茅ヶ崎至
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「茅ヶ崎さんなら、なんて訳しますか?」
かの夏目漱石はI love you を
"月が綺麗ですね"と訳したのだという。
会社での休憩中に女性社員がそんな話で盛り上がっていた。
「そうだね、わかりやすい方がいいんじゃないかな」
そんなポエミーな話に付き合ってられるほど
俺は文学に興味がないので、
適当にあたりさわりのないことを言うと、
そそくさとその場を離れた。
「茅ヶ崎さんって、意外にストレートに伝えるんだ~」
「意外!だけど言われてみたぁい!」
なんて女性社員のつぶやきは聞こえなかったことにする。
「ねえねえ、宮下さんはどう思う?」
宮下さん、という名前を聞いて思わず振り返る。
「なんで、いるの」
そこには、同僚たちには内緒で
交際している彼女である宮下 佳奈の姿があった。
部署が離れているため、
宮下はめったに俺の働いているフロアには顔を出さない。
ちなみに、最近
劇団の稽古と仕事がハードすぎて
なかなか宮下に会えていなかった。
久々に見る彼女は、いつにもまして魅力的だった。
(っと、やばい、ここ会社だった)
思わず抱きしめてしまいたくなる衝動に何とか打ち勝ち、
茅ヶ崎さんどうかしましたか、と
見上げてくる女性社員に
「なんでもないですよ」と完璧な笑顔で返す。
もうこの場にいないほうがいい。
そう思いつつも佳奈の声が聞こえるこの空間に
少しでも長く居たいと思ってしまうのは仕方のないことだろうか。
「"今すぐあなたの胸に飛び込みたい"」
ぽつりと、佳奈がそうつぶやいた。
「え、」
思わず足を止めてしまう。
さっきから自分は何をやっているのか。
これでは明らかに不審者である。
「やだ宮下さんって意外に積極的なんですね~!」
隣の女性社員が楽しそうにそう言う。
「最近彼氏に会えてなくって、
時間が出来たと思ってもすぐに逃げられちゃうし
なんだか寂しくって」
つい、と笑う佳奈
そんな困ったように、でも
どこか期待したような佳奈の顔を見た瞬間、
もう、ダメだった。
ざわつく女性社員たちなんか気にも留めないで
俺は勢いよく佳奈に抱き着いた。
「"ごめん、我慢できなかった"」
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