おべんとまじっく
なまえへんこう
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ついに、ついにこの時がやってきてしまった。
「今日はよろしくおねがいします」
先月ぶりの、雑誌の撮影。
スタッフもモデルも先月と同じメンバー。
「あ、佳奈さんだぁ!今日もよろしくお願いしますね!」
「撮影、最初が佳奈さんらしいので私たちは楽屋に戻ってますねぇ!」
リサとマヤ。
言葉こそ丁寧だけど、お互いの探り合うような視線から、
何を言いたいのかなんとなく察する。
「うん、一緒のカットもあるみたいだからその時はよろしく」
私は一言そう言い残してから、撮影準備のために楽屋へ向かう。
伏見くんのおかげでダイエットは成功。
脚も腰も、顔周りもどことなくスッキリしてる。
大丈夫、きっと大丈夫。
「佳奈さん入られます!」
「よろしくお願いします」
大丈夫、そう思いつつもカメラの前に立つと少し緊張してしまう。
あのカメラマンさんにも、時代遅れなんて思われてるかもしれない。
自分の感情とは裏腹に、体はいつも冷静で、
シャッターが切られるたびにポーズを変える。もはや無意識だ。
「佳奈ちゃーん、もうちょっと自然にできないかな?」
カメラマンさんの言葉に思わず固まる。
また、いつもと同じ指摘が入ってしまった。どうしようどうしよう。
ぐるぐる自問自答し続ける頭の中が引っ張り出したのは、
初めて伏見くんに写真を撮ってもらったあの日のことだった。
「ちょっとー佳奈ちゃん?もう休憩にする?佳奈ちゃん?」
『ポーズとか取らなくていいから自然に』
『じゃあなんか話しようか』
『なんでもいいぞ、付き合う』
そういえば私、あの日も同じようなこと言われたんだっけ。
その後伏見くんとの話に集中しちゃって撮影のことなんか忘れてて。
でも結局伏見くんが見せてくれた写真はとっても素敵で。
ああ、なんだろう、不思議だなあ。
さっきまであんなに焦ってたのに、頭の中が伏見くんでいっぱいになってしまう。
焦りもどこかに消えて、今はただただ心地がいい。
「ふふふ、」
思わず笑みがこぼれる。
「っ!佳奈ちゃん、そのままこっち向いて!」
「え、」
「うん、そのまま、そのまま……!」
カメラマンさんの指示に思わずびっくりして振り向いてしまった。
パシャリ。
あ、今絶対間抜けヅラだった。
「……ぷっ、あははは!」
バッチリ間抜けヅラがカメラに収まってしまったことが面白くて、
今度は声を出して大笑いしてしまう。
不思議、なんだか体が軽くなったみたい。
スタジオでこんなに自然に笑えるの、いつぶりだろう。
頭の中は伏見くんでいっぱいで、思い出すのはいつもの穏やかな日々だけ。
「佳奈ちゃん、こんな柔らかい表情できるんだ」
その後のことはあまり覚えてない。
ほとんど自分でポーズも取らずに、
カメラマンさんの言われるがままに目線を動かしていたくらい。
「よし、オッケー!」
「え、」
カメラマンさんの突然の声かけに驚いてまた固まる。
あれ、撮影進んでた?いや、進んでたのか。
「佳奈ちゃんどうしちゃったの!
今日、別人みたいによかったよ!」
カメラマンさんが興奮気味に私のところへ駆け寄ってそう言った。
「そうなんですか?あんまり自覚無くて」
「表情がとっても魅力的になった!なんかいいことあったの?」
「うーん、おいしいごはんを食べるようになりました」
カメラマンさんの軽口を聞き流しながら、
撮り終わった写真を見せてもらう。
「あ、」
この表情、知ってる。
私が先日見た、あの人の作品にそっくりな思わず魅入ってしまう綺麗な笑顔。
「私、こんな顔してました?」
「無意識だったんだ、へえ~」
「なんですか」
カメラマンさんが隣でニヤニヤとこちらを見てくる。
「こんなわかりやすく雰囲気変わるなんて、
誰のこと考えてたの?」
「え?」
「妬けちゃうなー俺たちがどんなに声かけても引き出せなかった表情だ
その人のこと、大好きなんだね」
「へ、」
だいすき、私が伏見くんを?
いや、そんな、まさか。
その後に発売されたその雑誌は、過去最大の売り上げを出した上に、
編集部判断で、私が表紙を飾ることになっていた。