7.永遠の愛
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7.永遠の愛
「久しぶりにあいつの本気を見たねい……」
気が付けば、私の視界は水色に染まっていた。海の中にでもいるのだろうか、とぼうっと考えてそれにしては息ができることを不思議に思う。ゆらゆら揺れるそれに触れれば軟らかくてどちらかと言えば温かい。何だろう……?もう少し触れれば分かるだろうか、と手を伸ばせばまた、遠くで銃声が聞こえて。
――銃声……?――
「白ひげ海賊団の家族に手ェ出したらどうなるか、知ってんだろい?分かってんならさっさと行きな。俺に相手にする気はねえが、船で怖いおにーさんがブチ切れてて殺気がやべェからよい」
知らない男の人と逃げるような足音にばちっと目を開ければ真上から「……起きたか」と少しダルそうな男の声が降ってきた。
あれ、生きてる?どうして?
訳が分からずあわあわする私をなだめるように、水色が私の視界を覆った。
「落ち着けよい」
ぐるっと優しいそれに包まれてどうやらこの金髪の男の人は敵ではないことに安堵する。その瞬間また響いた銃声に肩をびくつかせれば、男の人は「ったく、怒るぐれェなら自分で来いよい」とぶつぶつと文句を言っているが、銃声の方角に目を向けて私はもしかして、と思った。
どうやらこの男の人は白ひげ海賊団の方のようで、私が胸に抱いている羽織に目を落として「健気なもんだねい」と少し笑うとその身を鳥に変えて、船まで連れて行ってくれた。
「あの距離で狙えるなら俺が行く必要なかったろい」
「馬鹿言うな。うっかり撃ち殺しちまって胡蝶に汚ェ血を付けられるかよ」
「貸し一つだい」
「すぐ返すさ」
船に近づくと推測は確信に変わって。あの、桔梗の人が船首に立って待っていた。ちょうど銃を懐にしまうところで、ああやっぱりあの銃声はこの人のものだったかとほっと息を吐いた。
甲板に降り立てば、桔梗の人が青い鳥の男の人と会話をしながらゆっくりとこちらに来た。そして私が鳥さんの背から降りるのに手を貸してくれて。
「っわ!?」
「ったく、お前さんは俺を試すつもりだったのかい?」
ぐっと膝から持ち上げるように抱き上げられて、慌てて桔梗の人の首に手を回す。試す?え、何が?とはてなを飛ばしていれば、「桔梗の人、何だろ?俺は」と笑われて、逡巡したのちに、あることに気が付いてぼっと顔が熱くなった。
「いや、あの!!違くて!!私は、貴方がとても気品のある人だと思ったからそう……!!」
桔梗の人。そう呼んだのは桔梗の花言葉に「気品」と言うものがあって、とても美しい人だと思ったからぴったりだと思ってのことだったのだけれど、花言葉というのは複数あるものだ。
「死んでも愛してやるが、俺は生きている間もしっかり愛してェなァ」
思わず息を飲んだ。
桔梗の花の、有名なもう一つの花言葉。それは「永遠の愛」だ。昔、女の人が戦に行って帰ってこなくなった男の人を亡霊になってもなお愛したことからつけられた花言葉。男女は逆だが、今はどうでもいいだろう。
「……自由もくださったのに、その上愛も、下さるのですか?」
「おめえさんがいらねェと言ってもやる自信はあるな」
ぼっとますます顔が熱くなって、ついにぼろりと涙がでた。「泣き虫だなァ」と笑われて、そっと着物の袖で拭われる。うす紫のそれが涙で染まって、それこそ桔梗の色のようだった。
「……っ名前を、教えてはくれませんか?」
「イゾウだ。……胡蝶、答えはくれねェのかい?」
手をつないで帰ったときのように少し眉を下げて尋ねられる。それが今は演技には見えないのは自惚れだろうか。私は涙をこらえて、ゆっくりと呼吸をするとはっきりと自分の思いを言葉にした。
「私は浜辺で貴方を思うのは嫌です。苦しい恋の病が治ってしまって、渡ったこともない海の波で裾を濡らすことも、すべて、嫌です。……貴方は私に自由をくれました。もし、その自由の中に、貴方を思う自由もあるのなら、」
――イゾウさん、貴方を愛させてください――
言い終わると同時に歓声が巻き起こった。「おめでとう!」「妹ができたぞ!!」「かわいい子だ!!」とか照れ臭い言葉に混じって「出航だァ!!」と言う声が響いた。
帆が張られ、風を受けて船が進む。甲板に足をつけて、これから海を渡るのだと思うと胸がどきどきした。そんな私をイゾウさんは優しいまなざしで見るとぽすんと一回頭を撫でてくれた。
その瞬間、大きな笑い声。
「グララララ!!バカ息子よ、めでてェじゃねェか!!一曲踊れェ!!」
船長さんの言葉にイゾウさんはあきれたように溜息を一つ落としつつも、嬉しそうだ。やっぱり踊れる人だったのだな、と思っていれば胸に抱いていた羽織を抜き取られた。
「あっ」
「大事に抱いてくれて嬉しいばかりだが、妬いちまうだろ?」
意地悪な笑み。そう言いつつも、どこから出したのか代わりと言うように黄色いレースのショールを私の肩に掛けてくれた。そのまま手を引かれ、甲板の中央に二人で躍り出る。
いつの間にか陽気な音楽が演奏されていて、それは舞のための曲ではなかったけれどここは舞台ではない。舞の動作を入れつつも自由に踊っているイゾウさんに誘われるように私も夢中で踊った。
桔梗の花に誘われては、黄色いショールは蝶の羽のように広がる。彼が花のはずなのに、意地悪にも彼は私が羽を休めようと近づくとひらりと逃げた。曲が終わりそうになっても、どうしても捕まらないから私は思い切ってつよく甲板を蹴った。
半ば押し倒すほどの勢いで飛びついたというのに、イゾウさんは全く動じなかった。むしろ待っていたと言わんばかりに機嫌がよくて。
「愛してるぜ」
「愛しています」
重なった言葉に笑い合った。
Fin.
「久しぶりにあいつの本気を見たねい……」
気が付けば、私の視界は水色に染まっていた。海の中にでもいるのだろうか、とぼうっと考えてそれにしては息ができることを不思議に思う。ゆらゆら揺れるそれに触れれば軟らかくてどちらかと言えば温かい。何だろう……?もう少し触れれば分かるだろうか、と手を伸ばせばまた、遠くで銃声が聞こえて。
――銃声……?――
「白ひげ海賊団の家族に手ェ出したらどうなるか、知ってんだろい?分かってんならさっさと行きな。俺に相手にする気はねえが、船で怖いおにーさんがブチ切れてて殺気がやべェからよい」
知らない男の人と逃げるような足音にばちっと目を開ければ真上から「……起きたか」と少しダルそうな男の声が降ってきた。
あれ、生きてる?どうして?
訳が分からずあわあわする私をなだめるように、水色が私の視界を覆った。
「落ち着けよい」
ぐるっと優しいそれに包まれてどうやらこの金髪の男の人は敵ではないことに安堵する。その瞬間また響いた銃声に肩をびくつかせれば、男の人は「ったく、怒るぐれェなら自分で来いよい」とぶつぶつと文句を言っているが、銃声の方角に目を向けて私はもしかして、と思った。
どうやらこの男の人は白ひげ海賊団の方のようで、私が胸に抱いている羽織に目を落として「健気なもんだねい」と少し笑うとその身を鳥に変えて、船まで連れて行ってくれた。
「あの距離で狙えるなら俺が行く必要なかったろい」
「馬鹿言うな。うっかり撃ち殺しちまって胡蝶に汚ェ血を付けられるかよ」
「貸し一つだい」
「すぐ返すさ」
船に近づくと推測は確信に変わって。あの、桔梗の人が船首に立って待っていた。ちょうど銃を懐にしまうところで、ああやっぱりあの銃声はこの人のものだったかとほっと息を吐いた。
甲板に降り立てば、桔梗の人が青い鳥の男の人と会話をしながらゆっくりとこちらに来た。そして私が鳥さんの背から降りるのに手を貸してくれて。
「っわ!?」
「ったく、お前さんは俺を試すつもりだったのかい?」
ぐっと膝から持ち上げるように抱き上げられて、慌てて桔梗の人の首に手を回す。試す?え、何が?とはてなを飛ばしていれば、「桔梗の人、何だろ?俺は」と笑われて、逡巡したのちに、あることに気が付いてぼっと顔が熱くなった。
「いや、あの!!違くて!!私は、貴方がとても気品のある人だと思ったからそう……!!」
桔梗の人。そう呼んだのは桔梗の花言葉に「気品」と言うものがあって、とても美しい人だと思ったからぴったりだと思ってのことだったのだけれど、花言葉というのは複数あるものだ。
「死んでも愛してやるが、俺は生きている間もしっかり愛してェなァ」
思わず息を飲んだ。
桔梗の花の、有名なもう一つの花言葉。それは「永遠の愛」だ。昔、女の人が戦に行って帰ってこなくなった男の人を亡霊になってもなお愛したことからつけられた花言葉。男女は逆だが、今はどうでもいいだろう。
「……自由もくださったのに、その上愛も、下さるのですか?」
「おめえさんがいらねェと言ってもやる自信はあるな」
ぼっとますます顔が熱くなって、ついにぼろりと涙がでた。「泣き虫だなァ」と笑われて、そっと着物の袖で拭われる。うす紫のそれが涙で染まって、それこそ桔梗の色のようだった。
「……っ名前を、教えてはくれませんか?」
「イゾウだ。……胡蝶、答えはくれねェのかい?」
手をつないで帰ったときのように少し眉を下げて尋ねられる。それが今は演技には見えないのは自惚れだろうか。私は涙をこらえて、ゆっくりと呼吸をするとはっきりと自分の思いを言葉にした。
「私は浜辺で貴方を思うのは嫌です。苦しい恋の病が治ってしまって、渡ったこともない海の波で裾を濡らすことも、すべて、嫌です。……貴方は私に自由をくれました。もし、その自由の中に、貴方を思う自由もあるのなら、」
――イゾウさん、貴方を愛させてください――
言い終わると同時に歓声が巻き起こった。「おめでとう!」「妹ができたぞ!!」「かわいい子だ!!」とか照れ臭い言葉に混じって「出航だァ!!」と言う声が響いた。
帆が張られ、風を受けて船が進む。甲板に足をつけて、これから海を渡るのだと思うと胸がどきどきした。そんな私をイゾウさんは優しいまなざしで見るとぽすんと一回頭を撫でてくれた。
その瞬間、大きな笑い声。
「グララララ!!バカ息子よ、めでてェじゃねェか!!一曲踊れェ!!」
船長さんの言葉にイゾウさんはあきれたように溜息を一つ落としつつも、嬉しそうだ。やっぱり踊れる人だったのだな、と思っていれば胸に抱いていた羽織を抜き取られた。
「あっ」
「大事に抱いてくれて嬉しいばかりだが、妬いちまうだろ?」
意地悪な笑み。そう言いつつも、どこから出したのか代わりと言うように黄色いレースのショールを私の肩に掛けてくれた。そのまま手を引かれ、甲板の中央に二人で躍り出る。
いつの間にか陽気な音楽が演奏されていて、それは舞のための曲ではなかったけれどここは舞台ではない。舞の動作を入れつつも自由に踊っているイゾウさんに誘われるように私も夢中で踊った。
桔梗の花に誘われては、黄色いショールは蝶の羽のように広がる。彼が花のはずなのに、意地悪にも彼は私が羽を休めようと近づくとひらりと逃げた。曲が終わりそうになっても、どうしても捕まらないから私は思い切ってつよく甲板を蹴った。
半ば押し倒すほどの勢いで飛びついたというのに、イゾウさんは全く動じなかった。むしろ待っていたと言わんばかりに機嫌がよくて。
「愛してるぜ」
「愛しています」
重なった言葉に笑い合った。
Fin.
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