Last Week
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
はるside
「出口まで案内してあげて」
側近の兵士にそう言い残して背中を向ける。
大きな音を立てて閉ざされた扉と、扉越しに聞こえる、懐かしい声。
「懐かしい、なんて」
たかだか数日しか経っていないのに、そんな風に感じるなんて。
「滑稽だわ」
遠のく足音に、胸を撫で下ろす。
あれ以上彼の言葉を聞いていたら、変なことを口走ってしまうかもしれない。
私の勝手で家出して、私の勝手で転がり込んだというのに、
これ以上迷惑はかけられない。
ただの家出娘を匿うのとはわけが違う。
宇宙規模の問題に発展してしまえば、いくらあの人が腕の立つ男だろうとどうすることもできない。
「これで、いいの」
こうするしか、できない。
思えばあっという間だった。
あの日屋敷で出会った男の言葉。
それしか縋るもののなかった私は、男の指示通りに屋敷を抜け出して、"万屋銀ちゃん"を探して歩きまわった。
あの商人の男と、彼の関係性はいまだによく分からないけれど、
彼と引き合わせてくれたことには本当に感謝している。
本当に、かけがえのない時間だった。
家のことなど関係なく、
私をただ一人の人間として見てくれる万屋のみんな。
対等に接してくれる歌舞伎町の人々。
あの日の、あの時間たけが私を私として生かしてくれた。
水戸の操り人形なんかではなく、ただ一人のちっぽけな人間として受け入れてくれた。
「もう終わった、そのはずなのに」
真選組に保護されたあの日、あの小部屋で過ごした夜に、
現実を受け入れようと決意したはずだったのに。
「だめだなあ、私」
国のために、政治のために、
武家の娘として、水戸家の女として生まれたそのときから、
こうなることは分かっていたはずなのに、
望まない人生の中で、少しでも幸せに歩けるように、
お稽古も勉強も、努力して準備してきたはずだったのに。
それが、"私"としての生き方ではないと分かっているはずなのに。
それは、"私"として許される選択ではないと理解しているはずなのに。
「帰りたいなあ、あの家へ」
思わず口から出た言葉。
声に出してしまえば、もうだめだった。
帰りたい。あのあたたかな家へ、彼の元へ。
帰りたい。私のご飯をおいしいって食べてくれる彼らのところへ。
口を出た感情が堪えきれず、頬に暖かな雫が流れた、その時だった。
「よう、もう一度聞くぞ」
固く閉ざされた金色の扉を蹴破って、
私が自ら拒んだはずの、会いたくてたまらなかった彼が、目の前に立っていた。
「銀時、さん」
駆け寄りたくなる気持ちをぐっと抑えて背を向ける。
どうか、涙に気付かれませんように。
「何しに来たんですか、もう依頼は終了だと言ったはずです」
「船に積まれた大量の時限爆弾が起動した。
あと10分もすればこの船は木っ端微塵だ」
「は?」
彼の突拍子もない言葉に思わず振り返る。
こんな時に、何をふざけたことを。
「そんな嘘、信じると思ってるんですか」
「気づいてるだろ、さっきから船の揺れが続いてる。
一部の爆弾が誤作動して先に爆発を起こしている。時間が無い」
銀時さんが真剣な、少し焦ったように早口でそう言った。
嘘を言っているようには、見えない。
「……まさか、本当に」
「こんな時に嘘なんか言うか」
さっきから船内がざわついているのはそれが原因だったのか、
気づいてはいたが、私としてもそれどころではなかったのであまり気に留めていなかった。
呆然と立ち尽くす私に銀時さんは続ける。
「膨大な量の爆弾だ、星でもぶっ壊すつもりだったのかと思うほど。ここにいたら確実に死ぬ。だから、選べ」
「今から俺は、お前を殺す。死にたいのは"誰"だ?」
「っ、」
「お前が、これから行きたい人生は、
"水戸華月"の人生か、それとも"坂田はる"の人生か、どっちだ」
選べ、銀時さんはそれだけ言い残して微動だにしない。
ただ待っている。私の、言葉を。
「選ばなかった方を、俺が殺す」
物騒な言葉とは裏腹に、とても優しい目をした彼。
背負うというのか、"私"の死を。
「本気で、言ってるんですか」
「だから、そもそもここにいれば全員仲良くお陀仏だっての」
「おら、時間ねえぞ」
そう言って、銀時さんは手を差し伸べた。
ああもう、敵わないなあ。
「卑怯ですよ」
「なんとでも言え」
私は彼の手を取って、金色の部屋から飛び出した。
「出口まで案内してあげて」
側近の兵士にそう言い残して背中を向ける。
大きな音を立てて閉ざされた扉と、扉越しに聞こえる、懐かしい声。
「懐かしい、なんて」
たかだか数日しか経っていないのに、そんな風に感じるなんて。
「滑稽だわ」
遠のく足音に、胸を撫で下ろす。
あれ以上彼の言葉を聞いていたら、変なことを口走ってしまうかもしれない。
私の勝手で家出して、私の勝手で転がり込んだというのに、
これ以上迷惑はかけられない。
ただの家出娘を匿うのとはわけが違う。
宇宙規模の問題に発展してしまえば、いくらあの人が腕の立つ男だろうとどうすることもできない。
「これで、いいの」
こうするしか、できない。
思えばあっという間だった。
あの日屋敷で出会った男の言葉。
それしか縋るもののなかった私は、男の指示通りに屋敷を抜け出して、"万屋銀ちゃん"を探して歩きまわった。
あの商人の男と、彼の関係性はいまだによく分からないけれど、
彼と引き合わせてくれたことには本当に感謝している。
本当に、かけがえのない時間だった。
家のことなど関係なく、
私をただ一人の人間として見てくれる万屋のみんな。
対等に接してくれる歌舞伎町の人々。
あの日の、あの時間たけが私を私として生かしてくれた。
水戸の操り人形なんかではなく、ただ一人のちっぽけな人間として受け入れてくれた。
「もう終わった、そのはずなのに」
真選組に保護されたあの日、あの小部屋で過ごした夜に、
現実を受け入れようと決意したはずだったのに。
「だめだなあ、私」
国のために、政治のために、
武家の娘として、水戸家の女として生まれたそのときから、
こうなることは分かっていたはずなのに、
望まない人生の中で、少しでも幸せに歩けるように、
お稽古も勉強も、努力して準備してきたはずだったのに。
それが、"私"としての生き方ではないと分かっているはずなのに。
それは、"私"として許される選択ではないと理解しているはずなのに。
「帰りたいなあ、あの家へ」
思わず口から出た言葉。
声に出してしまえば、もうだめだった。
帰りたい。あのあたたかな家へ、彼の元へ。
帰りたい。私のご飯をおいしいって食べてくれる彼らのところへ。
口を出た感情が堪えきれず、頬に暖かな雫が流れた、その時だった。
「よう、もう一度聞くぞ」
固く閉ざされた金色の扉を蹴破って、
私が自ら拒んだはずの、会いたくてたまらなかった彼が、目の前に立っていた。
「銀時、さん」
駆け寄りたくなる気持ちをぐっと抑えて背を向ける。
どうか、涙に気付かれませんように。
「何しに来たんですか、もう依頼は終了だと言ったはずです」
「船に積まれた大量の時限爆弾が起動した。
あと10分もすればこの船は木っ端微塵だ」
「は?」
彼の突拍子もない言葉に思わず振り返る。
こんな時に、何をふざけたことを。
「そんな嘘、信じると思ってるんですか」
「気づいてるだろ、さっきから船の揺れが続いてる。
一部の爆弾が誤作動して先に爆発を起こしている。時間が無い」
銀時さんが真剣な、少し焦ったように早口でそう言った。
嘘を言っているようには、見えない。
「……まさか、本当に」
「こんな時に嘘なんか言うか」
さっきから船内がざわついているのはそれが原因だったのか、
気づいてはいたが、私としてもそれどころではなかったのであまり気に留めていなかった。
呆然と立ち尽くす私に銀時さんは続ける。
「膨大な量の爆弾だ、星でもぶっ壊すつもりだったのかと思うほど。ここにいたら確実に死ぬ。だから、選べ」
「今から俺は、お前を殺す。死にたいのは"誰"だ?」
「っ、」
「お前が、これから行きたい人生は、
"水戸華月"の人生か、それとも"坂田はる"の人生か、どっちだ」
選べ、銀時さんはそれだけ言い残して微動だにしない。
ただ待っている。私の、言葉を。
「選ばなかった方を、俺が殺す」
物騒な言葉とは裏腹に、とても優しい目をした彼。
背負うというのか、"私"の死を。
「本気で、言ってるんですか」
「だから、そもそもここにいれば全員仲良くお陀仏だっての」
「おら、時間ねえぞ」
そう言って、銀時さんは手を差し伸べた。
ああもう、敵わないなあ。
「卑怯ですよ」
「なんとでも言え」
私は彼の手を取って、金色の部屋から飛び出した。