雨と猫
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「真人、いる……?」
一度深呼吸してドアをおそるおそる開く。
部屋は真っ暗なままで人の気配も一切しなかった。
締め切ったカーテンの隙間から射し込む細い光だけを頼りに部屋に踏み入る。
静寂だけが支配する空間に向かって飼い猫の名を呼びかけた。
「……ここにはいないのかな。それか、僕に飽きてどっか行っちゃったとか」
真人がいない部屋はただただ静かで。
これじゃあ一人ぼっちの頃に逆戻りだな、なんて自嘲気味に笑う。
僕に何かあった時は地下トンネルの隠れ家に逃げるよう事前に言っておいたけど。
いつまでも帰ってこない僕に愛想を尽かしてどこかに行ってしまったのかもしれない。
「猫みたいな人だったな……。自由気ままで、何にも囚われていない無垢な子。僕と一緒にいてくれたのも、ただの気まぐれだったのかも」
ぽつりと零れた言葉はどれも『寂しい』といった言葉を言い換えたもの。
もう真人が帰ってこないかもしれないと考えただけで心が苦しくなっていった。
例えここにいなくても無事だとは思うけど、もう一度だけあの青と灰のオッドアイに見つめられたい。
「せめて……お別れだけは言いたかったな。君の飼い主になれたこと、後悔してないから」
最初はただ寂しさを紛らわせたくて。
軽い気持ちで拾った猫だったけど、僕の中ではもう家族も同然だった。
真人が呪いだろうが猫だろうが関係ない。
ふわふわで可愛くて、ツギハギだらけでもふとした時に見せる表情もカッコよくて。
僕にとっては大事な命だった。
「あぁ、そっか。僕はきっと、真人のことを____愛してしまったんだ」
己の気持ちをようやく自覚すれば、より真人に会いたい気持ちが強くなっていった。
向こうは僕のことをただの飼い主としか見てないかもしれない。
人間に好意を抱かれるなんて、気持ち悪がられてもおかしくない。
最悪の場合は殺されるかも。
____それでも僕は真人を愛している。
「あれ……?なんで、涙なんか……」
いつの間にか溢れ出た涙が一筋の雫となってこぼれ落ちる。
この世界に転生してきてから、本当の意味で人を愛したことがなかった。
家族も友人も、全部偽物に思えて深く付き合おうと思えなかったから。
ここは所詮"呪術廻戦"という物語の世界。
いつか、夢から覚めるようにこの世界が消えてしまうような気がしてならなかった。
「やっぱり僕は真人を失いたくない……あの子だけが仮初の世界から僕を見つけてくれたから」
全てのものから一線を引いて暮らしてきた。
この世界の人間と深く関わっても意味は無い、どうせいつかは泡のように消えてなくなるんだから。
それでも、真人はそんな境界線を無視して僕に歩み寄ってきてくれた。
本当は傍に居てくれるだけで良かったんだ。
「……この部屋もこんなに広かったっけ」
真人がいない部屋はいつもより広く思えた。
テーブルの上に並ぶお揃いのマグカップに、本棚に新しく置かれたジャンルのバラバラな本。
どれも真人を家に迎え入れてから増えていったもので。
「……真人が来てから色んな思い出も増えたな。二人だけの秘密がこれからも当たり前に続くって思っていたのに」
本編のように話が進まなければ真人と平和に暮らせる未来もあったかもしれない。
真人のためなら他の人間だって見殺しにできた。
もしこれから原作通りに話が進むとして、僕が真人の為に出来ることなんてあるのだろうか。
「いまさら気づいても遅かったのかな。少し……休んだ方がいいか」
最後に自分の部屋のドアを開ける。
一眠りして、それから真人を探しに行ってみよう。
寝ている間に帰ってきてくれるかもしれないし、いつまでもあの子の帰りを待っていよう。
涙でぼやける視界の中、ベッドに近づけば何かが僕の胸に向かって飛び込んできた。
「紫苑ッ……!!」
急に視界が水色に覆われる。
ふわふわな髪と微かに香るお揃いのシャンプーの匂い。
それらに包まれてようやく、大好きな存在に気づいた。
そしてそれが真人に抱きしめられているからだと、ようやく受け入れられた。
あまりにも急だったから呆気に取られて反応が遅れるけど、飼い猫の出迎えに僕は頬が緩む。
「……!……真人、ただいま」
「おかえり紫苑……!俺、君が帰ってこなくて……ずっと心配で……無事で、良かったっ……!」
ようやくの再会を確かめるように強く抱きしめられる。
ツギハギの腕は僕の体を強く抱いていて、苦しいながらも嬉しさの方が勝つ。
僕が帰るのを信じてずっと待っていてくれたんだ。
真人の震える肩に気づいた僕はそのまま背中に手を回し、安心させるように撫で続けていた。
一度深呼吸してドアをおそるおそる開く。
部屋は真っ暗なままで人の気配も一切しなかった。
締め切ったカーテンの隙間から射し込む細い光だけを頼りに部屋に踏み入る。
静寂だけが支配する空間に向かって飼い猫の名を呼びかけた。
「……ここにはいないのかな。それか、僕に飽きてどっか行っちゃったとか」
真人がいない部屋はただただ静かで。
これじゃあ一人ぼっちの頃に逆戻りだな、なんて自嘲気味に笑う。
僕に何かあった時は地下トンネルの隠れ家に逃げるよう事前に言っておいたけど。
いつまでも帰ってこない僕に愛想を尽かしてどこかに行ってしまったのかもしれない。
「猫みたいな人だったな……。自由気ままで、何にも囚われていない無垢な子。僕と一緒にいてくれたのも、ただの気まぐれだったのかも」
ぽつりと零れた言葉はどれも『寂しい』といった言葉を言い換えたもの。
もう真人が帰ってこないかもしれないと考えただけで心が苦しくなっていった。
例えここにいなくても無事だとは思うけど、もう一度だけあの青と灰のオッドアイに見つめられたい。
「せめて……お別れだけは言いたかったな。君の飼い主になれたこと、後悔してないから」
最初はただ寂しさを紛らわせたくて。
軽い気持ちで拾った猫だったけど、僕の中ではもう家族も同然だった。
真人が呪いだろうが猫だろうが関係ない。
ふわふわで可愛くて、ツギハギだらけでもふとした時に見せる表情もカッコよくて。
僕にとっては大事な命だった。
「あぁ、そっか。僕はきっと、真人のことを____愛してしまったんだ」
己の気持ちをようやく自覚すれば、より真人に会いたい気持ちが強くなっていった。
向こうは僕のことをただの飼い主としか見てないかもしれない。
人間に好意を抱かれるなんて、気持ち悪がられてもおかしくない。
最悪の場合は殺されるかも。
____それでも僕は真人を愛している。
「あれ……?なんで、涙なんか……」
いつの間にか溢れ出た涙が一筋の雫となってこぼれ落ちる。
この世界に転生してきてから、本当の意味で人を愛したことがなかった。
家族も友人も、全部偽物に思えて深く付き合おうと思えなかったから。
ここは所詮"呪術廻戦"という物語の世界。
いつか、夢から覚めるようにこの世界が消えてしまうような気がしてならなかった。
「やっぱり僕は真人を失いたくない……あの子だけが仮初の世界から僕を見つけてくれたから」
全てのものから一線を引いて暮らしてきた。
この世界の人間と深く関わっても意味は無い、どうせいつかは泡のように消えてなくなるんだから。
それでも、真人はそんな境界線を無視して僕に歩み寄ってきてくれた。
本当は傍に居てくれるだけで良かったんだ。
「……この部屋もこんなに広かったっけ」
真人がいない部屋はいつもより広く思えた。
テーブルの上に並ぶお揃いのマグカップに、本棚に新しく置かれたジャンルのバラバラな本。
どれも真人を家に迎え入れてから増えていったもので。
「……真人が来てから色んな思い出も増えたな。二人だけの秘密がこれからも当たり前に続くって思っていたのに」
本編のように話が進まなければ真人と平和に暮らせる未来もあったかもしれない。
真人のためなら他の人間だって見殺しにできた。
もしこれから原作通りに話が進むとして、僕が真人の為に出来ることなんてあるのだろうか。
「いまさら気づいても遅かったのかな。少し……休んだ方がいいか」
最後に自分の部屋のドアを開ける。
一眠りして、それから真人を探しに行ってみよう。
寝ている間に帰ってきてくれるかもしれないし、いつまでもあの子の帰りを待っていよう。
涙でぼやける視界の中、ベッドに近づけば何かが僕の胸に向かって飛び込んできた。
「紫苑ッ……!!」
急に視界が水色に覆われる。
ふわふわな髪と微かに香るお揃いのシャンプーの匂い。
それらに包まれてようやく、大好きな存在に気づいた。
そしてそれが真人に抱きしめられているからだと、ようやく受け入れられた。
あまりにも急だったから呆気に取られて反応が遅れるけど、飼い猫の出迎えに僕は頬が緩む。
「……!……真人、ただいま」
「おかえり紫苑……!俺、君が帰ってこなくて……ずっと心配で……無事で、良かったっ……!」
ようやくの再会を確かめるように強く抱きしめられる。
ツギハギの腕は僕の体を強く抱いていて、苦しいながらも嬉しさの方が勝つ。
僕が帰るのを信じてずっと待っていてくれたんだ。
真人の震える肩に気づいた僕はそのまま背中に手を回し、安心させるように撫で続けていた。
