仕切り直しでどうですか/ベックマン
仕切り直しでどうですか/ベックマン
「もしお前が俺の傍を離れると言い始めたら、俺はお前を縛り付ける自信がある」
「いろいろ突っ込みたいのですが、とりあえずお頭は正座してください」
とある島のとある酒場に呼び出されたと思ったらカウンターに座らされ、右手にお頭、左手に副船長。副船長の少しかさついた堅い手が、私の手首を握っている。逃がさないようになのか折れはしないが結構な力で握られているので少しばかりドキドキする。一応言っておくとときめきの心臓の動きではない。握られているのは手首だと言うのになぜ心臓、あるいは首に手を掛けられているように感じるのか。流石4皇の右腕と誇らしく思えばいいのか、悲しめばいいのか。
「いやー、すまん!!飲ませ過ぎた!!」
「嘘もいい加減にしてください、副船長は貴方よりお酒強いでしょう!?今度は何飲ませたんですか!」
今日は二人で飲みに行く、と船を出て行ったのに「今すぐ来~い」と酔っぱらったお頭の声で電話がかかってきたのはおかしいとは思ったのだ。ただ、おかしいとは思ってもお頭が呼んでいるのに行かないわけもいかず、こうして来てしまったのが運の尽きともいえる。
何がまずいって、いつもストッパー役のはずの副船長が冒頭の通りなのだ。
確実に酔っている。とても珍しいことに。取られた手首をじわじわと引かれ、副船長の方に寄せられていくのを必死に踏ん張りながら機嫌よく笑うお頭に噛みつくもどこ吹く風。頬を髪と揃いに染めている時点でもう何を言っても無駄だと言うことは百も承知だし、素面であっても面白いと思ったことは何が何でもやるような人だから本当に本当にこちらが疲弊するだけだということは分かっているんだけど。
「ちょっとだけ酒が回りやすくなる薬を仕込んだだけさ。ベックはいつも真面目過ぎんだからいいだろ~?」
「お頭が自由奔放すぎるから副船長がその分真面目なんでしょう?ちょっとは……きゃっ!?」
あまりに何も考えていない言葉に今回はと少し小言を漏らそうとした瞬間、思いっきり引かれた左手。とっさに受け身を取ることもできなかったけど、当たり前に思いっきりぶつかった副船長は揺らぐこともなく。
「なんでシャンクスと話すんだ」
「え、と……?」
「なんでシャンクスと話すんだ」
「あ、いや、聞こえてるんですけど……お頭が副船長にちょっかいをかけているので……?」
「お頭はいい。だが、シャンクスはだめだ」
「……はい?」
顔色はいつも通り。でも発言が妙。言葉の意図が掴めなくて、助けを求めるようにお頭の方を見ればいつも通りニコニコ笑っていて、だけど見た瞬間視界は瞬時に真っ暗になった。……待って欲しい。
「シャンクス、こいつにちょっかいを出すな」
「おお?そりゃどうしてだ?」
「言わねェと分からねェほど馬鹿な男じゃないだろう」
「どうだかな。俺はお前ほど真面目じゃねェからなァ……」
暗い視界を作っているのは副船長の手だ。堅くて少し冷たい手の平に覆われて何も見えないのだけれど、不穏な空気は伝わってきて冷や汗が出る。いや、本当に待って欲しい。とにかく喧嘩なら私を挟まずに二人だけでやって欲しいともがいていれば、視界が開けてひょいと体が浮いた。目の前には副船長。
「いいか、シャンクスとは話さなくていい」
「……いや、お頭と話さないのは無理だと思うのですが……」
「お頭はいいんだ。シャンクスと話すな」
やっぱり意図が読めなくて困ってしまう。眉間に寄せられた皺が若干怖い。
「……副船長、もう少し分かりやすくお願いできませんか」
「俺以外の男と無駄に話すなと言う話だ」
死も覚悟で尋ね返された言葉に「は」と口が開く。なんで私は副船長の膝の上に乗せられてるんだとか、お頭と喧嘩しないで下さいとか、もう船に戻って休みましょうとかいろいろ言いたいのだけれど。
……俺以外の男と話すな……??え、いや、それは。
「ふ、副船長酔ってますよね?」
「ああ、酔ってるな」
「じゃあ」
「だが、自分で言っていることが分からねェほどじゃない」
「それ一番たちが悪いやつでは……」
「な、酔うと面白いだろ?」
「いや、面白くは……」
あ、まずい。ナチュラルに会話に加わってきたお頭に応えてしまったと気づいた時にはもう遅い。ぶわっと殺気が広がって身構える間もなく覇気の衝突。それに加えて鈍い衝撃が副船長の体越しに伝わった。
「シャンクス」
「今のは俺が悪いわけじゃねェだろ」
「私もそう思います……」
ギシギシと不穏な音を立てている銃と剣。副船長は銃を鈍器として使うのが癖なのか。笑っているとは言え、お頭がなんでもない時に剣を抜くのは珍しいしそれなりに副船長が本気なのだろう。冷や汗が止まらない。ど、どうすれば機嫌が治るのだろうか……??とりあえず落ち着いて欲しいと声を発すれば、副船長はむっとする。
「なんでシャンクスをかばう?」
「かばうわけじゃないですけど、今のは返事をした私が悪いのであってお頭は悪くないでしょう?」
「そうか、じゃあ」
お前が悪いな、と言われた瞬間ぐいっと顎を掴まれた。見開いた目一杯に映るのは副船長の顔で。目を閉じることもできずに食われた。まさにぱくりと言う効果音が似合うほど一口に唇を食われ、軽く含まれた後意外にもすんなり離れた。……いや、意外にもって変だけど許して欲しい。私も混乱しているのだ。
「よし」
一旦離れた副船長は自分のマントを脱ぐとなぜかそれで私をぐるぐる巻きにし、最後に丁寧に結んで満足げにすると、また私を抱えそのまま寝た。え、寝た……??
あまりの突拍子のなさに唖然とするも、ぐるぐる巻きにされてしまっているから身動きはもちろん取れないし、取れたどころで回されている腕にがっちりホールドされている。それにすーすーと気持ちよく寝ている副船長を起こすのは気がひける……たとえいくら説明が欲しくともだ。
「いや~、今日のは一段と面白かったなァ~」
赤が笑う。何も面白くはない。そう言いたかったのだけれど、ショート寸前の頭では何も言えなくて。
その後、ご機嫌なお頭は副船長をちゃんと部屋に放り込み。ついでに簀巻き状態の私も一緒に放り込まれ。
顔を覆った副船長に「……すまん」と謝られたのは次の日の朝の事だった。
リクエスト:お酒の席でベックマンに振り回されるヒロイン
副船長はきっと酔ってもがっつり記憶が残るタイプではないかと。むしろ寝不足で限界状態の方が記憶なさそうです。好きな女性をお酒に酔って困らせるような男性ではない気がしたので、お頭にご協力いただきました 笑。目が覚めた副船長はちゃんと仕切り直して欲しいですね。
リクエストありがとうございました!
「もしお前が俺の傍を離れると言い始めたら、俺はお前を縛り付ける自信がある」
「いろいろ突っ込みたいのですが、とりあえずお頭は正座してください」
とある島のとある酒場に呼び出されたと思ったらカウンターに座らされ、右手にお頭、左手に副船長。副船長の少しかさついた堅い手が、私の手首を握っている。逃がさないようになのか折れはしないが結構な力で握られているので少しばかりドキドキする。一応言っておくとときめきの心臓の動きではない。握られているのは手首だと言うのになぜ心臓、あるいは首に手を掛けられているように感じるのか。流石4皇の右腕と誇らしく思えばいいのか、悲しめばいいのか。
「いやー、すまん!!飲ませ過ぎた!!」
「嘘もいい加減にしてください、副船長は貴方よりお酒強いでしょう!?今度は何飲ませたんですか!」
今日は二人で飲みに行く、と船を出て行ったのに「今すぐ来~い」と酔っぱらったお頭の声で電話がかかってきたのはおかしいとは思ったのだ。ただ、おかしいとは思ってもお頭が呼んでいるのに行かないわけもいかず、こうして来てしまったのが運の尽きともいえる。
何がまずいって、いつもストッパー役のはずの副船長が冒頭の通りなのだ。
確実に酔っている。とても珍しいことに。取られた手首をじわじわと引かれ、副船長の方に寄せられていくのを必死に踏ん張りながら機嫌よく笑うお頭に噛みつくもどこ吹く風。頬を髪と揃いに染めている時点でもう何を言っても無駄だと言うことは百も承知だし、素面であっても面白いと思ったことは何が何でもやるような人だから本当に本当にこちらが疲弊するだけだということは分かっているんだけど。
「ちょっとだけ酒が回りやすくなる薬を仕込んだだけさ。ベックはいつも真面目過ぎんだからいいだろ~?」
「お頭が自由奔放すぎるから副船長がその分真面目なんでしょう?ちょっとは……きゃっ!?」
あまりに何も考えていない言葉に今回はと少し小言を漏らそうとした瞬間、思いっきり引かれた左手。とっさに受け身を取ることもできなかったけど、当たり前に思いっきりぶつかった副船長は揺らぐこともなく。
「なんでシャンクスと話すんだ」
「え、と……?」
「なんでシャンクスと話すんだ」
「あ、いや、聞こえてるんですけど……お頭が副船長にちょっかいをかけているので……?」
「お頭はいい。だが、シャンクスはだめだ」
「……はい?」
顔色はいつも通り。でも発言が妙。言葉の意図が掴めなくて、助けを求めるようにお頭の方を見ればいつも通りニコニコ笑っていて、だけど見た瞬間視界は瞬時に真っ暗になった。……待って欲しい。
「シャンクス、こいつにちょっかいを出すな」
「おお?そりゃどうしてだ?」
「言わねェと分からねェほど馬鹿な男じゃないだろう」
「どうだかな。俺はお前ほど真面目じゃねェからなァ……」
暗い視界を作っているのは副船長の手だ。堅くて少し冷たい手の平に覆われて何も見えないのだけれど、不穏な空気は伝わってきて冷や汗が出る。いや、本当に待って欲しい。とにかく喧嘩なら私を挟まずに二人だけでやって欲しいともがいていれば、視界が開けてひょいと体が浮いた。目の前には副船長。
「いいか、シャンクスとは話さなくていい」
「……いや、お頭と話さないのは無理だと思うのですが……」
「お頭はいいんだ。シャンクスと話すな」
やっぱり意図が読めなくて困ってしまう。眉間に寄せられた皺が若干怖い。
「……副船長、もう少し分かりやすくお願いできませんか」
「俺以外の男と無駄に話すなと言う話だ」
死も覚悟で尋ね返された言葉に「は」と口が開く。なんで私は副船長の膝の上に乗せられてるんだとか、お頭と喧嘩しないで下さいとか、もう船に戻って休みましょうとかいろいろ言いたいのだけれど。
……俺以外の男と話すな……??え、いや、それは。
「ふ、副船長酔ってますよね?」
「ああ、酔ってるな」
「じゃあ」
「だが、自分で言っていることが分からねェほどじゃない」
「それ一番たちが悪いやつでは……」
「な、酔うと面白いだろ?」
「いや、面白くは……」
あ、まずい。ナチュラルに会話に加わってきたお頭に応えてしまったと気づいた時にはもう遅い。ぶわっと殺気が広がって身構える間もなく覇気の衝突。それに加えて鈍い衝撃が副船長の体越しに伝わった。
「シャンクス」
「今のは俺が悪いわけじゃねェだろ」
「私もそう思います……」
ギシギシと不穏な音を立てている銃と剣。副船長は銃を鈍器として使うのが癖なのか。笑っているとは言え、お頭がなんでもない時に剣を抜くのは珍しいしそれなりに副船長が本気なのだろう。冷や汗が止まらない。ど、どうすれば機嫌が治るのだろうか……??とりあえず落ち着いて欲しいと声を発すれば、副船長はむっとする。
「なんでシャンクスをかばう?」
「かばうわけじゃないですけど、今のは返事をした私が悪いのであってお頭は悪くないでしょう?」
「そうか、じゃあ」
お前が悪いな、と言われた瞬間ぐいっと顎を掴まれた。見開いた目一杯に映るのは副船長の顔で。目を閉じることもできずに食われた。まさにぱくりと言う効果音が似合うほど一口に唇を食われ、軽く含まれた後意外にもすんなり離れた。……いや、意外にもって変だけど許して欲しい。私も混乱しているのだ。
「よし」
一旦離れた副船長は自分のマントを脱ぐとなぜかそれで私をぐるぐる巻きにし、最後に丁寧に結んで満足げにすると、また私を抱えそのまま寝た。え、寝た……??
あまりの突拍子のなさに唖然とするも、ぐるぐる巻きにされてしまっているから身動きはもちろん取れないし、取れたどころで回されている腕にがっちりホールドされている。それにすーすーと気持ちよく寝ている副船長を起こすのは気がひける……たとえいくら説明が欲しくともだ。
「いや~、今日のは一段と面白かったなァ~」
赤が笑う。何も面白くはない。そう言いたかったのだけれど、ショート寸前の頭では何も言えなくて。
その後、ご機嫌なお頭は副船長をちゃんと部屋に放り込み。ついでに簀巻き状態の私も一緒に放り込まれ。
顔を覆った副船長に「……すまん」と謝られたのは次の日の朝の事だった。
リクエスト:お酒の席でベックマンに振り回されるヒロイン
副船長はきっと酔ってもがっつり記憶が残るタイプではないかと。むしろ寝不足で限界状態の方が記憶なさそうです。好きな女性をお酒に酔って困らせるような男性ではない気がしたので、お頭にご協力いただきました 笑。目が覚めた副船長はちゃんと仕切り直して欲しいですね。
リクエストありがとうございました!
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