Third Week
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真選組の屯所に着いて小さな空き部屋に通される。
今晩はここでおとなしくしていろ、ということのようだ。
部屋には来客用と思われる布団と、
見慣れた派手な着物が置かれていた。
「私、こんなの着てたんだ」
ついこの前まで特に気にすることもなく袖を通していた着物。
細かなところまで丁寧に刺繍が施されており、
今改めてみると、この着物がいかに高級なものなのかがよく分かる。
「おわっちゃったなあ」
誰もない和室で呟いた自分の声が虚しく響く。
なんだか足の力も抜けてしまい、パタンと膝から座り込んでしまう。
「しかたない、か」
思わずため息をつく。
いつもなら晩御飯を作り終わって、
皆でああでもないこうでもないなんて言い合いながら食卓を囲んでいる時間、だったのに。
「なんて」
たった数週間程度のあの時間が、いつの間にか自分の中の日常になってしまっていることに気付いてちょっと笑ってしまう。
違う、勘違いしてはいけない。
私にとっては、あの瞬間が特別で、夢のような時間だったのだ。
「現実に戻っただけ、ただそれだけ」
もう諦めて寝よう、そう思ったときだった。
「よう、元気かぃ?」
「おきた、さん?」
小さな部屋の襖が突如開いたかと思えば、
月明りを背に沖田さんが仁王立ちで立っていた。
「一緒にどうだ?」
呆気にとられる私を無視して、
沖田さんは部屋の前の縁側に腰かけて、
廊下に置いてある徳利を傾けて2人分のお猪口に注いだ。
「えっ、」
「いい酒が手に入ったんでぃ」
沖田さんはそう言って月を見上げながら、
片方のお猪口を口に運んだ。
「・・・…」
「今夜は月が綺麗だ」
どうしたものか、訳も分からずに彼を見つめていると、
沖田さんは突然振り返ってそう言った。
「告白ですか」
「こんな日に辛気臭い顔してんじゃねえ」
酒が不味くなる、そう言って彼はまた月を見上げた。
あれ、もしかして
「慰めようと、してる?」
「……」
私の言葉に、沖田さんは一瞬ピクリと動きを止めてから、
何事もなかったかのようにお酒を飲み進める。
「もう、付き合えばいいんでしょ」
きっと、そうしないとこの人ずっとここでお酒飲んでいる気がする。
そう思って、私は彼の隣に腰かける。
「ん」
「どうも」
隣に腰かけた私をちらりと見てから、
沖田さんはお盆の上に置かれたままのもう片方のお猪口を差し出す。
「おいしい……」
「だろ?」
彼の手渡してくれた日本酒を口に運ぶ。
透き通った風味がすっきりとして飲みやすい。
「ありがとうございました」
「何の話でぃ」
「気、使ってもらってたみたいで」
「驚いた。さっきの土方とはずいぶん態度が違うんだな」
「水戸家の知人には興味ありませんが、
沖田さんは"私の"知人なので」
「そういうモンかねえ」
沖田さんはずっと月を見上げたままだが、
私の言葉に少しだけ口の端を上げた。
「沖田さん、気づいてたんですよね」
「あ?」
「私のこと、最初から気づいてたんですよね」
「まさか」
「だから万屋の留守に私の様子を見に来てくれた、違いますか?」
「買いかぶりすぎでぃ」
「まあ、そういうことにしておきます。」