おべんとまじっく
なまえへんこう
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それから私は、何度か伏見くんと撮影会を行った。
写真にこだわりのある彼は、撮影会のロケーションとして、
様々な場所を指定してきた。
学校の校舎内や商店街、ときには近場の海岸までバイクを走らせていくこともあった。
モデルの撮影といっても、基本的には服や商品をよりよく魅せるものばかりで、自分のため写真集なんて出したこともなかった私としては、スタジオの屋内以外で遠出するのは少し楽しい。
なにより、撮影中にしてくれる伏見くんのお話が大変興味深かった。
なんと、彼は現在寮完備の劇団の一員で、
いつも作ってくれているお弁当も、
寮の皆の分を伏見くんが作っているのだとか。
いよいよ本当におかあさんだね、なんて言ったら
本当に勘弁してくれ、って困ったように笑ってた。
「へえ、衣装とかチラシとかも劇団員で作っちゃうんだ」
「チラシの写真は俺が撮影するんだ」
「へえ!伏見くんもクリエイト班の一員なんだね!」
「クリエイト班って大げさな……」
「大事だよ、写真の時点で伝えたいことしっかりしてないと、
そのあとどんなに頑張ってもあやふやになっちゃうもん」
「そう思ってもらえてるならありがたいな」
伏見くんが恥ずかしそうにはにかんだ。
ううん、なんだろう。
この厳つい大男がだんだんかわいらしく見えてくる。
慣れって奴だろうか。
「それで、宮下はどうだんだ?」
「どうって何が」
「ほら、前に燃えてるって言ってただろ」
「うーん、どうだろ」
実は、伏見くんのお弁当のおかげなのか、
ダイエットはわりと順調だ。
「宮下は別に痩せなくても細いと思うけどなあ」
「伏見くんからしたら女の子はだいたいそうでしょ」
「いや、まあそうなんだけどそうじゃなくて」
「なにそれ?でもまあダイエットは順調だよ、
伏見くんのおかげで。」
「そうか、よかったな」
「いやあ、お世話になってます」
私の言葉に、顔を合わせてくすくすと笑った。
なんだか最近、撮影中なことも忘れてしまう。
お弁当作ってもらって、バイクで遠出して、
のんびりお喋り、ってなんだかデートみたいじゃない?
そう思ったら、なんだか急に恥ずかしくなってきた。
いやいやいや、伏見くんに他意はないんだから勘違いするな。
そもそも伏見くんならキレイなお姉さんが選び放題な気がする。
とっかえひっかえしてるのあんまり想像つかないけど。
「伏見くんって元ヤンだったりする?」
「っ、なんだ、急に」
「いや想像つかないけど、そういう人が意外に~ってあるじゃん」
「どうだろうなー」
「えっ、その返事は何か隠してるな?」
「さあな」
「えー気になる気になる!」
「はいはい、また今度な」
もしや本当にキレイなお姉さんをとっかえひっかえしてたのだろうか。うーん。それはそれで興味あるなあ。
「よし、じゃあ今日はこのあたりにしようか」
「はーい」
伏見くんがなにやら片づけをしている間に、
撮ってもらった写真のデータを見せてもらう。
「前から思ってたけど、
伏見くんってなんか実はめちゃくちゃカメラスキル高い人?
コンクール総ナメーみたいな」
「いや、さすがにそれはないかな、
前に一回だけ何かで入賞したことはあったけど……
なんでそんなこと聞くんだ?」
毎回、伏見くんに撮ってもらう写真はどれも素敵で、
なんというか、モデルが生き生きしてる気がする。
「あーいつも伏見くんに撮ってほしい!」
「??撮ってるだろ」
伏見くんが片づけを終わらせて私の方に向かってくる。
あれ、そういや言ってなかったっけ。
「私、一応モデルなんだよね」
「え、」
「時代遅れのポンコツモデルだけど」
「手足長くて写真映えするなとは思ってたけど、本職だったのか」
弁当だけじゃ安すぎたな、なんて伏見くんは申し訳なさそうだ。
「本職って呼べるほどでもないかなあ、最近ダメダメだし」
「それでダイエットを?」
「そう、なんだか最近撮影が上手くいかなくて、
とりあえず綺麗になるところからかなあと思ったんだけど」
実際、数日で落とせる体重なんてたかが知れてるし、
明確に写真でわかるほどでもない。
なんでそんな簡単なこと気づかなかったんだろ。
「伏見くんが撮ってくれる写真がいつも一番綺麗なんだよね」
これをスポンサーに出せないものか、と本気で思ったりする。
「あーあ、伏見くんが撮影にも参加してくれたらなあ」
「それはちょっと難しいかな」
「だよねえ」
何がいけないんだろう、くそう!なんて叫んでたら、
苦笑した伏見くんが帰るぞ、ってヘルメットを渡してくる。
「次はどこにするの」
「え、あー……えっと」
「?どうしたの」
「……が撮りたいんだけど」
「?なんて?」
バイクに乗った帰り道。
伏見くんに次回のお約束の確認をすると、
彼は急に歯切れが悪くなる。
声が小さい上に、周りの風のせいで全然聞こえない
「夜景が、撮りたいんだけど」
「いいじゃん、撮ろ」
私も夜景見たいし、楽しそう、なんて即答すると、
伏見くんはまた苦笑する。
「?なんか都合悪かった?」
「いや、帰り遅くなるけど大丈夫か?」
「うん、別に撮影で夜中になることとかよくあるから、全然」
「そうか、」
私の言葉に伏見くんはまた苦笑する。
なに、さっきから。
「じゃあ、また連絡する。」