籠の鳥
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
"14時に桐堂邸の入り口へ"
時刻は13時40分。
彼女が指定した集合場所で時が過ぎるのを待っている。
「透!」
約束の時間まで少し時間があるにも関わらず、
牡丹は僕が到着してすぐに門から顔を出す。
「早かったね」
「そちらこそ、約束の時間には少し早いと思うのですが」
「門番が知らせてくれたの、多分私の連れだろうって」
「なるほど、さすが桐堂組ですね」
「そう?まあいいや、ちょっと早いけど準備できたから
中にどうぞ。」
「はい、お邪魔します」
荘厳な門構えをくぐる。
ようやくこの家の敷地に足を踏み入れることができる。
「親父が急に会いたいって言いだしてさ」
急にごめんね、
母屋への道をあゆみながら牡丹がそう言った。
気丈で自分の芯をしっかりと持つ彼女だが、
自分の家に関するとこだけは、少しだけしおらしくなるような気がするのは気のせいだろうか。
「らしくないですね、そんなこと言うなんて」
「ただの交際相手にこんなことされるの、重たいかなって」
「まさか、ご紹介していただけるなんて嬉しい限りです」
こちらとしてはようやく、といったところだ。
この日をずっと待ちわびていた。
桐堂組組長、桐堂 龍太郎。
黒の組織とつながりがあると噂される人物。
裏の世界では武闘派でありながら、油断のできない人物であるという。
「なあに透、緊張してる?」
隣を歩く牡丹がからかうようにそう言った。
「まあ、全くしてないといえば嘘になりますね」
強張る顔面をなんとか動かして、彼女に微笑む。
「その割には肩に力が入りすぎてるんじゃない?」
なんて彼女は僕の少し前を歩きながらのんびりと言った。
「そんなに気にしなくていいと思うけどねー、っと着いた」
彼女の案内に従うこと約5分。
先ほど通った門構えよりさらに大きな屋敷の入り口にたどり着いた。
「奥の部屋に親父が待ってるから」
お屋敷の中に通される。
牡丹の後ろについて歩いていくと、派手な絵の描かれた襖の前で立ち止まる。
「この先、ですか」
「うん、……親父、開けるよー!」
襖が開かれたその先にいたのは、
視線だけで人を殺せるんじゃないかという圧力を放つ大男。
これが桐堂組組長か。
「はじめまして、牡丹さんとお付き合いさせていただいております安室透と申します」
龍太郎さんは僕のつま先から頭までゆっくりと眺めてから、
ふん、と短く鼻を鳴らした。
「なるほどな、安室と言ったか」
「はい」
放つ一言が重い。
肌がビリビリと震えるのが分かる。
「2人で話がしたい。他のものは席を外せ」
龍太郎さんの言葉に、
そばにいた側近も牡丹さん本人も無言で部屋を後にした。
その無言の動きの統率ときたら。
桐堂組が圧倒的な権力を持ち続ける理由を垣間見た気がする。
「それで、狙いは"アイツ等"か」
一通りの足音が聞こえなくなったころ、
龍太郎さんは静かにそう言った。
「っ、」
全て、見透かされている。
その一言で全てを悟ってしまう。
「牡丹は気づいてないだろがな、
そもそも自分の家のこともあいつはよく分かっていない
ただ、お前のその身のこなしがカタギじゃないことはよく分かる」
そう言って彼は僕の左胸、胸ポケットにある拳銃を指さした。
「念のためですよ」
「カタギは念のためで拳銃なんか手に入れられないんだよ」
もっともな指摘だった。
くそ、ここまでばれてしまっているのであれば
これから先の作戦はかなり厳しいだろう。
どうしたものかと考えあぐねていると、
目の前の老人は愉快そうに笑った。
「よい。気に入った」
「え、」
「黒田!」
「はい」
僕の反応もそこそこに、龍太郎さんが側近の名前を呼ぶと、
襖を一枚隔てた向こうから、若い男の声が聞こえた。
全く気配を感じなかった、だと。
「こいつを桐堂組抱えとする。
組のものに伝えておけ」
「かしこまりました」
襖の奥の男は、それだけ言うとすぐさまどこかに消えてしまう。
「どうやら、認めていただけたようですね」
「ああ、そうだな」
なにやらまたにやりと笑う組長をよそに、
僕は差し出された杯を受け取るのだった。