籠の鳥
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「よかったじゃん」
突然のお宅訪問から、初めてのデート。
あの場では席を外していた牡丹だが、
先日の一件より僕が桐堂組舎弟頭になったことは彼女の耳にも届いているだろう。
「親父に紹介して即舎弟頭なんて、エリートだねえ」
牡丹はけたけたと笑う。
「そうなんですか。あんまりそういうものに詳しくなくて」
これは半分事実である。
もちろん事前の下調べの上で潜入を行うが、
なにぶん、極道組織の潜入なんて初めてである。
下手に動かず、こうして周囲の話を聞きながら動いた方がいいだろう。
「まあ普通だったら2~3年かかるんじゃない?」
私もやったことないから知らないけど、彼女は他人事のように話している。
「なるほど、大抜擢していただいたというわけですね」
「多分ほんとはもっと上に入れたかったんだけど、
流石の親父もカタギの人間をいきなり側近なんてしたら
周りの反対が出ると思ったんじゃない?
っと、それよりも!せっかくのデートなんだから、そんな話やめやめ!」
そう言うと彼女は隣に広がる大きな水槽に視線をやった。
水族館に行きたい。
牡丹が突然そう連絡してきたのは先週のこと。
先日の一件以来、こちらとしてもバタバタしていたため、
こちらからは連絡できずにいた。
と、いうか若干忘れてさえいた。
「どうせ、バタバタしてて連絡するのを忘れていましたーとかいうんでしょ」
「お見通しですね」
参ったとばかりに眉を下げる。
なんというか、水族館ではしゃぎまわるような子供らしい一面があると思えば、さっきみたいにどこか鋭くて、なんともつかみどころのない女性である。
「みて透、イワシ!」
「イワシ」
なにやらキラキラとした瞳で水槽を眺めているかと思えば、
イワシ、らしい。
思わずオウムのように復唱してしまう。
「イワシの大群って好きなんだよね、綺麗じゃない?」
「まあ、確かにそう言う見方も出来るかもしれないですね」
彼女と水族館に来てイワシってどうなんだと思いながら返事をすると、牡丹はまたくすくすと笑った。
「そんなに僕の顔おもしろいですか」
「うん、すっごく面白い」
からかうようにそう言えば、そう返されてしまうのだから困る。
自分でいうのもなんだが、顔は整っている方だと思う。
横で人の顔を眺めながらくすくすと笑われるのはどうにもなれない。
「水族館にまできて僕の顔とは、よっぽど僕のこと好きなんですね」
「うん、好き」
「え、」
「透の顔、すごいすき」
ふにゃり
今の彼女の表情を言葉で表すなら、それが一番あてはまるだろう。
いつまでも笑われてばかりは心外だと声をかけると、
思いもよらない返事をされてまたこちらが固まってしまう。
「っ、何を馬鹿なこと言ってるんですか」
「思ったこといっただけだもーん」
「はいはいもう好きにしてください」
全くもうあなたって人は、なんて言いながらため息を付くと、
それでもまだ牡丹はくすくすと笑うものだからもう意味が分からない。
「ね、透ペンギン見にいこ!」
「あなたはほんとに落ち着きがないですね」
牡丹に腕を引かれて人混みを通り過ぎる。
ああ、もうなんだか調子が狂って仕方がない。