籠の鳥
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「もしよければ、僕の恋人になってくれませんか?」
桐堂牡丹と出会ってから数か月。何度かの逢瀬を重ねてから、
僕は彼女にそう言った。彼女は僕の言葉に驚いたように目を見開いてから、何かを考えるようなしぐさを見せると、たっぷりの間を置いてから
「まあ、いいか」
とだけ言った。
僕の最初のミッションがクリアされた瞬間だった。
簡単で単純な計画である。まずは娘の牡丹に取り入ってから、そのまま父親に気に入られ、組織への関わりを探っていく。そこでの活躍が評価されれば、きっと自分も組織の人間の仲間入りができるだろう。今のところは計画通りに進んでいるというわけだった。自分でもそんなに簡単にいくものかと思っていたが、なんだか簡単に進んでしまい拍子抜けする。まあ、問題はここからなのだが。
「透は知らないだろうけどさ、私桐堂組の一人娘なんだよね」
今日のランチは何にしようか、本当にそんなノリで彼女はそう言った。俺は彼女の言葉に目を見開いて驚く。__フリをした。もちろん最初からそんなことは分かっていたし、むしろ桐堂組の娘でなければこの女に近付く必要性もなかったわけだ。
「あの、桐堂組、ですか?」
一般的にも、桐堂組といえばまあまあ名の知れた極道だ。
「そうそう、その桐堂組」
「そうですか」
「あんまり驚かないんだ?」
彼女にそう言われて一瞬どきりとしてしまう。
最初の表情だけでは足りなかったというわけか。
「いえ、もちろん驚いていますけど」
あなたは、あなたでしょう?
そう言ってキスの一つでも落として見せれば、彼女は満足げに微笑んだ。
「上等」
彼女のその言葉が、どういう意味であったのかはその時の僕どころか今の僕にさえも分からないが、彼女の声が少しだけ震えていることにこの時気づけていれば、未来は変わっていたのだろうか。