籠の鳥
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二か月後、笠村と約束していた決算報告会。
組長をはじめとした桐堂組が一堂に会した。
「それで、君の成果を聞こうじゃないか、安室くん」
「ええ、こちらに」
僕は手持ちのアタッシュケースを組長の前で開ける。
「ほう、」
「だいたい一千万円ぐらいでしょうか
あまり時間が無かったものですからこの程度になってしまいました」
ある筋からの元金をつかって株や不動産で稼いだお金。
組員としての働きというよりは完全に僕個人での稼ぎになってしまっているが、まあお金さえ集まれば問題ないだろう。
「い、一千万、だと?」
笠村が驚いたように目を見開く。
なるほど意外だった。用意周到な彼はこのくらいは予想してくると踏んでいたが見当違いだったのだろうか。
「ふ、ふん。まあ素人にしては頑張った方かもしれませんね……
白崎!お持ちしろ」
笠村の声で先ほどの僕と同じように白崎がアタッシュケースを組長の元で開ける。
「ほう、」
「五千万円です」
大量のアタッシュケースを淡々と開いてからそう言った。
五千万円。圧倒的に僕の負けである。
これだけの金額を用意しておきながら笠村はなぜあれほどうろたえたというのだろうか。
「は、はは、やった!僕の勝ちだ!ざまあみろ!
これで牡丹さんは僕のものだ!」
予想外、明らかに笠村の顔にはそう書いてある。
なるほど、きっと"誰か"が別で用意していたのだろう。
「なるほど、さすがに敵いませんね」
僕は笠村にそう告げる。
二カ月で五千万円なんて到底あり得ない。
"誰か"さんは相当なやり手のようだ。
「さ、さあ牡丹さん!僕の元へ来てください!!さあ!」
「お断りします」
会の間中一切誰とも口を利かず、
ただまっすぐ組長の隣に凛と座っていた牡丹さんは、
笠村が手を差し出すや否や、視線も変えずにそう言い放った。
「な、なぜですか、この勝負は僕の勝ちだ!
彼はあなたを諦めるしかないのですよ!?」
「だから、なんです?」
彼女の冷たい声が部屋全体に響き渡る。
「そもそも本人のいないところで勝手に賭けをしていることも気に入らないけれど、透は勝負に負けて私を諦めた、で?それが何?」
「君はおとなしく僕と結ばれるってことだよ!」
「日本語が通じないの?お断りします」
彼女はもう一度、強めに言い放った。
彼女の発言に、部屋は少しずつざわつく。
そう、今の桐堂組の鍵となるのはまぎれもない彼女、桐堂 牡丹だ。
組長の娘である牡丹は、次の組長と結ばれる。
それはきっとこの桐堂組の長い歴史の中で必要不可欠なことだ。
通常であれば、若頭の笠村と結ばれるはずだが、組長の龍太郎はそれをよく思わなかった。
己の実力で若頭まで上り詰めた笠村であるが、
実際のところ、組長の龍太郎とは対立している。
笠村は対立派閥の人間を納得させる口実として、組長の娘が。
対立派閥に組を乗っ取られるわけにはいかない龍太郎には別の婿候補が必要だったというわけだ。
「そ、そうか。牡丹がそこまで言うのであれば仕方ないか」
「!組長、それでは話が違います!」
笠村が声を荒げる。
「かわいい娘の頼みとなれば聞いてやりたくなるのが親というもの。
牡丹、これから安室君をしっかり支えていっておくれ」
「それも、お断りします」
彼女はまたしてもぴしりと言い放つ。
「な、なんだと?」
「笠村さんでも透でも、次期組長なんてどっちでもいいし興味ないけど。
私はいい加減桐堂組とは関係なく生きたいの。ただの女の子として」
「そんなこと出来るわけがないだろう!
お前は、この組に必要な存在だ!カタギになんてなれるわけがない!」
今度は龍太郎が声を荒げる。
彼が笠村以外の婿候補を欲していながらも、
僕に負けを命令してきた理由は2つある。
1つは純粋に勝てるわけがないのだから無駄な動きをするな、というところだろうが、2つめがこれだ。
彼は、牡丹に桐堂組を任せたかったのだろう。
そのためには"無能な"婿必要なのだ。
牡丹が認めた相手でありながら、"無能"であることをアピールすることにより、女性である牡丹が口を出しやすくしようという計画なのだろう。
「興味ない。この歳になるまでいい子にしてきたんだから、
そろそろかわいい娘の頼みくらい、聞いてくれない?」
うんざりとした表情で、彼女は言う。
さっきの龍太郎の言葉を繰り返しながら。
「認めません、そんな無責任な話があってたまるか……!」
今度は笠村が親子の間に割って入る。
「だから、あなたが組長になりたいならなればいいって言ってるでしょ」
「そんなことはこの俺が許さん!」
周囲のガヤも交わりはじめ、部屋は騒然とする。
三者三様。折り合いのつかないまま言い合いが進んですぐ、
「それじゃあ、このあたりでおしまいにしてもらえる?」
聞きなれない女性の声が聞こえたかと思うと、同時に鳴り響く銃声。
「親父!!!」
組長、桐堂 龍太郎はその日、側近の白崎によって射殺されたのだ。