愛し愛しあう/シャンクス
愛し愛し合う:シャンクス
「今日も俺の恋人はかわいいな~」
能天気にお気楽と言った言葉がこれ以上なく似合う笑顔と声のトーンで、今日も朝から愛情を示す言葉が降ってくる。それには特に答えずに「おはよう」と言っても、「おはよう、今日の飯は何だろうなァ」なんてこちらの対応なんて大して気にしない。
海の皇帝の一人。赤髪のシャンクス。我が船の船長。この船に乗っている事自体がものすごく名誉ある事であるのに加え、私はそのシャンクスの恋人。その関係に胡坐をかくつもりは毛頭ないけど愛されていると思う。
恋人になってから、いや、なる前から口説き文句はよくもまあそんなに言えるものだと思うほどもらって来たし、軽い抱擁やキスはスキンシップとして当たり前。愛されているのは分かっているけど、なんとなく慣れてしまったというか……。
「好きじゃなくなったか?」
「そうじゃないけど……」
揶揄う様な副船長の言葉に首を横に振る。そうじゃないけど、でも「慣れ」と言うのは馬鹿にしてはいけないと思うのだ。慣れにはよい慣れも悪い慣れもある。人間関係において人に慣れるといった類の慣れはコミュニケーションを円滑にするし、ストレスも減るからいい慣れだ。でも、戦闘における慣れは油断も生じやすくなるから、必ずしもいい慣れとは言えないだろう。恋人の愛情表現に慣れる、と言うのはマンネリ化を生じさせる――というのはいつも破天荒なシャンクスに限ってないが――自分がどんどん欲張りになっていくのが怖かった。
ことあるごとに降ってくるキス。絡みついて離れない片腕。昼も夜も時と場合も何もかも無視してそれこそ言葉通り溺れるほど愛されていると思う。でも言うなれば、どうやら私は思っていたよりも泳ぎが得意らしくて、どんなに深い愛情でもその中を器用に泳いでしまうのだ。
シャンクスの愛情は海そのものだ。基本的には穏やかに、押したり引いたり波がある。どこまでも深い海へとぷんと潜り込めば澄んだ青の中は煌びやか。小魚が銀色を反射させて泳いでいたり、イルカが戯れてくれたり、はたまた宝石なんかが落ちていてキラキラと目を楽しませる。海は好きだ。あの手この手で喜ばせてくれる愛情も大好きだ。でも、なんだかもやもやしてしまうのだ。
「どうしたらいいと思う?」
愛されているのは分かっている。でも何となく満たされない。けれども、それを恋人に言うつもりはない。だってシャンクスはこれ以上ないほど愛してくれていると思うから。
「本当の『愛』は愛されることではなく、愛すことらしいぞ」
眉間に皺を寄せる私を「あの人も馬鹿なんだ。許してやってくれ」と副船長は笑った。
思えば、愛されることは当たり前で愛していたかと聞かれると微妙かもしれない。いや、もちろん好きで、大好きで、愛しているからこうして恋人になったのだけれど、シャンクスがストレートな愛情をくれるのに甘えて、自分からはそう言った表現をしてこなかったかもしれない。
「シャンクス」
「どうした?」
甲板の隅に目立つ赤。また子供っぽいいたずらでもしようと思っていたのか、熱心に空き樽に何か細工をしていたシャンクスに声を掛ければ、ぱっと上がる顔。その大好きな顔に唇を寄せて小さくリップ音を落とせば、器用に足で抑えていた樽が転がった。
大きく見開かれた目がこぼれ落ちそうだ。そこまで私はつれない態度を取っていたのだと思うと申し訳ない半分、そこまで驚かれるとちょっと照れ臭い。動きを止めたシャンクスに「いつももらってばっかりだから……」と言えば、シャンクスはすごい勢いで立ち上がりそのまま私を抱きしめた。言葉もなくぎゅうぎゅうと抱きしめられて痛いほど。
「しゃんくす、苦しい……」
「あ゛―……幸せで死にそうだ」
「……随分単純な幸せだね」
「なんだ、強請ればもっと難しい幸せもくれるのか?」
「……言ってくれれば」
「もう一度キスしてくれ」
言いつつ本当に嬉しそうに顔を寄せられるから、望まれるまま唇を重ねた。離れようとすれば後頭部に回された手に抑えられ、いつもとは少し違う優しくどこか切なさまで感じるような口づけが落とされる。
風にマントがはためく。もう馴染んだ海の匂いが鼻孔をくすぐり、それに混じってシャンクスの匂いも。たまらなくなって半ばぶつかるように今度はこちらから抱きしめれば難なく受け止められた。
「好きだよシャンクス。愛してる」
「……俺は愛してるってだけでお前を傍に置いてるわけじゃねェぞ」
ちょっと驚いて顔を上げれば珍しく眉を下げてこちらを見ていた。……馬鹿な人だ。
「そうだったら、とっくの昔に船を降りてるよ。……お頭」
にいっと笑えば今度はシャンクスが驚いたように目を見開いた。4皇の一人。そんな男が一人の女をただ愛してる、と言うだけで船に乗せていたらそれは問題だろうし、それは私の惚れた男ではない。
もしかして、今までの愛情はそれを後ろめたく思ってのことだったのだろうか。私を引き留めようと、愛想をつかされないようにと、普通の女だったら溺れるような愛情をくれていたのだろうか。それだったら、ちょっと女々しくって、かわいいかも。そして満たされていなかったのもちょっと合点がいく。なんだ、私だけのせいじゃなかったのか。お互い、愛されようとしていたなんて笑い話だ。
「貴方の横に立たせてもらえること、それが極上の愛じゃない?」
はためくマントを引っ張って、深く深く口づける。それからそうっと離れれば、見開かれていた目が徐々にキラキラし始めて大きな笑い声が船に響いた。
「全く、いい女だ!!」
それからの命一杯の抱擁は、今までのどの愛情よりも温かく私の心を満たした。
リクエスト:シャンクスに愛される話
もっとふわふわな話を書こうと思ったんですけど……おかしいな……。
シャンクスさんは好意がストレートですけど、きっと船に乗せる以上は「好き」だと言う理由だけでは乗せられず、めちゃくちゃ愛していても時には恋人ではなくクルーとして扱わなきゃいけない。それゆえの普段のストレートな愛情表現だといいな、なんて。
リクエストありがとうございました!
「今日も俺の恋人はかわいいな~」
能天気にお気楽と言った言葉がこれ以上なく似合う笑顔と声のトーンで、今日も朝から愛情を示す言葉が降ってくる。それには特に答えずに「おはよう」と言っても、「おはよう、今日の飯は何だろうなァ」なんてこちらの対応なんて大して気にしない。
海の皇帝の一人。赤髪のシャンクス。我が船の船長。この船に乗っている事自体がものすごく名誉ある事であるのに加え、私はそのシャンクスの恋人。その関係に胡坐をかくつもりは毛頭ないけど愛されていると思う。
恋人になってから、いや、なる前から口説き文句はよくもまあそんなに言えるものだと思うほどもらって来たし、軽い抱擁やキスはスキンシップとして当たり前。愛されているのは分かっているけど、なんとなく慣れてしまったというか……。
「好きじゃなくなったか?」
「そうじゃないけど……」
揶揄う様な副船長の言葉に首を横に振る。そうじゃないけど、でも「慣れ」と言うのは馬鹿にしてはいけないと思うのだ。慣れにはよい慣れも悪い慣れもある。人間関係において人に慣れるといった類の慣れはコミュニケーションを円滑にするし、ストレスも減るからいい慣れだ。でも、戦闘における慣れは油断も生じやすくなるから、必ずしもいい慣れとは言えないだろう。恋人の愛情表現に慣れる、と言うのはマンネリ化を生じさせる――というのはいつも破天荒なシャンクスに限ってないが――自分がどんどん欲張りになっていくのが怖かった。
ことあるごとに降ってくるキス。絡みついて離れない片腕。昼も夜も時と場合も何もかも無視してそれこそ言葉通り溺れるほど愛されていると思う。でも言うなれば、どうやら私は思っていたよりも泳ぎが得意らしくて、どんなに深い愛情でもその中を器用に泳いでしまうのだ。
シャンクスの愛情は海そのものだ。基本的には穏やかに、押したり引いたり波がある。どこまでも深い海へとぷんと潜り込めば澄んだ青の中は煌びやか。小魚が銀色を反射させて泳いでいたり、イルカが戯れてくれたり、はたまた宝石なんかが落ちていてキラキラと目を楽しませる。海は好きだ。あの手この手で喜ばせてくれる愛情も大好きだ。でも、なんだかもやもやしてしまうのだ。
「どうしたらいいと思う?」
愛されているのは分かっている。でも何となく満たされない。けれども、それを恋人に言うつもりはない。だってシャンクスはこれ以上ないほど愛してくれていると思うから。
「本当の『愛』は愛されることではなく、愛すことらしいぞ」
眉間に皺を寄せる私を「あの人も馬鹿なんだ。許してやってくれ」と副船長は笑った。
思えば、愛されることは当たり前で愛していたかと聞かれると微妙かもしれない。いや、もちろん好きで、大好きで、愛しているからこうして恋人になったのだけれど、シャンクスがストレートな愛情をくれるのに甘えて、自分からはそう言った表現をしてこなかったかもしれない。
「シャンクス」
「どうした?」
甲板の隅に目立つ赤。また子供っぽいいたずらでもしようと思っていたのか、熱心に空き樽に何か細工をしていたシャンクスに声を掛ければ、ぱっと上がる顔。その大好きな顔に唇を寄せて小さくリップ音を落とせば、器用に足で抑えていた樽が転がった。
大きく見開かれた目がこぼれ落ちそうだ。そこまで私はつれない態度を取っていたのだと思うと申し訳ない半分、そこまで驚かれるとちょっと照れ臭い。動きを止めたシャンクスに「いつももらってばっかりだから……」と言えば、シャンクスはすごい勢いで立ち上がりそのまま私を抱きしめた。言葉もなくぎゅうぎゅうと抱きしめられて痛いほど。
「しゃんくす、苦しい……」
「あ゛―……幸せで死にそうだ」
「……随分単純な幸せだね」
「なんだ、強請ればもっと難しい幸せもくれるのか?」
「……言ってくれれば」
「もう一度キスしてくれ」
言いつつ本当に嬉しそうに顔を寄せられるから、望まれるまま唇を重ねた。離れようとすれば後頭部に回された手に抑えられ、いつもとは少し違う優しくどこか切なさまで感じるような口づけが落とされる。
風にマントがはためく。もう馴染んだ海の匂いが鼻孔をくすぐり、それに混じってシャンクスの匂いも。たまらなくなって半ばぶつかるように今度はこちらから抱きしめれば難なく受け止められた。
「好きだよシャンクス。愛してる」
「……俺は愛してるってだけでお前を傍に置いてるわけじゃねェぞ」
ちょっと驚いて顔を上げれば珍しく眉を下げてこちらを見ていた。……馬鹿な人だ。
「そうだったら、とっくの昔に船を降りてるよ。……お頭」
にいっと笑えば今度はシャンクスが驚いたように目を見開いた。4皇の一人。そんな男が一人の女をただ愛してる、と言うだけで船に乗せていたらそれは問題だろうし、それは私の惚れた男ではない。
もしかして、今までの愛情はそれを後ろめたく思ってのことだったのだろうか。私を引き留めようと、愛想をつかされないようにと、普通の女だったら溺れるような愛情をくれていたのだろうか。それだったら、ちょっと女々しくって、かわいいかも。そして満たされていなかったのもちょっと合点がいく。なんだ、私だけのせいじゃなかったのか。お互い、愛されようとしていたなんて笑い話だ。
「貴方の横に立たせてもらえること、それが極上の愛じゃない?」
はためくマントを引っ張って、深く深く口づける。それからそうっと離れれば、見開かれていた目が徐々にキラキラし始めて大きな笑い声が船に響いた。
「全く、いい女だ!!」
それからの命一杯の抱擁は、今までのどの愛情よりも温かく私の心を満たした。
リクエスト:シャンクスに愛される話
もっとふわふわな話を書こうと思ったんですけど……おかしいな……。
シャンクスさんは好意がストレートですけど、きっと船に乗せる以上は「好き」だと言う理由だけでは乗せられず、めちゃくちゃ愛していても時には恋人ではなくクルーとして扱わなきゃいけない。それゆえの普段のストレートな愛情表現だといいな、なんて。
リクエストありがとうございました!
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