おべんとまじっく
なまえへんこう
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「おなかすいたなあ」
ダイエットを志して一週間ほど。
絶対に見返してやると強い意志を持って始めたはいいものの、
とりあえずの昨日からほとんど何も食べてない。
水とサプリだけは流石にしんどいなあ。
大学の広場のベンチに思わず座り込む。
「大丈夫か?」
そろそろ限界だなあと思って休んでいると、
柄の悪そうな男に声をかけられる。
「ああ、はいお構いなく」
「そうか」
しょうもない絡みに付き合うエネルギーもない。
適当に追い返そうとした私の言葉の意味が伝わってないのか、
男はなぜか私の隣に腰かける。
「なに、」
「弁当食べるのにちょうどいいなと思って」
男はにかりと笑うと、私の隣で弁当の包みを開き始める。
「うわ、すごい」
男の膝の上に並べられた色鮮やかなそれに思わず目を奪われる。
「自信作なんだ」
男は少し恥ずかしそうに頬をかいた。
「自分で作ってるの」
「こう見えても料理は得意でさ」
「全然見えない」
「はは、よく言われる」
こんなに体格のいい厳つめな男が、
色鮮やかで繊細なお弁当を作れるのか。
人は見かけみよらないとはよく言ったものだなあ
「……え、っと、食うか?」
男が気まずそうに横目でちらりと問いかけてくる。
「いや、私は、」
大丈夫、そう続けようとしたとき、私のおなかの音がぐううと大きく鳴り響く。
「~~~っ!」
男は一瞬だけぽかんとしてから、すぐにからからと笑った。
「遠慮しなくていいぞ。どうせいっぱいあるから」
「いい、いらない」
弁当箱を私に差し出してくるが、
ここで、ここで食べてしまっては……
「まあ、突然知らない男の弁当とか頼まれても食えないよな」
すまんすまん、とその人は少し眉を下げて笑うと、
それきり私に声をかけることなくもくもくと弁当を食べ進める。
ああ、いい匂いがする。
よくないと分かっているのに彼の手元から目が離せない
ぐううううううう
お弁当箱の最後のミートボールに彼の箸が近づいたとき
またしても大きなおなかのおとが鳴る。
言うまでもなく、私のものだ。
「…………」
「……」
隣の男と目が合う。
なんだか少し顔が険しいのは気にのせいだろうか。
「……」
「…………」
沈黙が重い。
というか恥ずかしすぎる。今すぐどこかへ消えてしまいたい。
「ふ、」
目の前の男が突然噴き出した。
いや、間抜けだとは思うけどそんな大笑いすることなくない?
「あの、」
げらげらと笑い続けるこの人に、思わず避難の声をあげる。
「ああ、すまん」
瞳に涙を浮かべながら、彼は突然自身の鞄を漁り始めてかと思うと、クリームパンを取り出した。
購買に売ってるクリームパン。おいしいんだよね。
「はい、これなら食べられるか?」
どうやら腹の虫が収まらない私に恵んでくれるようだ。
「いらない」
「めちゃくちゃ腹減ってるんじゃないのか?」
「ダイエット中だから」
気持ちはありがたいが、脂肪と糖質の塊のような菓子パンは受け取れない。
「だからって何も食わないと倒れるぞ」
「栄養は取ってるもん」
「栄養満点の人間の顔色じゃないな」
「…………」
彼の言葉が正論すぎてぐうの音も出ない。
「だって、何食べればいいか分からないんだもん」
「ん?」
「食べなきゃいけないのはわかってるけど…………
ダイエットなんてしたことないからよく分からなくて」
目の前の男はまたもやきょとんとしている。
ああもう。私すごいめんどくさい女になってない?
「ああ、そうだ」
少し間を置いてから、男は何かを思いついたように手を叩いた。
「明日から、俺が弁当作ってくるから、一緒に飯食わないか?」
「は、」
正直、ありがたいお誘いではある、けど
「あなたに何の得があってそんなことするの」
そう、彼に全くメリットがない。
「まあ、目の前の女の子が放っておけないってのが一番だけど」
私の問いに、彼は少し眉を下げながら申し訳なさそうに続けた。
「写真のモデルになってくれないか?」
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