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Sabo

 うちの恋人は要件人間だ。

「じゃあ行ってくる」

 行ってくるのはいいがそう言うと同時に落とされたリップ音は何なのか。その質問に答えてくれるのは彼ではなく、自分の熱い頬と唇だ。

 任務に行くのは分かる。それを教えてくれたのは分かる。でもなぜわざわざキスをした。もはや尋ねないのはそう尋ねれば彼は絶対「したかったから」といい笑顔で言い切るのを知っているからだ。
恋人として大事にされているし愛されているのはすっごく分かる。ただ彼が、いつどこ構わず「したい」時に「したい」事をするのには困っていた。だってそこに私の都合は関係なくて、本当に全く意味が分からないタイミングでもスキンシップが飛んでくるのだから。スキンシップを沢山してくれる事は嬉しい事だ。だが、例えばキスされた時、私がすごく忙しくてそれに腹を立てても、逆に、私の気分が良くてもっと欲しくなったとしても、彼の「要件」がキスだけならばそれで終わるのは少し不満に感じていて。まあはっきり言ってしまえば。

 振り回されてばかりはやはり少しつまらない。

 任務から帰ってきたと耳にして彼の部屋をノックした。気配で気づいているだろうがドアが開くのを待って、開いた瞬間彼のスカーフを引っ張った。

 少し傾く身体。それを利用して寄せた唇。落ちたリップ音は朝、出発前に彼が落としたものとそっくりで。
不意打ちだったからか少しだけ見開かれ、何が起こったと言いたげな目に笑った。離れた唇で「したかったから」と彼の常套句を言ってやり、してやったりと笑ってやった。

「じゃあ、おやすみ!」

 用は済んだといい気分で部屋に戻ろうとすれば、力強く腕が掴まれて。

 たらりと冷や汗。でも全てが遅い。

「なあ」

 呼びかける声に振り向けば、彼がここ最近で最もいい笑顔を浮かべていて。その意味が怖いほど分かる私はせめてもの抵抗に震える声でこう言った。

「ご要件は何でしょう?」

返事は濃厚なキスと、眠れぬ夜に変わったのは言うまでもない。



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