仮面の内側
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車は結構な距離を走っていたようで
夜景が見渡せる峠の上まで来ていた。
「ここ、来葉峠……?」
「ああ、綺麗だろう?」
「そう、ですね…」
「ここから沖矢昴が始まったんだ」
「そうなんですか」
夜景を見ながら、懐かしそうに秀一さんはそう言った。
きっとこれ以上は聞いても答えてくれないだろうから
私はその横顔を見つめていた。
「薫」
ふと、秀一さんが私の名前を呼ぶ
優しい声に細められた瞳。
彼の緩みきった顔に思わずどきりとする
「はい、」
「こんなこと、今更言っても
君は許してくれないかもしれないが、聞いてほしい」
「はい、」
秀一さんの真剣な表情と、
抑えることなく発せられる色気に
私はそう返すだけで精一杯だった
「俺は、君のそばにいたい」
「はい…え?」
「一度は恐怖に負けて、君の前から逃げてしまった
でも、君のそばにいたいと、思ってしまうんだ」
秀一さんのその言葉に、私は言葉を失ってしまう。
だって、それって___
「…愛の、告白に聞こえますよ?」
私は顔を真っ赤にしたまま俯いて、
視線だけ秀一さんの方に向けて、そうつぶやいた。
私と視線を合わせた秀一さんは
一瞬ピタリと固まった後
先ほど以上にふにゃりと顔を緩めたと思うと
ゆっくりと顔を近づけて
「そのつもりだよ」
と私の耳元で囁いた。
「っ~~!」
咄嗟に体を後ろに仰け反って、耳元を手で覆う。
秀一さんは私の反応をみてくすくすと笑っている
「意地悪」
「好きな子には、意地悪をしたくなるのが男ってものだ」
好きな子、初めて明確にそう告げられる。
きっとこの人はすべて分かり切ったうえで言ってるんだろうけど
いちいち反応してしまえば、全部が秀一さんの思い通り。
「…君が好きだ
君が俺を選んでくれるのなら、すべての危険から君を守る
守ってみせる。その覚悟が、ようやくできた」
真剣な目で、見つめられる。
翡翠色のはずの、その瞳が、熱で真っ赤に思えるような
そんな錯覚をおこすほどの、情熱的な視線
「だから、俺のそばにいてくれないか?」
「私、彼氏いるんですけど」
「知ってる」
「忘れられない人がいるんじゃなかったんですか」
「ああ、自分でも驚いてる」
「なにそれ、」
あんまり優しい顔をするものだから、
また涙がこぼれてしまう。
透さんと一緒になる、そう決めたはずなのに、
決めたばっかりなのに。
透さんは、全部分かってたんだ。
分かったうえで、私のためを思って去ってくれたんだ。
「俺じゃ、だめか」
秀一さんが、ダメ押しでもう一度尋ねる。
ああもう、この人のせいで散々振り回されたってのに、
なんでこんなにこの人は自信満々なの。
そうですよ。どうせ私は。
「あなたじゃなきゃ、嫌です」
最初からそう言っているでしょう、
そう言いかけた言葉が、最後まで告げられることはなかった
私の言葉など待てない、と言ったように
秀一さんの唇が私の口を塞いだ
「っ」
私が驚いて動けずにいると、
少しして秀一さんはあっさりと離れてしまった。
「口にするのは、初めてだな?」
彼はにやりと笑いながらそう言った。
「え、待って"は"ってなんですか!?」
「いや、一応あったか、色気はなかったが」
「はあ!?何ですかそれ、私知らないんですけど!!」
「君の知らないときだからな」
「寝込み襲われたってことですか!!?へんた__」
秀一さんの発言に驚いて言葉を返していたが、
急に抱きしめられたことに、さらに驚いて、
また言葉を遮られてしまう。
「もう、逃がさない」
「逃げたのはどっちですか」
「もう逃げられないからな、覚悟しろよ」
私の軽口に、秀一さんはそう返した。
「だから、そんな覚悟は最初からできてるんですってば」
私の言葉に
秀一さんはそうだったな、と笑うと、
今度は先ほどより深い口づけを落とした。