Last Week
名前変換
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日が傾きかけ、海面に橙色の光が煌びやかに反射する頃。
俺は一人で出港間際の船を見つめていた。
「助けるっつってもなあ」
政治が絡んだ結婚の準備ともあってか、船のセキュリティは強固なもので、出入り口の桟橋には厳重な装備の門番が構えていた。
どうしたものかと頭を捻らせていると、
ふと、昨日坂本から手渡されたカードが目に入る。
「…これ、IDカードか……?」
よく見ると、ぶ厚めのプラスチック製と思われるそれには、
俺の顔写真と合わせて何やら文字が書かれていた。
「快援隊雑用担当 坂田金時…?」
社員証みたいなものだろうか。こんなオモチャみたいなもので厳重な警備をかい潜れるとは思い難い、が。
「これに頼るしかなさそうだ」
名前、間違ってるけど。
「こんなにザルで大丈夫かよ」
あのあと門番にIDを提示して、なんなく船内に潜入して、
雑用係として船内の荷物運びを手伝っている。
かなり不安ではあったが、問題なく通れたようだ。
「にしても偽装IDって……」
準備がいいのやらなんなのやら。
「おい雑用!こっちの荷物も頼むわ!」
「はーいただいま!」
ひとまずはこのまま雑用係の仕事をこなしつつ、船内の情報を集めるしかないようだ。
「にしてもすごい荷物の量ですね」
「ったり前だろ?水戸の姫様がお引越しなさるんだ。
お付きの人間も合わせると大がかりな移動だぞ」
先輩と思われる男に声をかける。
「じゃあ、これは姫様のお部屋まで運べばいいんですか?」
「馬鹿野郎。俺たちが勝手に出入り出来るわけねーだろうが。
ヌメリーノ様の執務室までだよ」
「ヌメリーノ様?」
「はあ?お前、そんなことも知らないのか?
姫様の結婚相手だよ。今回の俺たちのもう一つのお客様だ」
「へえ、」
ヌメリーノ様。なんとも珍妙なお名前である。
それが苗字なのか名前なのかもわかるはずもなく、
運搬口から少し移動した執務室へ向かう。
そこには執務室とは名ばかりで、
ほぼ物資移動のための拠点倉庫代わりになっていた。
「とりあえずこれで全部だな、雑用、お疲れさま。
ひとまず休憩にしようか」
そう言って先輩らしき男はどこかへ行ってしまう。
船員は船内の生活が基本となる。自室へとでも戻ったのだろうか。
男の背中もそこそこに見送って、拠点倉庫となり替わっている執務室とやらを見渡す。
食料品や日用品船の整備用品などにまぎれて、
見るからに厳重に包まれた荷物があった。
「ここにあるヤツ、運ぶんですよね?」
「あー、まあ、そうだけど……」
「どうかしました?」
歯切れの悪そうな仕分け担当の男たち。
「そのあたりの荷物はヌメリーノ様の私物だ。
ヌメリーノ様の私室にお運びするんだが……なあ?」
「ああ…」
男たちはなにやらばつが悪そうに顔を見合わせる。
まぁ、通常の人間であれば、得体のしれないタコの天人に近付きたくないのは当然かもしれない。
天人が地球を往来するようになってからすでにかなり経つが、
苦手意識、というか嫌悪感、というか。
消えなくても仕方はないだろうが、それで宇宙海賊などよく務まるものだ、とは思う。
もしかすると水戸家側の人間なのだろうか。
「よかったら、俺運んできますよ」
「本当か!?」
「ありがてえ!」
俺の言葉に目を輝かせる男たち。
適当に言い訳を付けて場所を聞きだしてから、ヌメーリーノ様とやらのお方の私室へ向かう。
だいたいは私室で何やら高貴なお話をされているようだ。
「高貴なお話、ねえ」
貴族の天人様は流石別格でいらっしゃる。
そんなことを考えながら、指定された場所へ向かう。
船内の最上階。いかにもわかりやすくラスボスが構えてそうな立地。たしかに見晴らしは良さそうだけれども。
「お荷物お届けにきましたよー、っと」
なんて、聞こえるはずもない小声で呟いてから、
荷物を入り口に置いて扉の前で聞き耳を立てる。
「にしてもうまくやりましたなあ、ヌメリーノ様!」
「はっはっは、人間など単純な生き物、造作もないわ」
男の声が二つ。
会話の内容からして、ヌメリーノ様と誰かの"高貴なお話"といったところだろうか。
「まさか、ヌメリーノ様がニンゲンのメスに興味があったなど、初耳でしたな」
「ふはっ、興味か、そうだな。たしかに興味はあるな。
ニンゲンのメスはまだ味わったことがないからな」
「さすが、ヌメリーノ様」
「まあ、所詮ニンゲンだ。大した期待はしておらんがな」
「……ニンゲンは病弱な生き物と聞きますから」
「そうだなあ、せっかく嫁入りしても、
すぐに病気になって死んでしまうかもしれんなあ」
「物好きな天人には高値で取引されているようですし。くすくすくす」
扉の奥からげらげらと品のない笑い声が響き渡る。
外に聞こえるようなボリュームでお話されていらっしゃるけどこんなに不用心で大丈夫なのだろうか。
「にしても、安心したわ。」
これで心置きなく暴れられる。