First Week
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「どれもよくお似合いですよ」
呉服屋の女将がにこにこしながら着物を構えている。
銀時さんの持ってきた大量の着物をみて、
はあ、どれでもいいんじゃないんですかね、と投げやりに言ったら
「男性の贈り物をそんな無下に扱うものじゃありません」
なんて店の女将に怒られてしまった。
私一応客なんだけどなあ。
仕方なしに着物を選ぼうとするも、
着物なんて選んだことがないからどれがいいだとかさっぱりわからずに、
さっきから女将の着せ替え人形になってしまっている。
銀時さんに意見を仰ごうにも
「俺もよくわかんねえから好きなの選べ」と一蹴されてしまった。
そうは言いつつもこの着物の山は彼が選りすぐってくれたのだろう。
私が自分で選ぶしかなさそうだ。
「普段は着られないんですか。着物」
「ええ、とりあえず動きやすいものばかり着てたので、
こういった華やかなものはかなり久しぶりで」
見かねた女将が声をかけてくれる。
「お持ちの着物はどんなものが多いんですか?」
「持っていたもの全て捨ててしまったんです」
「あらあらまあまあよほど苦労されたのね」
「まあそれなりに、恥ずかしい話、自分で着物を選んだこともないからよくわかんなくって……あ、」
「?どうかされました?」
女将との世間話に花を咲かせていたが、ふとある着物に目が奪われてしまう。
「素敵ですね、その着物」
白を基調としたシンプルな柄だが、裾の方には大き目な金魚が入っている。染物かな。ちょっと夏祭りの浴衣っぽくもあるが、おとなしめでいいと思う。
「こちらですか。お客様肌も白いのでよく映えると思いますよ」
女将はにこやかに微笑む。
何を選んでも同じように肯定してくれただろう。
商人とはそういうものだ。
その後もわたしがうじうじしてるのに耐えられなくなったのか、
女将があれよこれよと追加で着物2着と帯や帯絞めまで選んでくれた。
もう最初から女将が選んでくれてよかったのに。
「ありがとうございました。またお待ちしてます」
そう言って深々とお辞儀をする女将を後にして、
私たち二人が店を出るころには、日が沈みかけていた。
「もうこんな時間なんですね」
「誰かさんがかなりゆったり悩んでたからな」
銀時さんが嫌味っぽくそう言う。
「な、仕方ないでしょう。自分で選ぶのなんて初めてだったんだから」
「へーえ」
「なんですか」
「別になんでも」
そういうと銀時さんは私の手からするりと荷物を奪い取って先へ進んでしまう。
「ちょっと、」
「んっとにかわいくねえなお前は、
そこはありがとうございますってにこにこしてればいいんだよ」
私の言葉を先読みしていたかのようにそう言われてしまう。
うう、なんかこの人といると調子狂うなあ
「あ、ありがとうございます」
「よくできました」
銀時さんがまたふわりと笑いながら私の頭を撫でる。
今まで頭を撫でられるなんてこと、滅多になかったけど
案外嫌いじゃないかもしれない。
「あ、それより新八君と神楽ちゃんは?」
「遅くなりそうだったから先に帰った」
「お待たせしてしまってすみません」
「だから、」
「ああ、待っててくれてありがとうございます。銀時さん」
私がそういうと、銀時さんは満足げに笑った。
なんか、なんかわかんないけど、この笑顔好きだなあ。
さっきもそうだったけど、心の奥があったかくなるっていうか。
うまく言葉にできないけど、すごく心地いい。
「今日の晩御飯は何ですか」
「なんで俺に聞くんですかー」
「神楽ちゃんが料理するようには見えなかったんで」
「私がつくりますね、とか言えねえのかこの嫁は」
「え、作っていいんですか」
「え、作ってくれるの」
「皆さんがいいなら、全然」
「じゃあ目玉焼きハンバーグ食べたい」
「幼稚園児みたいなこと言いますね」
なんて、何気ない話をしながら家に向かっていると、
銀時さんが突然思い出したように立ち止まった。
「なんですか」
「あーはいこれ」
銀時さんは少し恥ずかしそうに紙袋を手渡してきた。
「やる」
「はあ」
私は彼の差し出すそれを受け取ってから、中を見る。
「え、」
そこに入っていたのは、私がさっき見惚れいていた簪、と……
「指輪……?」
「安物だけどよ、女ってそういうの気にするだろ」
そういいながらばつが悪そうに頬をかく銀時さん。
その左手には同じような指輪がはめられている。
「銀時さんって意外にそういうとこロマンチストですよね」
彼のそっけない優しさがなんだか嬉しくって、
くすくす笑いながらそんなことを言ってしまう。
「おうやっぱ返せや」
「いやです」
「いらねえんなら返せって」
「いやですいります」
銀時さんの制止を振り切って
私は指輪を手に取ってから、左手の薬指につける。
「これからよろしくお願いしますね、旦那様?」
「お前にそう呼ばれるの、初めてだな」
「そうでしたっけ」
なんてお互いにくすくすと笑い合う。
ああ、こんな日がいつまでも続けばいいのに
そんなことは絶対にありえないと分かっているのに、
願わずにはいられない。