切望的進化論
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桐堂組の1人娘。
それが私の全てだった。
誘拐事件が日常茶飯事だった小学生時代。
噂話だけが独り歩きして、だれとも友達になれなかった中学時代。
いつしか達観して、笑うことすら忘れてしまった高校時代。
私の青春時代は家柄のせいでいつも滅茶苦茶だった。
友達と一緒に遊んだり、寄り道したりしたかったけど、
毎日学校から家まで車で往復の日々。
中学、高校と年齢が上がるにつれて、
友達との寄り道、買い食い、ショッピングなんかは全部憧れだった。
成人してもそれらが変わることはなく、
就職して働くこともなく、ただ家の手伝いをするだけの閉鎖的な毎日がずっと続くと思っていた。あの日まで。
「これ、落としましたよ」
成人して何年も経つのにいまだに17時が門限なことにいい加減腹が立って、ヤケクソで屋敷から飛び出した夜。
私は、彼__安室透に出会ったのだ。
明らかに不審なナンパ。
と、いうかこのあたりに住んでいる人で私にナンパするなんて
よほどの田舎者か命知らずしかいない。
そこそこ声をかけられるような家であれば、
私は学生時代からもっと楽しく過ごせただろうと思う。
「じゃあ、おいしいコーヒーでもどう?」
そう言って、彼の誘いに乗ったのはどうしてだっただろうか。
夜の街に年甲斐もなくはしゃいでいたからなのか、
このよほどの変わり者と少し話をしてみたくなったからなのか。
唯一、彼を連れていける心当たりのあるお店が
夜も営業しているカフェバーしかなかったから。
「もしよければ、僕の恋人になってくれませんか」
透の言葉にはっとする。
あれから何度か遊びに誘われ、5回目くらいの帰り際に彼はそう言った。
ああ、その目はよく知っている。見慣れた目だ。
20歳を過ぎたあたりからだろうか。
桐堂組の跡目を狙って私に近付く人が多くなった。
彼らは私に愛を囁きつつも、私のことなど1ミリも見ていない。
「まあ、いいか」
彼のヘッタクソな愛の言葉に付き合ってあげたのは、
いい加減言い寄ってくる男にうんざりしてたから、
そしてそれから、彼の瞳があまりにも、そう
極道の跡目を狙う男にしてはあまりにも、まっすぐな瞳をしていたから。
「牡丹、彼氏が出来たんだってな」
「だから?親父に関係ないでしょ」
透との交際が続いたある日、突然親父に迫られる。
「お前の選ぶ男が桐堂組の跡目になるんだぞ!わかっているのか」
「いつも言ってるけど、興味ないから」
青春時代を家のせいで台無しにしてしまったのに、
なぜこれからの人生も決められなくちゃいけないのか。
「ねえ、私そろそろ就職したいんだけど」
「何を言っているんだ。お前は桐堂組を陰から支えていくんだ」
「いい加減にして、誰が決めたのそんなこと」
親父と何度も繰り返した来た喧嘩。ああもう、馬鹿みたい。
「とにかく、私は継がないし、
桐堂組とは無縁に生きたいの!家に振り回されるのはもうこりごりなの!」
これ以上言ってもらちが明かない、と親父の部屋を飛び出す。
「もう、いいか」
これ以上の不毛なやり取りはもううんざり。
私は小さくため息をついてから、透にメールを送った。