切望的進化論
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「とりあえず、行きます?」
はあ、とため息をついたぼたんちゃんに問いかける。
少年探偵団の子供たちのお誘いを受けて水族館へ行くことになっていた。
そう、なっていた、のだが。
「事件ってなに……」
集合場所になぜだかコナン君一人が現れてチケットを押し付けてきたと思えば
「今から事件を追うから!!!」
なんて言って走り去っていってしまった。
「安室さんは行かなくていいの、事件」
車のシートベルトを締めてエンジンをかける直前で、
ぼたんちゃんは遠慮がちにそう言った。
「まあ、コナン君がいるのなら問題ないでしょう」
「なにそれ」
ぼたんちゃんは眉を下げて苦笑い。
自分のために気を遣わせた、とでも思っているのだろう。
「約束は、守る男なので」
「へえ?」
僕がおどけたようにそう言って見せれば、
今度は彼女は少し意地悪そうにまた笑うのだった。
「知らなかった、安室さんがそんなに水族館が好きだったなんて」
「僕、そんなこと言いましたっけ」
「すごい楽しそう」
移動中の車内で、突然ぼたんちゃんがそう言った。
「水族館は久しぶりに行くもので」
「そうなんだ」
楽しそう、傍から見ればそう見えるのだろうか。
最後に彼女と行った以来、もう数年行っていない水族館。
水族館だけでなく、仕事以外でこういったレジャー施設に来るのはもうかなり久しぶりなのではないだろうか。
まあ、今回のこれが仕事かどうかと言われると微妙なところではあるが。
「はぐれないように気を付けてくださいね」
「流石、安室さん」
水族館に到着して、しばらくのんびりと見て回っていると、
ぼたんちゃんがこちらを見上げて突然そう言った。
「どうかしました?」
「いや、エスコート上手だなと思って」
ぼたんちゃんが僕の右手とつながれた自身の左手を上げてそう言った。
「ああ、すいませんはぐれるといけないと思って、つい」
中学生の多感な時期にあまりこういったことはよくなかっただろうか。
焦って手を離そうとするものの今度はぼたんちゃんの方からぎゅっと握られてしまう。
「はぐれないように、ね?」
そう言って彼女は僕を見上げながらまたにやりと笑った。
水族館の薄暗さと、水面の光に照らされてなんだか少し妖艶に見える、気がする。
っと、中学生相手に何を考えているのか。
慌てて思考回路を切り替える。
綺麗ですね、なんて声をかけるものの、ぼたんちゃんはなんだか空返事だ。
「彼女とよく来るの?」
しばしの沈黙の後、彼女は水槽を見上げながらそう言った。
「まさか、彼女なんてもう数年はいませんよ」
「へえ、安室さんモテそうなのに」
「そう?ありがとう」
そういってにこりと笑い返すも、ぼたんちゃんは知らんぷり。
視線も合わさずに水槽を見上げたままだ。
「あ、」
「ん?」
「みて、安室さん!」
「え、ちょ、」
急に何かを見つけたように声を上げると、
別の水槽の方へ引き寄せられるように駆けていってしまう。
つないだ手は離してくれないものだから、自然と自分も引っ張られてしまう。
「イワシ!」
「イワシ」
キラキラとした瞳で水槽に食いつく彼女。
先ほどまでとのテンションの代わりように少々驚きつつも、
いつもは見せないその横顔を眺める。
「なんですか、ジロジロ人の顔見て」
しばらくして視線に気付いたのか、ぼたんちゃんは若干眉にしわを寄せながらこちらを見た。
「いや、昔もイワシだけに夢中な人がいたなあと思って」
「へえ、彼女さん?」
「うーん、まあ、そう、かなあ」
「歯切れ悪いね」
「うん、数年前に事故で亡くなっちゃったんだ」
「そっか、」
ぼたんちゃんは少し俯いた。
事故で亡くなった。
まさか自分がこの手で撃ったなどと言えるはずもなく、
そう言ってぼやかした。
自らの手で殺めたはずの彼女が、
なぜだか目の前の少女と被って見えるのは気のせいだろうか。