おべんとまじっく
なまえへんこう
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「悪い、待たせたな」
「ううん、こちらこそ。本当に作ってくれたんだ」
翌日、伏見くんは本当に2人分のお弁当を持って現れた。
「ごめんね、大変だったでしょ2人分作るの」
「いや、ウチ大所帯だから1人くらい増えても手間は変わらない」
だから大丈夫。
そういって伏見くんは私の頭をわしゃわしゃとかき回す。
「っと悪い。女の子にするべきじゃなかったよな」
うち、男所帯だからつい、といいながら、
伏見くんは私の髪の毛をてきぱきと直してくれる。
「伏見くん、おかあさんみたい」
昨日の厳つさはどこへ行ったのやら。
私の髪の毛を直し終わると、
お弁当を手渡しながら、持ってきた保温ポットからスープを注ぎ始める伏見くん。準備がよすぎる。
「あんまり食べてないんだろ、ほらこれ」
そう言って私にスープを差し出してくる。
「もしかして、私のために作ってくれた?」
そういえば昨日はこんなポットは持ってなかった気がする。
「だいぶ食べてないみたいだったから、
急には食べられないかもと思って」
「ありがとう、優しいんだね」
こころの底から伏見くんにお礼を申し上げて、
差し出されたスープをいただくことにする。
うん、いいにおい
「わあ、トマトスープおいしい」
トマトと甘味と酸味がちょうどよくって、
隠し味に使われている香辛料も程よく食欲をそそる。
「気に入ってもらえたならよかった」
伏見くんが優しく笑う。
「えへへ、お弁当も、いただきます」
ふたを開けると、見事な低糖質メニュー。
こんにゃくに、豆腐に、ささみに、黒豆。
伏見くんの膝の上を見る限り私と同じメニューだ。
「メニューまで気をつかっていただいてありがとうございます」
「こうでもしないと食べないだろうと思って」
見抜かれてしまっている。
ここでがっつりカレーライスとか持ってこられたらほんとに申し訳ないけど多分お断りする。か、誰かにおすそ分けしてたと思う。
「さっき家は男の子ばっかりって言ってたけど、
もしかして皆同じメニュー?」
「ああ、筋肉つけるぞって皆盛り上がってたから気にするな」
私の言葉を先回りして伏見くんはまたわらった。
なんか、安心するなあ、この笑顔。
「ごちそうさまでした!」
「はいおそまつ様でした!」
「ふふ、伏見くん本当におかあさんみたい」
「うっ、それはやめてくれ」
なにやら伏見くんは苦笑い。
これは多分言われ慣れてるな。
「じゃ、どこで撮影しよっか」
私もお礼をしなくっちゃね、
そういって伏見くんに尋ねると、とりあえずそのまま座ってくれと言われる。
お弁当を食べたときのベンチにそのまま腰かけると、
伏見くんは唐突にカメラを構え始める。
「うぇ!?このまま撮るの!?」
「ダメだったか?」
「化粧だけ直させてほしい……」
「そのまでも十分かわいいぞ」
「っ!?うるさいなあ、ちょっと待ってて!!」
「はいはい」
伏見くんを脇を通り抜けて、急いでお手洗いに向かう。
リップ落ちてるし。髪の毛も風でぐちゃぐちゃだし。
よかった、撮影する前に鏡見れて。
伏見くんったら急に撮り始めるんだもん。
「おまたせ」
「よし、じゃあ撮るぞー」
パシャ
「……」
パシャ
「……」
パシャ
「なあ、」
パシャ
「ん?なに?」
伏見くんがカメラをおろす。
「あーえっと、もうちょっと自然にできないか?」
「え?」
「ポーズとか取らなくていいから自然に」
自然に?
ポーズをとるなと言われても、職業柄無意識に体が動いてしまう。
「自然に、ってどうすればいいの」
「カメラの事にしなくていいから」
「それは無理」
「じゃあなんか話しようか」
伏見くんがカメラを構えたままそんなことを言いだした。
「話?なんの」
パシャ
「なんでもいいぞ。付き合う」
「そうだなあ、伏見くんって彼女いるの?」
「っ、突然だなあ、別にいないよ」
「ええ、そうなんだ!意外!!」
パシャ
「そうか?」
「だって伏見くん優しいし、気が利くし、ご飯おいしいし
すごいモテそうなのになあ」
「あんまり言われないから照れるな」
「そうなの?わたし、同じクラスにいたら好きになっちゃうかも、なーんて」
パシャ
「宮下はどうしてダイエットしてるんだ?」
「見返したい奴がいるの」
「へーえ」
「今私は燃えに燃えてるの!!」
パシャ
「なるほど、それは楽しみだな」
「ふふふ、でしょ?楽しみにしててね」
パシャ
「よし、こんなモンかな」
「え?」
「いい写真が撮れた。ありがとう」
「!」
私いま、撮影ってこと忘れてなかった?
なんか普通に伏見くんと楽しくお話してしまっていた気がする。
「ほら、これとかすごくきれいだぞ。」
「だれこれ」
伏見くんに見せてもらったカメラには、
とっても柔らかい笑顔で微笑む私がいた。
「だれって、宮下しかいないだろ」
私こんな顔してたの、なんだか恥ずかしくなってくる。
に、してもだ。
この雰囲気。この前みた写真の雰囲気に似てる。
私の心を鷲掴みにした、あの。
伏見くんに撮ってもらえれば、もっと感覚がつかめるかもしれない……!
「なあ、宮下」
伏見くんがすこし言いづらそうにこちらを見降ろす。
「どうしたの?」
「宮下さえよかったらさ、またモデルになってくれないか?」
「!」
「だめ、かな」
伏見くんがこてん首を傾げる。
こんな大男のこんな姿がかわいく思えるなんて、
私、変になってしまったのだろうか。
「今、私もそう言おうと思ってたところ。」
こうしてわたしと伏見くんの奇妙な取引が始まった。