籠の鳥
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一発の銃声で、屋敷内は騒然とする。
「おい、白崎、なにを考え、グアッ!」
「誰かあいつを取り_ガアッッ!!」
白崎は表情すら変えずに、部屋にいた組員に狙いを定めて撃ち続けている。
「シロ……」
「牡丹さん!こちらへ!」
僕は、部屋の隅で呆然としている彼女の腕を引いて、
ひとまず部屋から抜け出す。
「シロ、どうして……」
どうして、彼女はうわごとのように何度もそう繰り返した。
クロとシロ。彼女は組長の側近をそう呼んでいた。
こんな家に生まれた彼女だ。
きっと側近とも幼いころからの仲なのだろう。
「…クソッ」
思わず口から悪態が漏れる。
「透、どこに行くの」
阿鼻叫喚、もはやそんな言葉がピッタリになってしまっている屋敷内を走り回っていると、彼女がふと、そう言った。
ぼんやりとした声。
足元もふらついておぼつかない。きっと先ほどのことがよほどショックだったのだろう。当然といえば当然だが。
「安全なところまで」
「ないわよ」
「なら、があなたを守ります」
「……そう」
僕の言葉を聞いて、彼女はそれきりなにも言わなくなった。
腕を引かれてなされるがまま、ただ僕の後をついて来る。
走り回って、たどり着いたのは敷地内の端にある、小さな倉庫。
「ひとまずここに隠れましょう」
彼女の腕を引っ張って、共に倉庫で息を潜める。
しばらくの間使われなくなっていた倉庫だ、
しばらくここに人が来ることはないだろう。
「透、」
暗闇の中、彼女は小さく震えていた。
こんな状況で怯えるなという方が無理というものだろう。
「大丈夫、大丈夫です」
僕は彼女の腕をもう一度引いて、自分の胸の中に引き寄せる。
小さく震え続ける彼女をきつく抱きしめてから、
耳元で囁いた。
「もう、終わりにしましょう」
「っ、」
僕の言葉に彼女は小さく息を飲んだ。
「……そう、」
少しの間を空けて、僕の胸の中からゆっくりと離れた彼女は、
小さく笑ってそう言った。
「優しく、してくれる?」
痛いのは、イヤなの。
そう言った彼女の右手に握られているのは、拳銃。
先ほどまで僕の胸ポケットに入っていたはずのものだ。
「驚いた。気づいていたんですか」
「ふふ、今まで楽しかったわね、透」
彼女はまたくすりと笑いだす。
彼女の言葉に、背筋が凍る。
まさか、この女
「わかって、いたんですか。最初から」
「それは、透が私のことを好きでもなんでもないクセに付き合っていたこと?それとも、後ろ盾の組織に近寄りたくて桐堂組全てを利用しようとしていたこと?」
彼女はずっと笑顔のままだ。
「全部、分かったうえで、ついてきてたんですね
僕が今から、あなたを殺すと、分かった上で」
「シロが裏切り者だったことは流石にショックだったかしら」
はあ、なんてため息を付きながら彼女は首を振る。
つまり、それ以外は全て予想通り、と。
ああ、桐堂組は、なんて女を残してしまったのだろう。
彼女を跡取りにしようとした龍太郎は、ある意味正しかったのかもしれない。
「本当に、残念ですよ。
あなたとはもっと別の形で出会いたかった」
自分のスラックスに隠していた予備の拳銃を、彼女に突きつけたまま、彼女にじりじりと歩み寄る。
「あーあ、痛くしないでって言ってるのに、
愛しい恋人の最期のお願いも聞いてくれないのね」
「愛しい恋人?まさか、どこにいるんですか」
彼女の額に拳銃を突きつける。
「最低。」
それが、僕が聞いた、桐堂 牡丹の最期のセリフだった。