雨と猫
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真人と少し心の距離が近づいたあの抱擁から次の日。
今日は呪術の初訓練ということで、学校をサボり家で自分の術式を真人に見てもらっていた。
「これまで自分の術式知覚したことないんだけど、本当にあるの?」
「うん。紫苑が気づかなかっただけで、君にもちゃんと術式はあるよ。意識して使おうとしなかったからか、それとも無意識のうちに封じていたのかは分からないけど……。
とりあえず、どんなものか今から見ていくね」
真人は僕の頭に手をかざしながら僕がどんな術式を持っているのか考察し始めた。
魂を認識できる真人だから他人の術式も視えるんだろうか。
原作では海月少年の術式も開発してあげていたなと、ふと思い出した。
出来るだけ強いやつがいいなと少年心が疼くのを感じつつ結果を待っていると。
「んー……これはかなり強い術式だね」
「ほんと?真人から見てもそう思うんだ……いったいどんなの?」
「説明すると……紫苑が知覚するものを崩壊させる術式かな。簡単に言えばなんでも壊せるってこと!」
何やら長い時間悩みながら僕の術式を見ていた真人だけど、頭からパッと手を離しそう告げた。
思っていたよりもだいぶ物騒な術式に僕は驚く。
夏油と戦闘になることも考えて出来るだけ強いものがいいとは思っていたけど、ここまで無法な術式があるだろうか。
そもそも、自分が術式を持っていたということさえ知らなかった。
大抵の呪術師は五、六歳くらいの年齢で自分の術式を知覚するらしいから、呪霊が視えるだけの僕には術式はないと思っていたんだから。
「壊せるって……例えば、呪霊も?」
「いけるよ。呪霊どころか……呪力による攻撃や術式の効果も対象だと思う」
おずおずとそう聞けば真人は特に気にする様子もなくそう答える。
僕に祓われるかもとは微塵も思っていないようだった。
それが僕を信頼してのことなのか、己の強さに自信を持っているからなのかは分からないけど。
僕も真人を失うことは避けたいし念の為真人に気をつけるよう言っておく。
「……危ないから真人の近くでは使わないでおくね」
「優しいね、君は。でも紫苑に祓われるのなら悪くないよ」
本気か冗談か分からない微笑みを向けられる。
その言葉に戸惑いつつも、僕はどう呪術を学ぶか考えていた。
真人に頼めば脳を弄ってすぐに戦えるようにしてくれるのだろうけど、上手くいく保証はない。
海月少年の術式開発が上手くいったのは真人が大量の人間を実験台にしたからであって。
今それを真似するのはほとんど自殺行為に等しかった。
夏油に目をつけられている今、早く強くならないといけないのに。
出来るだけ自分の力で呪術を会得しなければという焦りが湧いてくる。
「うーん……それなら訓練はどうしよう」
「あ、それなんだけどさ!一緒に行きたいところがあるんだ。前に話してたと思うんだけど、この機会にどうだい?」
__________
平日昼下がりの映画館。
休日の混みようもなく見る映画は終了間近ということで人もまばらだった。
館内の落ち着いた雰囲気の中、真人は興味深そうに辺りを見回していた。
「紫苑と映画館に来るのは初めてだね」
「家で一緒に見たりはするけどね。真人は一人で映画を見に来たりするの?」
「うん。君が学校に行っている間はよく通ってるよ。暇つぶしにはちょうどいいし、何より人間の感情を学べるから」
真人は映画を見るのが趣味なのか家でもよく一緒に見ている。
呪霊として、まだ生まれたばかりだから人の感情を学ぶために見ているらしい。
派手なアクションから恋愛まで多岐に渡るものを見たけど、ホラーやグロさが際立つものは僕が苦手だから見ていなかった。
「見る映画はどれにするの?あまり怖いのは嫌なんだけど……」
「あはっ、大丈夫だよ。今日はアニメ映画を見るから。なんでも、若いカップルにも大人気なんだって」
券売機の画面を操作しながらどの席にするか話し合い、大人一人と学生一人分のチケットを買った。
真人は呪霊だからチケットを購入する必要はないのだろうけど、飼い主として飼い猫の面倒はちゃんと見ないといけない。
真人は『律儀だね〜』だなんてからかっていた。
真人は慣れているのか、僕の手を引いて上映スクリーンまで連れていってくれる。
薄暗い館内で予約した席に隣同士で座った。
「それじゃあ俺の手を握っててね。呪力を流すの忘れたら教えるから」
「うん」
差し出されたツギハギの手をそっと握る。
上映開始の合図ともいうように照明が落ち、さらに暗くなった館内では人間のそれより低い真人の体温だけが感じられた。
こう真人の存在を意識させられているみたいで緊張してくる。
「ほら、ちゃんとこっちにも集中して?」
「あっごめん……!」
上映中、映画の内容よりもだんだんと握っている手の方が気になってきていた。
僕よりも一回り以上も大きい手のひらは大人の余裕すら感じさせる。
真人にも僕の緊張が伝わっているのか、時折指を絡めて僕のこわばりを緩めてくれた。
こっそり見上げた真人の横顔はとても大人っぽくて何故だか胸がドキドキしてくる。
ずっと見ていると真人も僕の視線に気づきにっこりと微笑んだ。
「ねぇ、紫苑ってば俺の顔ばかり見てどうしたの?スクリーンを見てる時より魂が揺れてるよ」
「そ、そうかな……?何でだろう……僕にも分かんないや」
自分の胸に湧き上がる感情の正体がなんなのか分からないまま、上映は終了してしまった。
エンドロールも流れ終わったあと、すぐ立つ気になれず他の観客が出ていくのを二人で見守っていた。
「ん〜、意外と楽しめたね!呪力操作も初めてにしては上出来だったんじゃない?」
「そう?それなら良かった……」
上映が終わったところで真人が伸びをしながら立ち上がる。
真人の手から解放された僕はほっとため息をつく。
ようやく緊張しなくて済むのに、何故だか真人の手を離してしまうことを少し名残惜しく感じていた。
自分の中の邪念を振り払うように改めて訓練方法を振り返る。
この訓練方式は"呪術廻戦"の主人公もやってたな。
アニメと違って呪骸に殴られたりはしないけど、ずっと呪力を維持し続けるのは思ったよりも気を使う。
なんて、思い出しつつ夕焼けの帰り道を二人で歩く。
先に行く真人の色素の薄い髪がキラキラ輝いていて、まるで夕陽を反射する水面のようだった。
「……ねぇ、真人はもし未来を変えられるなら変えたい?」
帰り道、映画の内容をふと思い出し真人に聞いてみた。
映画は東京の男子と田舎の女子が入れ替わるという内容。
2人は過去に戻って未来を変え、最後はハッピーエンドともとれる結末だった。
真人の最後はハッピーエンドからは程遠いものだけど、僕だけは飼い猫の幸せを願ってもいいかな。
なんて、期待を込めつつ真人を見つめる。
「そうだなぁ、変えたいと思ったら変えるよ。まだ見ぬ未来を恐れる必要は無いさ」
少し考える素振りを見せ僕の質問にそう答える。
真人らしい自由な考え方。
だけど、前世とか今世とかの価値観にがんじがらめになっている今の僕はその言葉に救われたような気がした。
今日は呪術の初訓練ということで、学校をサボり家で自分の術式を真人に見てもらっていた。
「これまで自分の術式知覚したことないんだけど、本当にあるの?」
「うん。紫苑が気づかなかっただけで、君にもちゃんと術式はあるよ。意識して使おうとしなかったからか、それとも無意識のうちに封じていたのかは分からないけど……。
とりあえず、どんなものか今から見ていくね」
真人は僕の頭に手をかざしながら僕がどんな術式を持っているのか考察し始めた。
魂を認識できる真人だから他人の術式も視えるんだろうか。
原作では海月少年の術式も開発してあげていたなと、ふと思い出した。
出来るだけ強いやつがいいなと少年心が疼くのを感じつつ結果を待っていると。
「んー……これはかなり強い術式だね」
「ほんと?真人から見てもそう思うんだ……いったいどんなの?」
「説明すると……紫苑が知覚するものを崩壊させる術式かな。簡単に言えばなんでも壊せるってこと!」
何やら長い時間悩みながら僕の術式を見ていた真人だけど、頭からパッと手を離しそう告げた。
思っていたよりもだいぶ物騒な術式に僕は驚く。
夏油と戦闘になることも考えて出来るだけ強いものがいいとは思っていたけど、ここまで無法な術式があるだろうか。
そもそも、自分が術式を持っていたということさえ知らなかった。
大抵の呪術師は五、六歳くらいの年齢で自分の術式を知覚するらしいから、呪霊が視えるだけの僕には術式はないと思っていたんだから。
「壊せるって……例えば、呪霊も?」
「いけるよ。呪霊どころか……呪力による攻撃や術式の効果も対象だと思う」
おずおずとそう聞けば真人は特に気にする様子もなくそう答える。
僕に祓われるかもとは微塵も思っていないようだった。
それが僕を信頼してのことなのか、己の強さに自信を持っているからなのかは分からないけど。
僕も真人を失うことは避けたいし念の為真人に気をつけるよう言っておく。
「……危ないから真人の近くでは使わないでおくね」
「優しいね、君は。でも紫苑に祓われるのなら悪くないよ」
本気か冗談か分からない微笑みを向けられる。
その言葉に戸惑いつつも、僕はどう呪術を学ぶか考えていた。
真人に頼めば脳を弄ってすぐに戦えるようにしてくれるのだろうけど、上手くいく保証はない。
海月少年の術式開発が上手くいったのは真人が大量の人間を実験台にしたからであって。
今それを真似するのはほとんど自殺行為に等しかった。
夏油に目をつけられている今、早く強くならないといけないのに。
出来るだけ自分の力で呪術を会得しなければという焦りが湧いてくる。
「うーん……それなら訓練はどうしよう」
「あ、それなんだけどさ!一緒に行きたいところがあるんだ。前に話してたと思うんだけど、この機会にどうだい?」
__________
平日昼下がりの映画館。
休日の混みようもなく見る映画は終了間近ということで人もまばらだった。
館内の落ち着いた雰囲気の中、真人は興味深そうに辺りを見回していた。
「紫苑と映画館に来るのは初めてだね」
「家で一緒に見たりはするけどね。真人は一人で映画を見に来たりするの?」
「うん。君が学校に行っている間はよく通ってるよ。暇つぶしにはちょうどいいし、何より人間の感情を学べるから」
真人は映画を見るのが趣味なのか家でもよく一緒に見ている。
呪霊として、まだ生まれたばかりだから人の感情を学ぶために見ているらしい。
派手なアクションから恋愛まで多岐に渡るものを見たけど、ホラーやグロさが際立つものは僕が苦手だから見ていなかった。
「見る映画はどれにするの?あまり怖いのは嫌なんだけど……」
「あはっ、大丈夫だよ。今日はアニメ映画を見るから。なんでも、若いカップルにも大人気なんだって」
券売機の画面を操作しながらどの席にするか話し合い、大人一人と学生一人分のチケットを買った。
真人は呪霊だからチケットを購入する必要はないのだろうけど、飼い主として飼い猫の面倒はちゃんと見ないといけない。
真人は『律儀だね〜』だなんてからかっていた。
真人は慣れているのか、僕の手を引いて上映スクリーンまで連れていってくれる。
薄暗い館内で予約した席に隣同士で座った。
「それじゃあ俺の手を握っててね。呪力を流すの忘れたら教えるから」
「うん」
差し出されたツギハギの手をそっと握る。
上映開始の合図ともいうように照明が落ち、さらに暗くなった館内では人間のそれより低い真人の体温だけが感じられた。
こう真人の存在を意識させられているみたいで緊張してくる。
「ほら、ちゃんとこっちにも集中して?」
「あっごめん……!」
上映中、映画の内容よりもだんだんと握っている手の方が気になってきていた。
僕よりも一回り以上も大きい手のひらは大人の余裕すら感じさせる。
真人にも僕の緊張が伝わっているのか、時折指を絡めて僕のこわばりを緩めてくれた。
こっそり見上げた真人の横顔はとても大人っぽくて何故だか胸がドキドキしてくる。
ずっと見ていると真人も僕の視線に気づきにっこりと微笑んだ。
「ねぇ、紫苑ってば俺の顔ばかり見てどうしたの?スクリーンを見てる時より魂が揺れてるよ」
「そ、そうかな……?何でだろう……僕にも分かんないや」
自分の胸に湧き上がる感情の正体がなんなのか分からないまま、上映は終了してしまった。
エンドロールも流れ終わったあと、すぐ立つ気になれず他の観客が出ていくのを二人で見守っていた。
「ん〜、意外と楽しめたね!呪力操作も初めてにしては上出来だったんじゃない?」
「そう?それなら良かった……」
上映が終わったところで真人が伸びをしながら立ち上がる。
真人の手から解放された僕はほっとため息をつく。
ようやく緊張しなくて済むのに、何故だか真人の手を離してしまうことを少し名残惜しく感じていた。
自分の中の邪念を振り払うように改めて訓練方法を振り返る。
この訓練方式は"呪術廻戦"の主人公もやってたな。
アニメと違って呪骸に殴られたりはしないけど、ずっと呪力を維持し続けるのは思ったよりも気を使う。
なんて、思い出しつつ夕焼けの帰り道を二人で歩く。
先に行く真人の色素の薄い髪がキラキラ輝いていて、まるで夕陽を反射する水面のようだった。
「……ねぇ、真人はもし未来を変えられるなら変えたい?」
帰り道、映画の内容をふと思い出し真人に聞いてみた。
映画は東京の男子と田舎の女子が入れ替わるという内容。
2人は過去に戻って未来を変え、最後はハッピーエンドともとれる結末だった。
真人の最後はハッピーエンドからは程遠いものだけど、僕だけは飼い猫の幸せを願ってもいいかな。
なんて、期待を込めつつ真人を見つめる。
「そうだなぁ、変えたいと思ったら変えるよ。まだ見ぬ未来を恐れる必要は無いさ」
少し考える素振りを見せ僕の質問にそう答える。
真人らしい自由な考え方。
だけど、前世とか今世とかの価値観にがんじがらめになっている今の僕はその言葉に救われたような気がした。
