切望的進化論
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彼は私を撃ったその後すぐに踵を返して倉庫を後にした。
透に撃たれたその瞬間が走馬灯のように何度も繰り返される。
彼のあの悲痛な表情が、なぜだか消えてくれない。
ああ、もう私は死ぬのだろう。
頭を撃たれたというのに思考が回ることに若干の違和感を覚えつつ、
衝撃に身を任せて目を閉じる。
ああ、どうせこんなことなら薬、飲まなければよかったかも。
骨が溶けるような、血があふれるような、体が灼けるような感覚。
自分でももう、自分の体がどうなっているのかよく分からない。
「最期くらい、普通の女の子になりたかったなあ」
目が覚めて、一番最初に視界に入ったのは、
側近である黒田の顔だった。
「クロ……?」
そうか、あの騒動でこの男も殺されてしまったのか。
「あなたも殺されてしまったのね」
きっとここはあの世なのだろう。
ああ、あの世でも知り合いに出会わせてくれた神様に感謝しないと。
心配そうにのぞき込んでいた黒田の頬を撫でる。
あれ、私の手ってこんなに小さかったっけ。
「死んでないですよ。俺も、あなたも」
黒田はそう言って私の背中を支えて起き上がらせる。
「え、いやだって私、頭を思いっきり撃たれて……」
「世の中、まだまだ不思議なことだらけですね」
そう言って黒田はくすくすと笑いながら私に手鏡を差し出してくる。
別に自分の寝起きの顔など見たくもないのだけれど。
彼の意図がよく分からないまま、差し出された手鏡で自分の顔を見る。
「なっ、」
言葉を失って、持っていた手鏡を落としてしまう。
鏡に映っていたのは、10歳ほど若返った少女時代の自分の姿だった。
「あんまり自分も自信がなかったのですが、
桐堂 牡丹お嬢様で間違いないですか?」
「そう、みたいね……」
黒田の話はこうだった。
広間からなんとか逃げ延びた彼は、ひとまず私の安全を確認しようと屋敷中も探し回った。
最後に入った倉庫で見つけた"先ほどまで桐堂 牡丹が着ていた"着物に包まれたその少女は、自分が記憶している在りし日の牡丹に酷似しており、まさかとは思いつつ安全な場所で保護して目が覚めるのを待っていた。
「そして今、って感じですね」
「それ、見つかったのが黒田じゃなかったら殺されていたでしょうね」
「見つかる前に殺されていたくせに」
ああ恐ろしい、と呟くと黒田に突っ込まれてしまう。
「そう、なんで私、生きているのかしら」
頭を触ってみるものの、指先では銃創など一切感じられない。
「溶けたんじゃないですか?」
「はあ?」
「小さくなるはずみで、こううまいこと傷が塞がって……」
「そんな都合のいい話ある?」
黒田の言葉は信じがたい、が。
既に体が縮むなんてそれ以上にありえない経験をしてしまっている以上、何とも言えない気がする。
「でも、そうやって考えるのが一番自然か」
「ちなみに、桐堂 牡丹自体は死んだことになってるみたいですね」
昨日、葬式やってましたよ。
何て黒田が何事もないように言った。
「え、」
「いいんじゃないです?
生きてるって思われてる方がなにかと面倒ですし」
「さっきから、なんだかフランクね」
「まあ、親父ももういないし、お嬢もかわいらしいので」
そう言って黒田はにやりと笑った。
ああ、懐かしいな、黒田のこんな表情は久しぶりに見た気がする。
ん、ちょっと待って。
「ねえ、クロ。私今、いくつくらいに見える?」
「え、中学生、くらいですかね」
「ふーん」
「何企んでるんですか」
黒田が呆れたように尋ねる。
「いや?せっかくならもう一回やり直したいな、って」
「何を」
「桐堂家に取り上げられた青春!!」
私が力強くそう言うと、黒田は大きなため息を一つ、吐いた。