Last Week
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「あれ、銀さん?どこ行くんですか?」
「ちょっと出かけてくるわ」
その後、万屋への階段を上る新八と入れ違いになるようにして、
俺は玄関を飛び出した。
娘を助けて欲しい。
はるの荷物と同じ三つ葉の柄が入れられた封筒。
こんなものを送る人間は限られている。
「水戸家現代当主、水戸頼貞公……!」
水戸家の結婚が巷でも話題になったとき、何度か名前を耳にした。
傾きかけていた分家をその類い稀なる才覚で一代で今の地位まで駆け上がらせた影の実力者だ。
将軍、徳川家の分家でありながらも、
彼の才能は大きく評価され現在では、徳川の中でも大きな発言力を持つといわれている。
テレビでみただけの情報なので、どこまでが本当なのか分かった者ではないが。
その、圧倒的な才能と権力を持った水戸頼貞公が
はるの父親ということだろうか。
「なんでこんな回りくどい真似を…」
俺に手紙を送ってきたということは、
娘の結婚に異議があるということだろう。
に、してもだ。それならそれで直接言えばいいものを。
自分の娘の結婚に口を出せない当主がいるとでも言うのだろうか。
「水戸家だけの問題じゃあ収まりきらんからよ」
思考巡らせたまま歌舞伎町内を走り抜けていたとき、
俺の心の中でも読めるのかというタイミングで、
男が一人、目の前に立ちはだかった。
「坂本……!」
「金時、お前さんどこ行くつもりじゃ」
いつもの緩み切った表情とは打って変わって、鋭い視線で見つめる。
「はるのとこに決まってんだろ」
「おーおー、お前さん、さては阿呆じゃろ」
「なにを、」
「もういっぺん聞くぞ、"どこ"に行くつもりじゃ」
「っ」
坂本の言葉に言いよどむ。
「まさか水戸家の城に正面から突っ込む気だった、とか言うつもりか?」
頭に上っていた血が少しずつ引いていくのを感じる。
ああ、そうだ。
俺は今、あの手紙をみて、何も考えずに家を飛び出していた。
策なんてあるはずもないし、そもそも水戸家に行ったところではるに会えるはずもない。
「随分、入れこんどるんじゃなあ」
「別に、そんなんじゃねえよ」
「言うとけ言うとけ」
坂本は俺の顔を見るなりいつものようにのほほんと笑って踵を返して歩き始める。
「あ、おい」
「こんな道の往来でしづらい話もあるじゃろ。ついてこい」
「お前、これ……」
坂本の後ろをついて歩くこと数十分。
俺たちは大きな船が停泊している船着き場にいた。
「式の準備のためにな、姫様はこの船で別の星に向かう」
「やけに詳しいじゃねえか」
「当然じゃあ。輸送はわしら快援隊が行う」
顔色一つにそう言い放った隣の男の言葉に思わず耳を疑う。
なるほど。
こいつは最初から全部知ってやがったってわけか。
「……いい趣味してやがる」
「お上からの指示じゃあ、従わんわけにはいかん」
「そんなこと、お前が気にするタマかよ」
「……手紙、届いたか」
「なるほど、あの手紙もお前の仕業ってわけか?」
通りで都合のいいタイミングでこいつと出会うわけだ。
「送り主はおまんの想像通りで間違っとらん。
わしは届けただけぜよ」
「全部、お前の計画通りってわけか」
「……」
坂本は、俺の言葉にそれ以上何も言わなかった。
否定しない沈黙は、もはや肯定しているのと変わらない。
コイツも、俺がそう察すことも分かっているのだろう。
「明日17時、この船は出港する」
「あ?」
「これを、おまんに渡しておく」
坂本はそう言って小さなカードを俺に手渡した。
「ここまで付き合わせて悪かったのう、後は好きにすればええ」
そう言って坂本は船の方へ向かっていく。
「助けろ、って言わねえのか」
「言わんでも、お前はそういう男じゃき」
坂本はそう言ってにやりと笑った。
「ったく、報酬は後払いだからな」