SHINICHIside
　　
「今日は泊まっていくね」
そう言った蘭と薫は先ほど楽しそうに二人で風呂場へと向かった。


やかましい女二人がいなくなったリビングは、先ほどまでの騒がしさが嘘のように静かになる。俺は赤井さんが手土産に持ってきてくれたウィスキーを片手に薫のピーチタルトを食べていると、赤井さんが急にぽつりとつぶやいた。

「あいつは、やらんからな」

「はあ？何言って…」
何を言ってるんですか、そう言おうとして、赤井さんの視線が妙に鋭いことに気付いて口をつぐんだ。赤井さんの視線の先にいるのは、俺と同じような表情をした降谷さんだった。

「何馬鹿みたいなことを言ってるんですかあなたは」
「俺に嘘が通じると思っているのか」
「……はぁ、思いませんね」

赤井さんの言葉に、降谷さんが観念したように息を吐く。
え、まって何この展開。俺ついていけない。

「僕、こういうの隠すのはうまい方だと思ってたんですけど、
鈍感の塊みたいなあなたに見抜かれるなんて心外ですね」
「わかるさ」

赤井さんは薄く笑ってから煙草に火をつけた。おい、人の家で何勝手に吸ってるんだこの人。

「俺と同じ目をしてる」
「なるほど？」

赤井さんの言葉に、降谷さんはにやりと笑った。

「まあ、薫さんがあなたといることを望んでいるから僕は何も言いませんけど」

そこで降谷さんは一度言葉を止めてから、先ほどまでとは打って変わって、まるで戦場のあのときのような真剣な表情を見せて続けた。

「アイツを泣かせるようなことがあれば、全力で奪いに行くから覚悟しろよ」

ピリ、と一瞬張り詰める部屋の空気にも、赤井さんは気にも留めいないといった態度で、ふう、と煙草の煙を吐き出す。だから、リビングで吸うなって。

「やってみせろ」

赤井さんは、翡翠色の瞳をぎらりと光らせて、野獣のように笑ってそう言った。