籠の鳥
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ありがとう、楽しかった」
そう言って僕の車から降りると、こちらを振り返ることもなく入り口の扉をくぐる。門の前で彼女を迎えたガタイのいい二人の男は白崎と黒田。牡丹はシロとクロと呼んでいた。どこにでもいそうなペットの名前を平然とこの強面な男につけて呼んでいるあたり、なんだか彼女の家柄が感じられる。
「はあ、」
彼女の姿が見えなくなったことを確認してから、思わずため息を吐く。今の自分ならこんな迂闊なことは絶対にしないが、あの頃は潜入捜査を始めたばかりで、未熟なばかりだった。
「今日も平和にご送迎、か」
僕は思わずそう愚痴を零す。桐堂組の組長に近付きたくて潜入捜査をやっている以上、彼女に父親を紹介してもらわなければならない。かといって、あまりにあからさまにそう仕向けるわけにもいがず、彼女が言いだしてくれるのを待つことしかできずにいた。
「に、したってもう半年は経つぞ……」
もちろん、お互いに未成年のお子様なわけでもないし、わざわざ親に報告しようとは思わないのは分かってはいるが、こちらとしてはその羞恥心非常に煩わしい。
「帰るか」
諦めたようにため息を吐いてから、今日はそのまま直帰することにする。もちろん直帰と言ったって、いつも何通りもあるルートをランダムに選んで後ろを付けている車を撒くわけでもないのに猛スピードで細心の注意を払って帰宅する。
油断ならない奴らだとは分かっているものの、本当にここまでする必要があるのかと思ってしまう。本当のことを言えば、ここから自宅のマンションまでは30分あれば到着できる。それを毎日毎日1時間以上かけてわざと遠回りするのだから、なんだか馬鹿馬鹿しくなてくるというものである。
なんて、思っていたとして、まっすぐ帰る勇気もないわけで結局今日も90分かけて自宅へと帰った。
"明日の夜、お時間よろしければ会えませんか?
紹介したい人がいるんです"
それから数日たったある日、そんな文脈のメールが牡丹から送られてきた。エスパーか何かなのか、思わず盗聴器の類を疑ってしまうが、そんなチェックは毎日欠かさず行っている。待ちわびていたこの日が、ようやく来たのだろう。
「セカンドミッション、開始、か」
俺は一人そうつぶやいてから、牡丹にOKの返事を返すのだった