雨と猫
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その後も二人で他のゲームをしているうちに気づけば夕方になっていた。
夕陽が射し込み真人の灰の瞳を照らす。
色素が薄い灰の瞳は光をより眩しく感じるのか、真人は煩わしそうに目を細めていた。
それに気づいた僕は立ち上がってカーテンを閉めに行く。
今は十月初旬の秋、日が暮れるのも早くなってくる時期だし早めにカーテンを閉めておいてもいいだろう。
「この後はどうしよっか。やることがないなら早めに寝る?明日は朝早くから出かける予定だし」
「え〜?俺はもうちょっと遊びたいんだけど……あ、これとか一緒に観るのどう?」
「映画か……いいね。母さんが好きな話だしせっかくだから一緒に見ようか」
テレビ台の棚を漁っていた真人が手に取ったのはタイ〇ニックの映画で。
確か、母さんが好きな映画のDVDを買って置いていたんだと思い出す。
両親はかなり仲良い夫婦だからリビングで一緒に観ていたこともあったっけ。
まるでその時の両親のように、真人と寄り添いながらソファに座る。
部屋の照明も暗くして、映画館さながらの臨場感と雰囲気をかもし出していた。
「これってどういう話?人がたくさん死ぬ?」
「えっと、タイタニック号が沈んだ史実を元に作られた恋愛ドラマだよ。人が死ぬかは……ネタバレになるから秘密で」
先の展開を知りたがる真人に秘密だと告げ、そのまま映画を観始めた。
本編の真人は人間の感情を学ぼうと映画館に行ったりしていたし、興味を持つかと思ったけれど。
何故か時折、映画ではなく僕の顔を観察しているようだった。
「……ねぇ、僕の顔ばかり見てどうしたの?この映画つまらない?」
「ん?いやぁ……与えられた役割を演じるだけの人間よりかは、君の反応を見た方が人の感情を知る勉強になると思って」
「そう?この映画の俳優は皆んな演技も上手かったと思うけど……」
DVDプレイヤーから観終わった映画のディスクを取り出す。
結局、最後の最後まで真人は僕の横顔を見つめていた。
僕自身は無気力な人間だから真人にとって退屈だと思うけど、何がそんなに気になるんだろうか。
もしかしたら、表情ではなく魂を観察していたのかもしれない。
「造りものでしかない画面の中の人間と違って、紫苑の反応の方が新鮮で良かったよ」
そう言って真人はにっこりと笑ってみせる。
ちゃんと楽しめたのか不安だったけど、本人なりの楽しみ方があるしそれ以上は何も聞かなかった。
DVDを元の棚にしまい立ち上がれば、真人が棚の上に飾られている家族写真を見ているのに気づく。
「ここに写っている人間は紫苑の家族?」
「うん。父さんと母さんだね、今は二人とも海外で仕事してるから家にいないけど」
「ふぅん?紫苑は家族のこと……好き?」
「好きか嫌いかでいえば好きだよ。今はそばにいないけど、たくさん愛してくれたから」
真人が見つめる写真立てを一つ手に取り、懐かしい風景を見つめる。
そのどれもが幸せそうな家族写真で僕が子供の頃のもちゃんと飾られてある。
そばに居てくれなくても、今世の両親が僕を大事に思い愛情を注いでくれたのは紛れもない事実だった。
「ふぅん?さっきの映画の主人公は女を助けるために死んだけど。家族に対する好きと恋人に対する好きって、結局何が違うんだろ」
「それはやっぱり……キスとか、その、そういう行為をしたいかじゃない?」
「あぁ、相手と繁殖したいかってことか。それなら人間の男と女の間にしか無い感情なのかな」
「いや……男同士、女同士でも付き合う人はいるし。誰を好きになるかなんて決まりはないよ」
なるべく言葉を濁して伝えようとしたのに、直球で繁殖だと言われる。
それに、繁殖の為だけではなく同性同士や二次元に恋する人もいるって伝えた。
「へぇ、それなら……呪霊を好きになるヤツもいるのかな」
「それは聞いた事ないな。でも、もしかしたらいるかもね。世界は広いから」
「紫苑はどう?呪霊と付き合える?」
真人なりに疑問に思うところがあったらしい。
身近にそういうことを聞ける人間がいないから僕にそんな質問を投げかけてくるのか。
そっと写真立てを元の位置に戻し、真人の問いを真剣に考えた。
「うーん……僕も誰かを好きになったことがないから分かんないけどさ。きっと好きになったら呪いだろうが人だろうが、関係なくなるよ」
「そういうもの?だったら……もしそれが俺だとしたら紫苑は愛してくれる?」
気がつけば真人によって壁際へと追い詰められていた。
身長差も十五センチはあるから、こうして詰められるとかなり怖い。
でも青と灰の瞳はほんの少しだけ期待に満ちているような気がした。
「真人を好きになったら……そうだね。たくさん可愛がってあげるよ」
「えー!それって猫の時とあんま変わんないじゃん。まぁ、それでもいいけどさ」
ひとまず納得いったのか、ようやく質問攻めから解放された。
その後も人間や社会について色々と教えていたらいつの間にか外は夜になっていた。
今日の夕食は簡単に作れるカレーにしようと材料を取り出せば、真人も『手伝うよ』と申し出てくれる。
包丁を使わず、腕を刃に変形させてニンジンを切ろうとしていたから慌てて止めたけど。
二人で食べた後食器を片付け、お風呂に入ろうと向かえばふと違和感に気付く。
「……真人?どうしてついてくるの」
「昨日も一緒に入った仲じゃん。何がダメなんだよー」
「っ!昨日は猫だったから……!人型のままはダメだって!」
さも当然だというように真人が僕の後についてきていた。
昨日、お風呂に入る時に裸を見られたかと思うと恥ずかしさで顔が熱くなってくる。
真人は呪霊だし人と違ってそういうの気にしないんだろうけど、人である僕は別だ。
普段は無気力な僕にも恥じらいくらいちゃんとある。
「じゃあ猫になればいいんだね?__にゃーん?」
「そういうことじゃなくて……!あぁもう、猫になられたら撫でたくなっちゃうじゃん」
猫に弱いことを知ってか、真人はまた猫になって愛らしく鳴いてみせた。
案の定僕はふわふわな猫、もとい真人を撫で始めてしまう。
「あははっ、紫苑におねだりする時は猫になれば簡単だね♪」
「もう。こういうことばっかすぐ覚えるんだから……」
「あ、でも今日はこっちの姿で入りたいかも!」
そう言って真人はいつもの人型に戻ってみせる。
なぜか猫耳と尻尾は残したままだけど。
そんなことより、目の前にツギハギだらけの裸体が露わになった。
「えっと、服は……?」
「ん?風呂に入るんだし服は脱いだよ」
器用にも人型へ戻る時に服だけ脱いだらしい。
予想してなかった真人の裸体に僕は動揺してしまう。
とりあえず、なるべく下は見ないようにして真人の腰にさっとタオルを巻いた。
「ねぇ、隠す必要ある?俺は人間と違って性別なんて無いし。しっぽも巻かれてて邪魔なんだけど……」
「……隠さないなら一緒に入らない」
「分かったってば。そんなに怒るなよ〜、ね?」
するりとふわふわな尻尾を腕に巻き付けられ、甘えるような声を出されてしまえば。
結局、今日も一緒にお風呂に入ることになった。
__________
ドライヤーの音がリビングに響く。
二人でわちゃわちゃしながらお風呂に入った後、真人の髪を乾かしてあげていた。
長くくすんだ水色の髪を手で梳かしてあげながら丁寧に水気を飛ばす。
「真人の髪って綺麗だね。猫っ毛な僕とは違ってさらさらだし」
「そうかな?あまり気にしたことないけど、紫苑が気に入ったのなら良かったよ」
お風呂がそんなに楽しかったのか、上機嫌に鼻歌まで歌っている。
今流行りの歌なのか僕もどこかで聴いたことある曲だった。
「俺は紫苑の髪も好きだけどね。猫っ毛っていうの?ふわふわで柔らかくて……触り心地もいいし」
『紫苑の方こそ猫なんじゃない?』と、冗談っぽく言われてしまう。
でも僕には自分の頭を撫でる趣味は無い、やっぱり本物の猫を撫でている時の方が幸せに感じる。
そんなことを言い合っていると、真人の髪も乾かし終えさらふわになっていた。
そこにぴょこんとまた猫耳を生やしてみせる。
ドライヤーの音はうるさいから猫耳は仕舞っていたのかな?
人間より動物の方が聴覚に優れているっていうし、それは猫耳を生やした真人も同じなのかもしれない。
「ほら、一緒に寝よ?」
「うん」
もう寝ようと寝室に向かえば一緒に寝ようと誘われる。
人型だろうが相変わらず猫のようにベッドを陣取る真人に苦笑しつつ、僕もその隣で眠った。
夕陽が射し込み真人の灰の瞳を照らす。
色素が薄い灰の瞳は光をより眩しく感じるのか、真人は煩わしそうに目を細めていた。
それに気づいた僕は立ち上がってカーテンを閉めに行く。
今は十月初旬の秋、日が暮れるのも早くなってくる時期だし早めにカーテンを閉めておいてもいいだろう。
「この後はどうしよっか。やることがないなら早めに寝る?明日は朝早くから出かける予定だし」
「え〜?俺はもうちょっと遊びたいんだけど……あ、これとか一緒に観るのどう?」
「映画か……いいね。母さんが好きな話だしせっかくだから一緒に見ようか」
テレビ台の棚を漁っていた真人が手に取ったのはタイ〇ニックの映画で。
確か、母さんが好きな映画のDVDを買って置いていたんだと思い出す。
両親はかなり仲良い夫婦だからリビングで一緒に観ていたこともあったっけ。
まるでその時の両親のように、真人と寄り添いながらソファに座る。
部屋の照明も暗くして、映画館さながらの臨場感と雰囲気をかもし出していた。
「これってどういう話?人がたくさん死ぬ?」
「えっと、タイタニック号が沈んだ史実を元に作られた恋愛ドラマだよ。人が死ぬかは……ネタバレになるから秘密で」
先の展開を知りたがる真人に秘密だと告げ、そのまま映画を観始めた。
本編の真人は人間の感情を学ぼうと映画館に行ったりしていたし、興味を持つかと思ったけれど。
何故か時折、映画ではなく僕の顔を観察しているようだった。
「……ねぇ、僕の顔ばかり見てどうしたの?この映画つまらない?」
「ん?いやぁ……与えられた役割を演じるだけの人間よりかは、君の反応を見た方が人の感情を知る勉強になると思って」
「そう?この映画の俳優は皆んな演技も上手かったと思うけど……」
DVDプレイヤーから観終わった映画のディスクを取り出す。
結局、最後の最後まで真人は僕の横顔を見つめていた。
僕自身は無気力な人間だから真人にとって退屈だと思うけど、何がそんなに気になるんだろうか。
もしかしたら、表情ではなく魂を観察していたのかもしれない。
「造りものでしかない画面の中の人間と違って、紫苑の反応の方が新鮮で良かったよ」
そう言って真人はにっこりと笑ってみせる。
ちゃんと楽しめたのか不安だったけど、本人なりの楽しみ方があるしそれ以上は何も聞かなかった。
DVDを元の棚にしまい立ち上がれば、真人が棚の上に飾られている家族写真を見ているのに気づく。
「ここに写っている人間は紫苑の家族?」
「うん。父さんと母さんだね、今は二人とも海外で仕事してるから家にいないけど」
「ふぅん?紫苑は家族のこと……好き?」
「好きか嫌いかでいえば好きだよ。今はそばにいないけど、たくさん愛してくれたから」
真人が見つめる写真立てを一つ手に取り、懐かしい風景を見つめる。
そのどれもが幸せそうな家族写真で僕が子供の頃のもちゃんと飾られてある。
そばに居てくれなくても、今世の両親が僕を大事に思い愛情を注いでくれたのは紛れもない事実だった。
「ふぅん?さっきの映画の主人公は女を助けるために死んだけど。家族に対する好きと恋人に対する好きって、結局何が違うんだろ」
「それはやっぱり……キスとか、その、そういう行為をしたいかじゃない?」
「あぁ、相手と繁殖したいかってことか。それなら人間の男と女の間にしか無い感情なのかな」
「いや……男同士、女同士でも付き合う人はいるし。誰を好きになるかなんて決まりはないよ」
なるべく言葉を濁して伝えようとしたのに、直球で繁殖だと言われる。
それに、繁殖の為だけではなく同性同士や二次元に恋する人もいるって伝えた。
「へぇ、それなら……呪霊を好きになるヤツもいるのかな」
「それは聞いた事ないな。でも、もしかしたらいるかもね。世界は広いから」
「紫苑はどう?呪霊と付き合える?」
真人なりに疑問に思うところがあったらしい。
身近にそういうことを聞ける人間がいないから僕にそんな質問を投げかけてくるのか。
そっと写真立てを元の位置に戻し、真人の問いを真剣に考えた。
「うーん……僕も誰かを好きになったことがないから分かんないけどさ。きっと好きになったら呪いだろうが人だろうが、関係なくなるよ」
「そういうもの?だったら……もしそれが俺だとしたら紫苑は愛してくれる?」
気がつけば真人によって壁際へと追い詰められていた。
身長差も十五センチはあるから、こうして詰められるとかなり怖い。
でも青と灰の瞳はほんの少しだけ期待に満ちているような気がした。
「真人を好きになったら……そうだね。たくさん可愛がってあげるよ」
「えー!それって猫の時とあんま変わんないじゃん。まぁ、それでもいいけどさ」
ひとまず納得いったのか、ようやく質問攻めから解放された。
その後も人間や社会について色々と教えていたらいつの間にか外は夜になっていた。
今日の夕食は簡単に作れるカレーにしようと材料を取り出せば、真人も『手伝うよ』と申し出てくれる。
包丁を使わず、腕を刃に変形させてニンジンを切ろうとしていたから慌てて止めたけど。
二人で食べた後食器を片付け、お風呂に入ろうと向かえばふと違和感に気付く。
「……真人?どうしてついてくるの」
「昨日も一緒に入った仲じゃん。何がダメなんだよー」
「っ!昨日は猫だったから……!人型のままはダメだって!」
さも当然だというように真人が僕の後についてきていた。
昨日、お風呂に入る時に裸を見られたかと思うと恥ずかしさで顔が熱くなってくる。
真人は呪霊だし人と違ってそういうの気にしないんだろうけど、人である僕は別だ。
普段は無気力な僕にも恥じらいくらいちゃんとある。
「じゃあ猫になればいいんだね?__にゃーん?」
「そういうことじゃなくて……!あぁもう、猫になられたら撫でたくなっちゃうじゃん」
猫に弱いことを知ってか、真人はまた猫になって愛らしく鳴いてみせた。
案の定僕はふわふわな猫、もとい真人を撫で始めてしまう。
「あははっ、紫苑におねだりする時は猫になれば簡単だね♪」
「もう。こういうことばっかすぐ覚えるんだから……」
「あ、でも今日はこっちの姿で入りたいかも!」
そう言って真人はいつもの人型に戻ってみせる。
なぜか猫耳と尻尾は残したままだけど。
そんなことより、目の前にツギハギだらけの裸体が露わになった。
「えっと、服は……?」
「ん?風呂に入るんだし服は脱いだよ」
器用にも人型へ戻る時に服だけ脱いだらしい。
予想してなかった真人の裸体に僕は動揺してしまう。
とりあえず、なるべく下は見ないようにして真人の腰にさっとタオルを巻いた。
「ねぇ、隠す必要ある?俺は人間と違って性別なんて無いし。しっぽも巻かれてて邪魔なんだけど……」
「……隠さないなら一緒に入らない」
「分かったってば。そんなに怒るなよ〜、ね?」
するりとふわふわな尻尾を腕に巻き付けられ、甘えるような声を出されてしまえば。
結局、今日も一緒にお風呂に入ることになった。
__________
ドライヤーの音がリビングに響く。
二人でわちゃわちゃしながらお風呂に入った後、真人の髪を乾かしてあげていた。
長くくすんだ水色の髪を手で梳かしてあげながら丁寧に水気を飛ばす。
「真人の髪って綺麗だね。猫っ毛な僕とは違ってさらさらだし」
「そうかな?あまり気にしたことないけど、紫苑が気に入ったのなら良かったよ」
お風呂がそんなに楽しかったのか、上機嫌に鼻歌まで歌っている。
今流行りの歌なのか僕もどこかで聴いたことある曲だった。
「俺は紫苑の髪も好きだけどね。猫っ毛っていうの?ふわふわで柔らかくて……触り心地もいいし」
『紫苑の方こそ猫なんじゃない?』と、冗談っぽく言われてしまう。
でも僕には自分の頭を撫でる趣味は無い、やっぱり本物の猫を撫でている時の方が幸せに感じる。
そんなことを言い合っていると、真人の髪も乾かし終えさらふわになっていた。
そこにぴょこんとまた猫耳を生やしてみせる。
ドライヤーの音はうるさいから猫耳は仕舞っていたのかな?
人間より動物の方が聴覚に優れているっていうし、それは猫耳を生やした真人も同じなのかもしれない。
「ほら、一緒に寝よ?」
「うん」
もう寝ようと寝室に向かえば一緒に寝ようと誘われる。
人型だろうが相変わらず猫のようにベッドを陣取る真人に苦笑しつつ、僕もその隣で眠った。
