
「『あんたの味噌汁を毎日飲みたい』っつー求婚の仕方があるのさ」
野郎どもに毎日飲ませるにはもったいねェ、と無駄に色っぽい声が耳にかかる。
私が顔を真っ赤にさせて、悔し紛れにイゾウさんを叩いたのは言うまでもない。
白いエプロンを付けて、リズムよくトントントンと。背の方では鍋が心地よくコトコトと音を立てていて。目の前には頬杖をついてにこにこしているサッチさんを筆頭にした4番隊の皆さん。
「……見てても面白くないと思うんですけど」
「いやいやいや!!目の保養だから気にしないで!」
「そんなこと言われましても……」
料理しているだけだと言うのに、こんなにもほほえまし気に見られては気になると言うもの。私は若干困りつつも、ご飯を炊いていた鍋に手をかけた。
『ユリトちゃん料理できたりしねェ?』
『家庭料理程度ならできますよ』
サッチさんに聞かれてそう答えたのは今朝の事。そしたらぱっと顔を弾ませて「食べてみたい」と言われてしまって。いつも4番隊の戦うコックたちのご飯を食べている身としては恐れ多すぎて断りたかったのだけれど、いつも作る側だから食べる側になりたいだの、他の世界の料理を知りたいだの理由を並べられては断れるはずもなく。
こっちの食材は少し私の知っているものと違うから、食べたことがあるもので使いたい材料をサッチさんに伝えて用意してもらって。
得意なものでいいとは言われたけど、せっかくならこっちで食べたことのないものにしようと思って献立は、炊き込みご飯、味噌汁、肉じゃが、浅漬けなど、和食に。
浅漬けは初めに漬けておいたからたぶん大丈夫。ご飯が炊けたから、味噌汁と肉じゃがをあっためて……と思っていればひょいと落ちた影。
「懐かしい。和食だな」
「イゾウさん」
いつの間に厨房側に回ってきたのか。綺麗な指がひょいと一枚漬けていたキュウリ(だと思う)をつまんで口にぽいと口に放り込んだ。
「うまい」
「漬かってます?」
「ああ。でも、ここの野郎たちは食わねェかもな。野菜を食うやつらじゃ……」
『食べますよ!!』
「だ、そうですけど」
「現金な奴らだな」
普段は食わない癖にとイゾウさんが笑いながらもう一枚食べれば、「なくなる!」「ずるい!」などなど声が飛び交う。少しおかしくて笑っていれば、今度はお味噌汁にまで手を伸ばそうとするからそれはペチリと叩いて止めた。
「イゾウさん、め、です」
「俺は幼子か何かか」
「つまみ食いをするような人は子どもですよ」
「ふうん」
ぽりぽりと咀嚼しながら、イゾウさんは私が叩き落とした手をするりと私の腰に回してきた。正直動きずらいが離れる様子がないのでそのままにしていればもう片方の手で肉じゃがを炒めていたフライパンを傾けてくれた。私じゃ持ち上げられないのを気づいていたのか、と目を瞬かせればにやりと。
「ほら、早く皿に移せ」
「……腰の手がなかったら完璧だったんですけどね」
「牽制だ、牽制」
「なんのですか……」
溜息をつきながら厚意には甘えて皿に移す。ご飯と味噌汁は自分たちでとれるようにお椀だけ出して「できました」と言えば、めちゃくちゃ笑顔の4番隊の皆さんがご飯を炊いていた大きな鍋と味噌汁の入った大きな鍋をテーブルへと運んでくれた。
4番隊の皆さんは食事に関しては行儀がいい。運び終わってそわそわしつつもしっかり席に座って待っている。それにまたくすくす笑いながらも「どうぞ」と言えば文字通り飛びつくように食べ始めた。
『いただきます!!』
料理を人にふるまうのは久しぶり。流石に4番隊の人全員には量が多すぎて無理だから今日の当番の人たちだけに。
私はこっちの世界の料理を問題なく食べられたけど、こっちの人たちは食べれるのかななんてじっと見ていれば一口ご飯を食べた人たちが軒並み動きを止めた。
口に合わなかったか、と思ったがそうではないらしい。
「うまい!」
「母ちゃんの味がする……」
「なあ、これって味付けどうしてるんだ?」
「コメってこうやっても使えるんだな」
「ミソとか出汁って使いにくいんだよなァ……これってさ……」
「野菜もつまみになるのか!」
おいしいと言う感想と、流石コックたち。味付けや料理の仕方などの質問まで怒号の勢いで飛んできて。ぱちぱち目を瞬かせている間にあっという間に料理が消えた。
「良かったな」
ぽすんと頭を撫でられて、上を向けばまたつまんだのかぽりぽりと漬物を食べているイゾウさん。気に入ったならまた漬けますよ、と言えば笑みだけ返された。
「サッチ隊長、ユリト4番隊に入れましょうよ!」
「せめて毎朝味噌汁だけでも!!」
「俺っちもそう思ったけどよ、イゾウ見ろ、イゾウ」
「なんで俺なんだ。ユリトに聞け」
「作るのはいいですけど、皆さんが作った方がおいしいと……」
『味が違う!!』
そろった声に肩をびくつかせる。料理は性格が出るのだと、野郎が作るよりかわいい子が作った方がいいだとか。また怒号の勢いで説得されて、結果的にお味噌汁だけ私が2日に一度作ることになった。
別に毎日でもよかったのだけれど、そこはイゾウさんが首を横に振ったのだ。
「変なところ許さないんですね?」
「うん?知らないか?俺の出身では結構有名なセリフなんだが」
絶対ろくな事言わないことを察知して逃げようと思ったけれどすでに腰に回された腕によって逃げられない。そうしている間にすすっと顔を耳に寄せられて、綺麗な所作で口元を袖で隠したイゾウさんに小声で言われた。
「『あんたの味噌汁を毎日飲みたい』っつー求婚の仕方があるのさ」
野郎どもに毎日飲ませるにはもったいねェ、と無駄に色っぽい声が耳にかかる。
私が顔を真っ赤にさせて、悔し紛れにイゾウさんを叩いたのは言うまでもない。