おべんとまじっく
なまえへんこう
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「悪いな、こんな時間に」
日が沈んで間もなく、空が少しずつ闇に覆われ始めている頃に伏見くんはバイクで私の家の前まで来てくれた。
「ううん、こちらこそわざわざ来てもらっちゃってごめんね」
「当たり前だろ、もう暗いんだから」
「そっか、ありがとう」
今日は伏見くんの提案で夜景の撮影に向かう日だ。
夜景撮影なんてロマンチック。
「ほら、」
バイクに跨った伏見くんが私の分のヘルメットを渡してくれる。
「ありがとう」
私はバイクの後ろに乗せてもらう。
伏見くんの背中って、こんなに大きかったっけ。
「ん?どうした、ちゃんと捕まってないと危ないぞ」
「へ、」
私がぼんやりしているものだから、不思議に思った伏見くんが
私の腕を掴んで自分の腰に回した。
いつも通りに私が伏見君に捕まったことを確認すると、
伏見くんはそのままバイクを走らせる。
いつも通り、そう、いつも通りだ。
ああ、カメラマンさんが変なこというから、なんだか妙に意識してしまっている気がする。
もう、伏見くんはそんなんじゃないのに。
「宮下?どうかしたか?」
「へ、いや、なんでもない、なんでもないよ!」
私があんまりにも静かなものだから、伏見くんが心配して声をかけてくれた。伏見くんは優しいな。いつも優しい。
「……そうか、ならいいんだけど」
伏見くんはそう言うと、前を向いて黙ってバイクを走らせる。
夜の街を、2人きりでバイクで駆け巡る。
いつもはなんとも思ってなかったことが、
今日は、今日だけはなんだかむずがゆい。
「わ、綺麗……!」
しばらくして、伏見くんが連れてきてくれたのは
夜景の綺麗な高台だった。
「綺麗だろ、俺もこの前たまたま見つけたんだ」
「へえ、ツーリング?」
「そう、といっても最近1人のことが多いけど」
「1人で夜の高台とか来ちゃうんだ」
「まあ、たまにな」
私がからかうようにそう言うと、伏見くんはなんだか曖昧に笑ってから、
カメラを構え始める。
これ以上聞くな、ということだろうか。
「あ、そうだ聞いて」
「ん?どうした?」
「私、この前の雑誌の撮影ですっごいほめてもらえたの!」
「へー、よかったな」
「うん、伏見くんのおかげ!」
「別に、俺はなにもしてないよ。宮下が頑張っただけだ」
「そんなことないよ、感謝してるの。とっても!」
「そっか、」
「うん、ふふふ」
それからいつも通り、たわいもない話をして、撮影を終えた。
伏見くんの腕は相変わらずで、
なんでこんな夜景なのに人も夜景も綺麗に撮れるんだろうって感じ。
この人やっぱり相当技術高いんじゃないんだろうか。
「今日はありがとうな」
伏見くんが家の前まで送ってくれた。
「うん、こちらこそありがとう。楽しかった」
バイクから降りて手を振る。が、伏見くんは帰る素振りを見せない。
……なんてこった。これは家に入るまで見送ってくれるやつだ。
「伏見くん、絶対モテるでしょ」
1人で小さく呟きながら、家の鍵を探す。
…………あれ、
「おっかしいな、いつもここに入れてるのに……」
鞄の中も、ポケットの中にも家の鍵がない。
これは、もしかして
「……落とした?」
嘘でしょ
はああ、と大きくため息をつく。
バイクに乗って移動していたから、鍵を見つけるのはかなり難しいだろう。部屋の中にスペアは何本かあるし、鍵は管理事務所に電話して開けてもらえば何とかなる。もしかしたら鍵交換かなあ。
ああ、仕方ないけどこの出費は結構痛い。
「どうかしたのか?」
部屋の前から動かない私を心配して、伏見くんが声をかけてくれる。
「あー……えっと」
というか、この時間って管理会社の営業終わってるんだけど。
「鍵を失くした、と」
「…………はい」
「とりあえず、明日管理会社に連絡できれば大丈夫なんだよな?」
「………そうです」
伏見くんに状況説明をする。
とりあえず今日はホテルにでも泊まるかなあ、ってちょっと待って。
私、バイクに乗って撮影するだけだと思ってたから小銭しか持ってない。
「あの、伏見くん………たいっへん申し訳ないんですけど……
お金とか、貸してもらえませんか………」
「金、持ってないのか?」
「小銭手元になくって……」
「あー、それなら宮下さえ良ければだけど」
伏見くんは、何事もなかったかのように
「ウチ、来るか?」
そう言って笑ったのだ。