Third Week
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あの後、真選組の男に連れられて車でしばらく移動している。
車窓から見えるのは、見慣れた歌舞伎町の景色。
ああ、城下がこんなにも賑やかだったなんて
前まで知ろうとも思わなかった光景。
記憶に新しい商店街を抜けて、車はしばらく大通りを走行し続ける。
20分ほど経ったあたりで、なにやら違和感を覚える。
「どこに連れていくつもり?」
水戸家の城はとうに通り過ぎている。
私を水戸家に引き渡すわけではないというのであれば、この車はどこへ向かっているというのだろう。
「真選組の屯所ですよ。
今晩は手が離せないらしく、
明日の朝お迎えにいらっしゃるようです」
紛らわしくてすみませんね、なんて欠片も思ってないだろう言葉を口にして、男は流れるような手つきで胸ポケットにある煙草を一本取り出した。
「やめて、煙草の匂い嫌いなの」
「それは失礼」
男は小さくため息をついてから煙草を胸ポケットに戻した。
「にしても、数週間ぶりの家出娘が見つかったっていうのに、
今は手が離せないって、ねえ?」
「お忙しい方ですから、仕方ないかと」
男は車のルームミラー越しに後部座席に座る私をちらりと見てから、淡泊にそう返した。
「じゃあ私も忙しいからここで下してくれない?」
「じゃあって……すみませんができません」
「娘を後回しにして仕事を続ける家になんて帰りたくないって言っているの」
「それはぜひ明日お話になってください」
「だから、やめてって言ってるでしょ、煙草」
「チッ」
話の流れならバレないとでも思ったのだろうか。
性懲りもなくもう一度煙草を手に取る男に声をかけると、
今度はわかりやすく舌打ちをされてしまう。
「まったく、嫌な態度ね」
「それはすみませんね」
「あーあ、こんな態度の男、
いつもならお父様に言って首をはねてもらうのに」
「っ、大変失礼しました」
「いいの、今日は機嫌がいいから許してあげる」
「機嫌がいいようには見えませんが」
「うるさいなあ、いいって言ってるんだから黙ってなさいよ」
「はいはい」
男と適当なやりとりを続けること数十分。
大きな屋敷の前で車が止まったかと思うと、後部座席の扉が開いた。
「お待たせしました」
「ありが、あっ」
扉を開けてくれた隊士を言うとして、声がした方へ顔を向ける。
「あれまあ、アンタ姫さんだったんですかぃ」
「沖田、さん?」
「庶民らしくねえ動きするなあとは思ってやしたが、
まさか本当にお嬢だったとは、こりゃ驚きでさぁ」
言葉とは裏腹に眉一つ動かさずに沖田さんが私の手を取りながらそう言った。
「白々しい言い方」
「こりゃひでえ言われようだ」
「オイ総悟、どういうことだ」
沖田さんが私の言葉にくすりと笑ったとき、
背後からドスの聞いた男の声が響く。
「ありゃあ土方さん。お疲れさまでさぁ」
「おい、総悟お前まさか、姫様のこと気づいててわざと黙ってたなんてことねえよなあ?あ?」
土方さん、とよばれた先ほどの運転手の男が
鬼の形相で沖田さんに詰め寄った。
「まさか、万屋の旦那のところで顔見知りだっただけでさぁ、
髪型も表情もすっかり変わってたんで気づきやせんでした」
流石土方さんは違えや、
なんて、沖田さんはまた眉一つ変えずに飄々と言う。
「……まあ、そういうことにしておいてやるよ」
土方さんはそう言うと、1人でさっさと屯所へと向かっていってしまった。