短編
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「でーきたっ」
ザアザアと聞き飽きたノイズをBGMに、私は放課後の教室で、てるてる坊主作りに勤しんでいた。
ここ最近雨が続いていて、外での練習は出来ないわ、湿気で髪はまとまらないわ……割とうんざりしてきたところに、メジャーな晴れ乞いのおまじないを思い出したのである。
ティッシュを一枚丸めて、もう一枚で包みヘアゴムで止める。 これだけで完成だ。
あっという間に完成した物を見て、折角だからオリジナリティを出そうと、思いつきでてるてる坊主に顔を書き足してみる。
どんな顔にするか少し考えて、横線を2本、その下に口として短い線を1本引く。
ごわごわしたティッシュにシャーペンはとても描きにくい。 ひとつ学んだうえで、なんとか描けたそれをつまんで持ち上げた。
「柳の顔って描きやすいかも。 デフォルメしたら可愛いし」
「――俺の顔がなんだ?」
「ヒョワッ!?」
てるてる坊主に描いたのは、私の好きな人である柳蓮二をイメージした顔だった。
切れ長の瞳に、薄い唇。
涼し気な表情を思い出し、教室で一人ニヤニヤしながら眺めていると、不意に背後から声がかかる。
その声には聞き覚えがあって、椅子から少し浮くほど驚きながら振り返ると――。
「フム、てるてる坊主か。 最近は雨が多いからな」
好意を寄せている相手。 しかも、てるてる坊主の顔のモデルにした人が現れて、私の心臓は跳ねた。
「や、柳。 そうなの。 湿気でまつ毛も上がらないしさ~。 いい加減晴れろと思って作った」
「確かにこうも暗い日が続くと気も滅入ってくる。 効果があることを願おうか。 ……ところで、この顔は」
「アッバレた!? 肖像権侵害してるよねごめんね勝手に嫌だよね!」
「……この顔は、と聞いただけだが」
変に緊張した私は、どうやら言わなくていい事を言ってしまったようだ。
「俺に、雨雲を消し去る力はないぞ」
「あったら凄いよ……」
勝手に描いてごめん、捨てるのもしのびなくなるもんね……。
そう改めて伝えると柳は、構わない、と微笑した。 その表情を頬杖をつきながら眺める。
「柳は“可愛い”ではないな。 身長も高いし」
「別に可愛くなりたい訳ではないが、確かに身長に限らず、小さい方が何かと可愛さを見出す者が多いな」
「だよねえ。 子猫とか、子供の服とかちいちゃくて可愛いよね。 うん。 やっぱり柳はどっちかというとかっ――」
「か?」
「あ、いや、ナンデモナイ」
みゃあと鳴く小さき命とか、叔母の所に生まれたいとこを思い出しつつ、また私は勢いで余計なことを言いそうになっていた。
アバババあっぶねえ。
流石に「柳はやっぱり恰好いいよね!」は素面で言えなさすぎる。 照れる。 私未成年だから素面以外なれないけど。
熱を持つ頬に手をやり、柳から顔を背ける。
このまま誤魔化される柳ではないだろう。 どう話を逸らすか頭をフル回転させて考えていると、カタリと机が揺れる。
ふと顔に影が差して、柳の顔が近づいていることに気づく。
「や、やなぎ?」
「……是非きみから、今の続きを聞きたいものだが」
切れ長の瞳がうっすらと開き、私を捉えた。
一気に顔に熱が集まり、か細い息が漏れる。
硬直していると、ふ、と柳が笑い、私は揶揄われているのだと思い至るのだ。
「はっ柳、データで分かってるな!? 私がなんて言おうとしたか!」
「さてな」
「いや分かってないとその余裕は出てこないだろ! いやもう“恰好いい”なんて絶対言わないからな!?」
「ふむ、恰好いいか。 そう面と向かって言われると照れるな」
「え、あ、あ゛ーー! もうやだあ! このデータマンめ!」
私、学習しなさすぎじゃない???
わっと声を上げて机に突っ伏す。
――だってしょうがなくないか。
柳は恰好いいし、そんな柳を目の前にしたら緊張で心臓はバクバクするし。
顔を上げられないままうーうー唸っていると、柳は「一つ訂正するが」と言う。
「話の流れと、お前が分かりやすいから推測したまでで、データを取るほどでもないぞ」
「……柳が分からりにくすぎなんだよ。 照れる、とか言ってるけど全然照れてないじゃん」
「立海テニス部の参謀たる俺が、そう易々と顔に出すなどしないさ」
「……今はテニス関係ないのに」
窓の外に視線を向けながら、口をとがらせる。
口喧嘩、ではないけれど。 柳蓮二を言い負かすことなど、私にはできやしないのだ。
……柳はいつも余裕があって羨ましい。
私も、せめて失言しない程度に余裕を持っていたいものだが。
いや、柳を前にするからこうなのであって、普段はもう少しましなはず……。 多分。
「ポーカーフェイスに憧れている確率78%……。 だが、無理に感情を抑える必要はない。 ころころと表情が変わるのも、お前の魅力だろう」
いきなりの爆弾発言に、私は目を見開く。
今なんて言ったこの人???
ゆっくりと柳に視線を戻すと、「俺なにか変なこと言ったか?」的な感じに首をかしげている。
「す、凄いこと真顔で言うね……さすがおモテになる……」
「……意中の人以外に好意を寄せられても、なかなかに困るだけだと思うが」
「私はモテませんので知りませんよ」
何気なしに言った柳の言葉が胸に刺さった。
意中の人以外に好かれても、なかなかに困る……。
――柳に嫌われている、とは思っていない。
こんな風に話してくれるし、ちょっと腹立つけど揶揄ってもくる。
嫌悪している相手にそれがお前の魅力だ、なんて言わないだろう。
しかし好きの反対は嫌い、ではなく無関心。
というか好きが真ん中にあって、その左右どちらかに嫌いが、その反対側に無関心があるのだろう、と思っている。
まあつまり嫌われてはいないだろうけど、私が柳に抱いている想いを、柳も私に抱いているとは考えられないのだ。
「……それに俺は、誰彼構わずにこのようなことを言っているわけではない」
「そ、そうなんだ」
「何故お前には言ったと思う?」
「えっ、な……なんで?」
柳はじっと私を見る。
その瞳には熱がこもっている気がして、また心臓がどきどきと激しく鳴る。
「俺は。 ……いや、お前なら、その理由が分かっていると思うが?」
私の頭の中には、「もしかして柳、私の事好きなんじゃ」という考えが浮かんでいた。 否、理想と言うべきか。
だがさすがに「えーなに柳、私の事好きなの?」なんて半笑いで冗談を言う度胸はない。 「何故そうなる?」とか言われたら、ショックすぎるので。
「……分かんないよ」
「お前の考えは間違っていないぞ」
その言葉に、一度伏せた顔を上げた。
……あれ、柳、緊張してる?
この状況で緊張なんて、まるで、本当に――。
「わ、分かんない」
「塩月」
「ちゃんと言葉にしてくれないと、分かんないよ……」
膝の上でぎゅっと拳を握る。
ドッドッドッという音に、耳のそばで鳴ってるのかというほどの存在感を感じて、震える手から力を抜く。
そうして次に聞こえたのは、特大のため息だった。
「はあ…………」
「あ……雨、止んできたね。 てるてる坊主出番なかっ――」
「好きだ」
やっぱり勘違いだったのかも、なんて思って、あからさまに話題を変えようとした瞬間。
柳の発した言葉に、まるで時が止まったかのような錯覚を覚えた。
「柳」
「お前が好きだ、塩月。 俺と付き合ってほしい」
震える声で彼の名を呼べば、彼はもう一度、その言葉を言った。
柳の耳は赤く色づいていて、「柳でもこういう時は緊張するんだ」なんて、どこか遠くで思う。
「きみは、俺の事をどう思っている……?」
――これは夢なのかも。
机の下でそっと手の甲をつねると痛くて、私に現実なのだと教えてくる。
「私も好き」その6文字を口に出すのにとてつもなく照れてしまって、彼は口に出してくれたのに私は逃げてしまう。
「柳なら、分かってるんじゃないの」
「さあな。 ……ちゃんと言葉にしてくれないと、分からないからな」
「いつも人の台詞先回りしてるくせに」
じわりと手に汗がにじんで、小さく深呼吸をする。
そうして私は意を決して、返事をするのだ。
「わ――私も、好き。 柳が……好きです。 お付き合い、お願い、します」
「――そうか」
柳はそっと私の手を包み、目じりを下げた。
いつの間にやら外はすっかり明るく晴れていて、折り畳み傘の出番はなさそうだ。
水たまりに映る私の顔はニヤけていて、繋いだ手から伝わる暖かさが心地よい。
相合い傘もいいけれど、うっすらかかる虹を見ながらの帰路は、とても幸せで。
うっとおしかった雨も去って、吊るさなかったてるてる坊主に感謝するのである。
ザアザアと聞き飽きたノイズをBGMに、私は放課後の教室で、てるてる坊主作りに勤しんでいた。
ここ最近雨が続いていて、外での練習は出来ないわ、湿気で髪はまとまらないわ……割とうんざりしてきたところに、メジャーな晴れ乞いのおまじないを思い出したのである。
ティッシュを一枚丸めて、もう一枚で包みヘアゴムで止める。 これだけで完成だ。
あっという間に完成した物を見て、折角だからオリジナリティを出そうと、思いつきでてるてる坊主に顔を書き足してみる。
どんな顔にするか少し考えて、横線を2本、その下に口として短い線を1本引く。
ごわごわしたティッシュにシャーペンはとても描きにくい。 ひとつ学んだうえで、なんとか描けたそれをつまんで持ち上げた。
「柳の顔って描きやすいかも。 デフォルメしたら可愛いし」
「――俺の顔がなんだ?」
「ヒョワッ!?」
てるてる坊主に描いたのは、私の好きな人である柳蓮二をイメージした顔だった。
切れ長の瞳に、薄い唇。
涼し気な表情を思い出し、教室で一人ニヤニヤしながら眺めていると、不意に背後から声がかかる。
その声には聞き覚えがあって、椅子から少し浮くほど驚きながら振り返ると――。
「フム、てるてる坊主か。 最近は雨が多いからな」
好意を寄せている相手。 しかも、てるてる坊主の顔のモデルにした人が現れて、私の心臓は跳ねた。
「や、柳。 そうなの。 湿気でまつ毛も上がらないしさ~。 いい加減晴れろと思って作った」
「確かにこうも暗い日が続くと気も滅入ってくる。 効果があることを願おうか。 ……ところで、この顔は」
「アッバレた!? 肖像権侵害してるよねごめんね勝手に嫌だよね!」
「……この顔は、と聞いただけだが」
変に緊張した私は、どうやら言わなくていい事を言ってしまったようだ。
「俺に、雨雲を消し去る力はないぞ」
「あったら凄いよ……」
勝手に描いてごめん、捨てるのもしのびなくなるもんね……。
そう改めて伝えると柳は、構わない、と微笑した。 その表情を頬杖をつきながら眺める。
「柳は“可愛い”ではないな。 身長も高いし」
「別に可愛くなりたい訳ではないが、確かに身長に限らず、小さい方が何かと可愛さを見出す者が多いな」
「だよねえ。 子猫とか、子供の服とかちいちゃくて可愛いよね。 うん。 やっぱり柳はどっちかというとかっ――」
「か?」
「あ、いや、ナンデモナイ」
みゃあと鳴く小さき命とか、叔母の所に生まれたいとこを思い出しつつ、また私は勢いで余計なことを言いそうになっていた。
アバババあっぶねえ。
流石に「柳はやっぱり恰好いいよね!」は素面で言えなさすぎる。 照れる。 私未成年だから素面以外なれないけど。
熱を持つ頬に手をやり、柳から顔を背ける。
このまま誤魔化される柳ではないだろう。 どう話を逸らすか頭をフル回転させて考えていると、カタリと机が揺れる。
ふと顔に影が差して、柳の顔が近づいていることに気づく。
「や、やなぎ?」
「……是非きみから、今の続きを聞きたいものだが」
切れ長の瞳がうっすらと開き、私を捉えた。
一気に顔に熱が集まり、か細い息が漏れる。
硬直していると、ふ、と柳が笑い、私は揶揄われているのだと思い至るのだ。
「はっ柳、データで分かってるな!? 私がなんて言おうとしたか!」
「さてな」
「いや分かってないとその余裕は出てこないだろ! いやもう“恰好いい”なんて絶対言わないからな!?」
「ふむ、恰好いいか。 そう面と向かって言われると照れるな」
「え、あ、あ゛ーー! もうやだあ! このデータマンめ!」
私、学習しなさすぎじゃない???
わっと声を上げて机に突っ伏す。
――だってしょうがなくないか。
柳は恰好いいし、そんな柳を目の前にしたら緊張で心臓はバクバクするし。
顔を上げられないままうーうー唸っていると、柳は「一つ訂正するが」と言う。
「話の流れと、お前が分かりやすいから推測したまでで、データを取るほどでもないぞ」
「……柳が分からりにくすぎなんだよ。 照れる、とか言ってるけど全然照れてないじゃん」
「立海テニス部の参謀たる俺が、そう易々と顔に出すなどしないさ」
「……今はテニス関係ないのに」
窓の外に視線を向けながら、口をとがらせる。
口喧嘩、ではないけれど。 柳蓮二を言い負かすことなど、私にはできやしないのだ。
……柳はいつも余裕があって羨ましい。
私も、せめて失言しない程度に余裕を持っていたいものだが。
いや、柳を前にするからこうなのであって、普段はもう少しましなはず……。 多分。
「ポーカーフェイスに憧れている確率78%……。 だが、無理に感情を抑える必要はない。 ころころと表情が変わるのも、お前の魅力だろう」
いきなりの爆弾発言に、私は目を見開く。
今なんて言ったこの人???
ゆっくりと柳に視線を戻すと、「俺なにか変なこと言ったか?」的な感じに首をかしげている。
「す、凄いこと真顔で言うね……さすがおモテになる……」
「……意中の人以外に好意を寄せられても、なかなかに困るだけだと思うが」
「私はモテませんので知りませんよ」
何気なしに言った柳の言葉が胸に刺さった。
意中の人以外に好かれても、なかなかに困る……。
――柳に嫌われている、とは思っていない。
こんな風に話してくれるし、ちょっと腹立つけど揶揄ってもくる。
嫌悪している相手にそれがお前の魅力だ、なんて言わないだろう。
しかし好きの反対は嫌い、ではなく無関心。
というか好きが真ん中にあって、その左右どちらかに嫌いが、その反対側に無関心があるのだろう、と思っている。
まあつまり嫌われてはいないだろうけど、私が柳に抱いている想いを、柳も私に抱いているとは考えられないのだ。
「……それに俺は、誰彼構わずにこのようなことを言っているわけではない」
「そ、そうなんだ」
「何故お前には言ったと思う?」
「えっ、な……なんで?」
柳はじっと私を見る。
その瞳には熱がこもっている気がして、また心臓がどきどきと激しく鳴る。
「俺は。 ……いや、お前なら、その理由が分かっていると思うが?」
私の頭の中には、「もしかして柳、私の事好きなんじゃ」という考えが浮かんでいた。 否、理想と言うべきか。
だがさすがに「えーなに柳、私の事好きなの?」なんて半笑いで冗談を言う度胸はない。 「何故そうなる?」とか言われたら、ショックすぎるので。
「……分かんないよ」
「お前の考えは間違っていないぞ」
その言葉に、一度伏せた顔を上げた。
……あれ、柳、緊張してる?
この状況で緊張なんて、まるで、本当に――。
「わ、分かんない」
「塩月」
「ちゃんと言葉にしてくれないと、分かんないよ……」
膝の上でぎゅっと拳を握る。
ドッドッドッという音に、耳のそばで鳴ってるのかというほどの存在感を感じて、震える手から力を抜く。
そうして次に聞こえたのは、特大のため息だった。
「はあ…………」
「あ……雨、止んできたね。 てるてる坊主出番なかっ――」
「好きだ」
やっぱり勘違いだったのかも、なんて思って、あからさまに話題を変えようとした瞬間。
柳の発した言葉に、まるで時が止まったかのような錯覚を覚えた。
「柳」
「お前が好きだ、塩月。 俺と付き合ってほしい」
震える声で彼の名を呼べば、彼はもう一度、その言葉を言った。
柳の耳は赤く色づいていて、「柳でもこういう時は緊張するんだ」なんて、どこか遠くで思う。
「きみは、俺の事をどう思っている……?」
――これは夢なのかも。
机の下でそっと手の甲をつねると痛くて、私に現実なのだと教えてくる。
「私も好き」その6文字を口に出すのにとてつもなく照れてしまって、彼は口に出してくれたのに私は逃げてしまう。
「柳なら、分かってるんじゃないの」
「さあな。 ……ちゃんと言葉にしてくれないと、分からないからな」
「いつも人の台詞先回りしてるくせに」
じわりと手に汗がにじんで、小さく深呼吸をする。
そうして私は意を決して、返事をするのだ。
「わ――私も、好き。 柳が……好きです。 お付き合い、お願い、します」
「――そうか」
柳はそっと私の手を包み、目じりを下げた。
いつの間にやら外はすっかり明るく晴れていて、折り畳み傘の出番はなさそうだ。
水たまりに映る私の顔はニヤけていて、繋いだ手から伝わる暖かさが心地よい。
相合い傘もいいけれど、うっすらかかる虹を見ながらの帰路は、とても幸せで。
うっとおしかった雨も去って、吊るさなかったてるてる坊主に感謝するのである。
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