雨と猫
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無事にお願いごとを聞いてもらえたのはかなり幸運だった。
僕の名前を知ってから機嫌が良くなったように思えるけど、このまま真人の飼い主として振舞ってもいいのかな。
ついでに出かける際のルールも設けようと、真人を上目遣いで見上げた。
「あと、僕と一緒の時はなるべく言うことを聞いてね?明日街に出かける予定だから。真人の分の服とか寝具も買いたいし」
「……!それって、紫苑とデートってこと?」
「デート……なのかな?真人がそう思いたいならデートでいいよ」
明日一緒に出かけようと誘えば、真人は子どものようにキラキラと瞳を輝かせた。
さっきまでの凶悪な呪霊の殺気はなりを潜めたらしい。
嬉しげな様子に少し可愛いと思ってしまうけど、デートなんて言葉いったいどこで覚えたんだろう?
人間を起源とする呪いだから生まれたばかりでも人の言葉をある程度話せるのかな。
「とにかく!この2つは絶対守って」
「はーい。ふふ、明日は楽しみにしてるよ」
「そ、そう?よし……それならそろそろ朝ごはんにしようか」
真人に言い聞かせていればきゅるると小さくお腹の音が鳴った。
今日は朝から死ぬほど怖い思いをしたり色々あったけど、こんな時でもお腹は空くもので。
今のところ真人は大人しいし安心したからお腹が空いたのかもしれない。
朝食を作ろうとキッチンへ向かえば、真人も僕の後ろをついてきた。
「俺も手伝おっか?人間って食事をしないと死んじゃうんでしょ?紫苑の体見るからに細いし……簡単に折れそうだ」
「うっ、そりゃ真人に比べたら細いけどさ。
うーん……火を使うし危ないから手伝いはしなくて大丈夫。真人はテレビでも見てて。あ、リモコンの使い方は分かる?」
「そのくらい知ってるよ。じゃあ俺はこっちで待ってるね」
『火なんて平気なのに』とボヤきつつ、真人はリモコンをいじりだす。
休日の朝ということで面白い番組はなさそう。
それでも真人は教育番組でリモコンを止め、退屈そうにテレビの画面を眺めていた。
テレビが引き付けてくれているうちにさっさと作ってしまおう。
今日はホットケーキにしようと材料を取り出して手際よく作っていく。
キッチンとリビングは繋がっており、ホットケーキミックスをかき混ぜる音とテレビの音がそれぞれ聞こえていた。
いつもは一人で料理をするけど今回は真人もいるから二人分で作っていく。
「いつもは一人きりで作ってるけど……。猫だろうが呪いだろうが、お客さんが家に来てくれたみたいで嬉しいかも」
「なんか言ったー?」
「ううん。何でもないよ、もうすぐ出来るから待っててね」
何気ないやり取りでさえ少し嬉しく思ってしまう。
これまでは本当に一人きりだったし、せっかく作った料理も一人で食べるのは味気なかったから。
ついでに、昼用のサンドウィッチも作る。
トーストを切っていると、いつの間にかテレビに飽きた真人がキッチンまでやって来ていた。
「ねぇ、何作ってんの?」
「ホットケーキとサンドウィッチだよ。あの、抱きつかれると危ないし邪魔なんだけど……」
「んー?聞こえないなぁ」
真人は後ろからスルリと僕の腰に手を回し抱きついてくる。
身動きが取りにくいから退いて欲しいと遠回しに伝えれば、うなじに顔を寄せてスリスリしてきた。
まるで猫のようだと思いつつもなるべく気にしないふりをする。
真人はというと離れる気配はなく、諦めてそのままの体勢で具材を切ろうとしたら。
「痛っ……!」
指先に感じる鋭く小さな痛み。
背後の真人に気を取られ、包丁で自分の指を少し切ってしまったみたい。
じんじんと痛み出した指先から小さな赤い雫が皮膚の上に溢れ出てくる。
「あ、血が出てんじゃん!大丈夫?」
「このくらい平気だよ。包丁が少し当たっちゃっただけだし。手当てしたいから離してくれる?」
「手当て?そんなまどろっこしいことしなくても……俺に任せて」
血がにじむ指を見つめていたかと思えば、真人は急に僕の手を取り指を咥えこんでしまった。
薄く形のいい唇がちゅと音を立てて僕の指を食む。
いきなりだったのと、少し扇情的なその行動に僕は呆気に取られる。
驚いて固まっていれば真人はそのまま舌で僕の指を絡めとった。
指先に当たる分厚い舌の感触が離れると同時に、僕の指も開放される。
「ん、これで治ったかな」
「な、何を……って、あれ?傷が消えてる?」
指を食いちぎられたのかと思いきやそんなことはなく。
慌てて指を見つめれば、血がにじんでいた箇所からはもう傷が消えていた。
どういうことかと真人へ振り返れば、特に心配などしてなさそうな青と灰の瞳と目が合う。
「俺の能力"無為転変 "で治してあげたんだ。
俺は魂__すなわち、肉体を好きに弄れる力があってね。これくらいなら簡単に治せるよ」
「へぇ、真人ってそんなことも出来るんだ?……ありがとう」
「どういたしまして」
そう言って真人は無邪気に笑ってみせる。
だけど、真人の術式"無為転変"は本来なら改造人間を生み出したり自身の体を変える為のもの。
原作でもどこまでも人を傷つけることにしか使っていなかったはず。
それなのに、こんな小さな傷を治してくれるなんて。
複雑な心境の中、隣のフライパンの上ではホットケーキが焦げだしていた。
僕の名前を知ってから機嫌が良くなったように思えるけど、このまま真人の飼い主として振舞ってもいいのかな。
ついでに出かける際のルールも設けようと、真人を上目遣いで見上げた。
「あと、僕と一緒の時はなるべく言うことを聞いてね?明日街に出かける予定だから。真人の分の服とか寝具も買いたいし」
「……!それって、紫苑とデートってこと?」
「デート……なのかな?真人がそう思いたいならデートでいいよ」
明日一緒に出かけようと誘えば、真人は子どものようにキラキラと瞳を輝かせた。
さっきまでの凶悪な呪霊の殺気はなりを潜めたらしい。
嬉しげな様子に少し可愛いと思ってしまうけど、デートなんて言葉いったいどこで覚えたんだろう?
人間を起源とする呪いだから生まれたばかりでも人の言葉をある程度話せるのかな。
「とにかく!この2つは絶対守って」
「はーい。ふふ、明日は楽しみにしてるよ」
「そ、そう?よし……それならそろそろ朝ごはんにしようか」
真人に言い聞かせていればきゅるると小さくお腹の音が鳴った。
今日は朝から死ぬほど怖い思いをしたり色々あったけど、こんな時でもお腹は空くもので。
今のところ真人は大人しいし安心したからお腹が空いたのかもしれない。
朝食を作ろうとキッチンへ向かえば、真人も僕の後ろをついてきた。
「俺も手伝おっか?人間って食事をしないと死んじゃうんでしょ?紫苑の体見るからに細いし……簡単に折れそうだ」
「うっ、そりゃ真人に比べたら細いけどさ。
うーん……火を使うし危ないから手伝いはしなくて大丈夫。真人はテレビでも見てて。あ、リモコンの使い方は分かる?」
「そのくらい知ってるよ。じゃあ俺はこっちで待ってるね」
『火なんて平気なのに』とボヤきつつ、真人はリモコンをいじりだす。
休日の朝ということで面白い番組はなさそう。
それでも真人は教育番組でリモコンを止め、退屈そうにテレビの画面を眺めていた。
テレビが引き付けてくれているうちにさっさと作ってしまおう。
今日はホットケーキにしようと材料を取り出して手際よく作っていく。
キッチンとリビングは繋がっており、ホットケーキミックスをかき混ぜる音とテレビの音がそれぞれ聞こえていた。
いつもは一人で料理をするけど今回は真人もいるから二人分で作っていく。
「いつもは一人きりで作ってるけど……。猫だろうが呪いだろうが、お客さんが家に来てくれたみたいで嬉しいかも」
「なんか言ったー?」
「ううん。何でもないよ、もうすぐ出来るから待っててね」
何気ないやり取りでさえ少し嬉しく思ってしまう。
これまでは本当に一人きりだったし、せっかく作った料理も一人で食べるのは味気なかったから。
ついでに、昼用のサンドウィッチも作る。
トーストを切っていると、いつの間にかテレビに飽きた真人がキッチンまでやって来ていた。
「ねぇ、何作ってんの?」
「ホットケーキとサンドウィッチだよ。あの、抱きつかれると危ないし邪魔なんだけど……」
「んー?聞こえないなぁ」
真人は後ろからスルリと僕の腰に手を回し抱きついてくる。
身動きが取りにくいから退いて欲しいと遠回しに伝えれば、うなじに顔を寄せてスリスリしてきた。
まるで猫のようだと思いつつもなるべく気にしないふりをする。
真人はというと離れる気配はなく、諦めてそのままの体勢で具材を切ろうとしたら。
「痛っ……!」
指先に感じる鋭く小さな痛み。
背後の真人に気を取られ、包丁で自分の指を少し切ってしまったみたい。
じんじんと痛み出した指先から小さな赤い雫が皮膚の上に溢れ出てくる。
「あ、血が出てんじゃん!大丈夫?」
「このくらい平気だよ。包丁が少し当たっちゃっただけだし。手当てしたいから離してくれる?」
「手当て?そんなまどろっこしいことしなくても……俺に任せて」
血がにじむ指を見つめていたかと思えば、真人は急に僕の手を取り指を咥えこんでしまった。
薄く形のいい唇がちゅと音を立てて僕の指を食む。
いきなりだったのと、少し扇情的なその行動に僕は呆気に取られる。
驚いて固まっていれば真人はそのまま舌で僕の指を絡めとった。
指先に当たる分厚い舌の感触が離れると同時に、僕の指も開放される。
「ん、これで治ったかな」
「な、何を……って、あれ?傷が消えてる?」
指を食いちぎられたのかと思いきやそんなことはなく。
慌てて指を見つめれば、血がにじんでいた箇所からはもう傷が消えていた。
どういうことかと真人へ振り返れば、特に心配などしてなさそうな青と灰の瞳と目が合う。
「俺の能力"
俺は魂__すなわち、肉体を好きに弄れる力があってね。これくらいなら簡単に治せるよ」
「へぇ、真人ってそんなことも出来るんだ?……ありがとう」
「どういたしまして」
そう言って真人は無邪気に笑ってみせる。
だけど、真人の術式"無為転変"は本来なら改造人間を生み出したり自身の体を変える為のもの。
原作でもどこまでも人を傷つけることにしか使っていなかったはず。
それなのに、こんな小さな傷を治してくれるなんて。
複雑な心境の中、隣のフライパンの上ではホットケーキが焦げだしていた。
