雨と猫
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真人はニコニコ笑っているけど、呪霊達の巣窟に連れてこられた僕は戸惑う。
目の前にいる特級呪霊から放たれる恐ろしい殺気。
息が詰まるほどの重圧と、特級だと勘で分かるほどの禍々しい呪力を感じていた。
早くこの場から逃げたい一心で真人を見上げるも。
「そんなに睨まないでよ。紫苑が萎縮しちゃうじゃん。ただでさえ恥ずかしがり屋なのに」
「真人貴様ァ……!!これは遊びじゃないんだぞ、ふざけているのか!」
「ふざけてるも何も、連れてこいって言ったの漏瑚達じゃん。紫苑の方が付き合い長いんだし今さら別れる気は無いよ」
漏瑚、と呼ばれた火山頭の呪霊が怒りを露わにすると周囲の気温が一気に上がる。
恐ろしいほどの熱に思わず顔をしかめた。
呪力があるから無事ですんでいるけど、非術師がここにいれば間違いなく大火傷を負うだろう。
真人もそう思ったのか漏瑚に怒りを収めるよう忠告した。
「とりあえず、頭の噴火を抑えてよね。紫苑が火傷したらどうすんのさ」
「チィッ……まさか、人間如きにここまで骨抜きにされているとは」
真人と本気で争う気はないのか、漏瑚は放出していた熱を収めた。
場が収まったのを見て、額に縫い目のある因縁の相手が胡散臭い笑みを浮かべたまま僕達に近づいてくる。
どうやら彼も既に真人とは知り合いのようで。
「まさか、こんなところで再会することになるとは思わなかったよ。君とは少し前に会ったことがあるね?
改めて、夏油 傑だ。よろしく」
そう言って夏油は笑顔で手を差し出す。
しかし、額には縫い目があるし中身は__既に入れ替わっているのだろう。
特級呪詛師である夏油 傑は、去年の"百鬼夜行"の際に五条先生によって一度殺されているはずだから。
相手は本当の名前を僕に名乗る気はないらしいけど、前世の知識で夏油の体を乗っ取ったのは"羂索"と呼ばれる呪詛師であることは知っていた。
「(知っているといっても……前世の記憶は曖昧な上、"呪術廻戦"が完結する前に転生しちゃったからあまり知らない。ただ、人の死体を乗っ取り平安時代から生き永らえている呪詛師だとしか)」
とりあえず、何かのはずみで名前を言い間違えると不味いから前と同じく夏油と呼ぶことにした。
乗っ取った体の記憶も引き継がれているらしく、夏油は知り合いのように話しかけてくる。
「夏油……生きてたんだ。てっきり、五条先生に殺されたものだと思ってたのに。でも、襲ってきた人と仲良くすると思う?」
「ははっ、手厳しいね」
中に入っている人間は違うとしても、その胡散臭い笑みに少し仕返しがしてやりたくて襲撃された時のことを咎めた。
さすがの夏油も僕と真人が知り合いだったとは思わなかったのか。
縫い目のある額に汗が滲む。
隣にいる真人も僕の話を聞いて驚いた。
「えっ、前に紫苑を襲ったのって夏油なの?
……ふーん。じゃあ、漏瑚達には悪いけど夏油にはここで消えてもらおっか」
僕と夏油の関係を察した真人が守ってくれるかのように前に出る。
瞬く間にツギハギの腕を刃に変形させ、夏油の首に突きつけた。
肌色ながらも鋭く、鈍く光る刀身が夏油の首の薄皮を切り裂く。
夏油は真人に僕のことを話していなかったんだろう。
まさか、以前襲撃した人間と真人が知り合いだなんてさすがに予想外だよね。
「やれやれ、誤解なんだからそう怒らないでくれよ。最初からこの子が真人のものだって知ってたら手を出さなかったさ」
首から血の雫が流れ落ちるも、夏油は抵抗する様子もなく両手を上げて降参している。
だけど、静かな怒りを滲ませる真人は腕を降ろすことなく、更に夏油の首元へと刃を食い込ませた。
刃と化した腕ははかなり切れ味がいいのか、夏油の首元が薄く傷つけられ血が滴り落ちる。
そんな一触即発の空気の中。
急に真人の腕が弾かれたかと思えば、二人の間に富士山のような呪霊が割り込んできた。
「やめんか真人ッ……!たかが人間一人の為に儂らの計画を無駄にするつもりか!?」
「……漏瑚は黙っててくれる?俺にとって紫苑は一番大事な存在なんだ」
「此奴が計画に必要なのはいくらお前とて分かっておるだろう!?」
僕と夏油の間で言い争いを始めた漏瑚と真人。
更に悪化した雰囲気に、夏油は困ったようにチラッと僕の方へと視線をよこした。
何となくその視線の意図を察した僕は小さな溜め息をつく。
「……はぁ、もういいよ。今の夏油には敵対するつもりはないみたいだし。許してあげて」
「 えー?でも、紫苑がそう言うなら……」
「助かったよ、紫苑君。君は私の命の恩人だね」
真人の刃と化した腕を押さえ脅迫をやめさせる。
これからの呪霊達の計画を思えば無闇に夏油と敵対する必要はない。
僕としてはもう関わりたくないけど。
そんな僕の思惑とは裏腹に、夏油は両手で恭しく僕の手を握ってきた。
僕が反応するより早く手を握られ驚いていると、隣で見ていた真人が素っ頓狂な声を上げる。
「はぁ!?何勝手に俺の紫苑に触ってんの?」
「何って、感謝の意を伝えたかっただけだよ。誓って変なことはしてないさ」
夏油が僕の手を握ったことが許せないのか。
真人は夏油の手を叩き落とし、その大きなツギハギの手で僕の手首を掴む。
また喧嘩しそうな二人をなだめていると、背後に誰かが近づいてくるような気配がした。
それは砂浜の上を這うような音をたて振り返るよりも先に。
「ぶーぶぅー」
どこかからかそんな気の抜けた鳴き声が聞こえてきたかと思えば、コートの端を何かが引っ張った。
目の前にいる特級呪霊から放たれる恐ろしい殺気。
息が詰まるほどの重圧と、特級だと勘で分かるほどの禍々しい呪力を感じていた。
早くこの場から逃げたい一心で真人を見上げるも。
「そんなに睨まないでよ。紫苑が萎縮しちゃうじゃん。ただでさえ恥ずかしがり屋なのに」
「真人貴様ァ……!!これは遊びじゃないんだぞ、ふざけているのか!」
「ふざけてるも何も、連れてこいって言ったの漏瑚達じゃん。紫苑の方が付き合い長いんだし今さら別れる気は無いよ」
漏瑚、と呼ばれた火山頭の呪霊が怒りを露わにすると周囲の気温が一気に上がる。
恐ろしいほどの熱に思わず顔をしかめた。
呪力があるから無事ですんでいるけど、非術師がここにいれば間違いなく大火傷を負うだろう。
真人もそう思ったのか漏瑚に怒りを収めるよう忠告した。
「とりあえず、頭の噴火を抑えてよね。紫苑が火傷したらどうすんのさ」
「チィッ……まさか、人間如きにここまで骨抜きにされているとは」
真人と本気で争う気はないのか、漏瑚は放出していた熱を収めた。
場が収まったのを見て、額に縫い目のある因縁の相手が胡散臭い笑みを浮かべたまま僕達に近づいてくる。
どうやら彼も既に真人とは知り合いのようで。
「まさか、こんなところで再会することになるとは思わなかったよ。君とは少し前に会ったことがあるね?
改めて、夏油 傑だ。よろしく」
そう言って夏油は笑顔で手を差し出す。
しかし、額には縫い目があるし中身は__既に入れ替わっているのだろう。
特級呪詛師である夏油 傑は、去年の"百鬼夜行"の際に五条先生によって一度殺されているはずだから。
相手は本当の名前を僕に名乗る気はないらしいけど、前世の知識で夏油の体を乗っ取ったのは"羂索"と呼ばれる呪詛師であることは知っていた。
「(知っているといっても……前世の記憶は曖昧な上、"呪術廻戦"が完結する前に転生しちゃったからあまり知らない。ただ、人の死体を乗っ取り平安時代から生き永らえている呪詛師だとしか)」
とりあえず、何かのはずみで名前を言い間違えると不味いから前と同じく夏油と呼ぶことにした。
乗っ取った体の記憶も引き継がれているらしく、夏油は知り合いのように話しかけてくる。
「夏油……生きてたんだ。てっきり、五条先生に殺されたものだと思ってたのに。でも、襲ってきた人と仲良くすると思う?」
「ははっ、手厳しいね」
中に入っている人間は違うとしても、その胡散臭い笑みに少し仕返しがしてやりたくて襲撃された時のことを咎めた。
さすがの夏油も僕と真人が知り合いだったとは思わなかったのか。
縫い目のある額に汗が滲む。
隣にいる真人も僕の話を聞いて驚いた。
「えっ、前に紫苑を襲ったのって夏油なの?
……ふーん。じゃあ、漏瑚達には悪いけど夏油にはここで消えてもらおっか」
僕と夏油の関係を察した真人が守ってくれるかのように前に出る。
瞬く間にツギハギの腕を刃に変形させ、夏油の首に突きつけた。
肌色ながらも鋭く、鈍く光る刀身が夏油の首の薄皮を切り裂く。
夏油は真人に僕のことを話していなかったんだろう。
まさか、以前襲撃した人間と真人が知り合いだなんてさすがに予想外だよね。
「やれやれ、誤解なんだからそう怒らないでくれよ。最初からこの子が真人のものだって知ってたら手を出さなかったさ」
首から血の雫が流れ落ちるも、夏油は抵抗する様子もなく両手を上げて降参している。
だけど、静かな怒りを滲ませる真人は腕を降ろすことなく、更に夏油の首元へと刃を食い込ませた。
刃と化した腕ははかなり切れ味がいいのか、夏油の首元が薄く傷つけられ血が滴り落ちる。
そんな一触即発の空気の中。
急に真人の腕が弾かれたかと思えば、二人の間に富士山のような呪霊が割り込んできた。
「やめんか真人ッ……!たかが人間一人の為に儂らの計画を無駄にするつもりか!?」
「……漏瑚は黙っててくれる?俺にとって紫苑は一番大事な存在なんだ」
「此奴が計画に必要なのはいくらお前とて分かっておるだろう!?」
僕と夏油の間で言い争いを始めた漏瑚と真人。
更に悪化した雰囲気に、夏油は困ったようにチラッと僕の方へと視線をよこした。
何となくその視線の意図を察した僕は小さな溜め息をつく。
「……はぁ、もういいよ。今の夏油には敵対するつもりはないみたいだし。許してあげて」
「 えー?でも、紫苑がそう言うなら……」
「助かったよ、紫苑君。君は私の命の恩人だね」
真人の刃と化した腕を押さえ脅迫をやめさせる。
これからの呪霊達の計画を思えば無闇に夏油と敵対する必要はない。
僕としてはもう関わりたくないけど。
そんな僕の思惑とは裏腹に、夏油は両手で恭しく僕の手を握ってきた。
僕が反応するより早く手を握られ驚いていると、隣で見ていた真人が素っ頓狂な声を上げる。
「はぁ!?何勝手に俺の紫苑に触ってんの?」
「何って、感謝の意を伝えたかっただけだよ。誓って変なことはしてないさ」
夏油が僕の手を握ったことが許せないのか。
真人は夏油の手を叩き落とし、その大きなツギハギの手で僕の手首を掴む。
また喧嘩しそうな二人をなだめていると、背後に誰かが近づいてくるような気配がした。
それは砂浜の上を這うような音をたて振り返るよりも先に。
「ぶーぶぅー」
どこかからかそんな気の抜けた鳴き声が聞こえてきたかと思えば、コートの端を何かが引っ張った。
