期末テストもなんとか終わって
ようやく夏休みが訪れようとしていた私は
最近ずっと悩んでいることがある。

沖矢昴さんのことだ。

「よくあれで生きていけるよな…」

彼の料理のできなさには本当に驚いた。
27歳と言っていたが今までどうやって生活していたのだろう。

「どうしたの？考え事なんて珍しいね」

本気で心配そうな顔をしながらさらりとひどいことを言ってくるのは
隣を歩いている幼馴染の毛利蘭。
悪気はないのはわかるけど蘭ってばたまにそういうとこあるよね。
私だって頭使って考えることもあるよ。

「いや、生命の神秘について考えてた」

本当のことを言うと、昴さんとの出会いから説明しなきゃならなくなる
少し、いやかなりめんどくさいので今回は適当にごまかしておくことにする。

私の適当な哲学ポエムのせいでさらに心配そうになる蘭と
「薫がおかしいのはいつものことじゃない！」
とさらに追い打ちをかけてくる園子を横目に
どうしたものかと再び思考を巡らせていると

「薫姉ちゃんこんにちは！」

大きなアサガオを抱えているコナンくんとその他少年探偵団の皆が
元気いっぱいに声をかけてくれた。
なんで私だけ名指しなんだろう。

「こんにちは、皆そのアサガオどうしたの？」

「学校で育ててたのを持って帰るの！」
「枯れてしまっても種が採れるのでもう一回植えれるんですよ！」
「おれ、花なんかじゃなくてもっと食えるものがいい」

なるほど、アサガオの観察日記の続き、とでもいうところか。
……あ、

「それ、いいかも！」

急に大声を上げた私に
今度は蘭だけじゃなくて少年探偵団の皆も一緒に首をかしげている。
何そのしぐさ、かわいい。

「ごめん、用事できた」

そう一言告げると、私は自宅とは反対方向に
少しはやめのスピードで歩きだした。
片手で昴さんに電話を入れながら


「と、いうわけで」

目の前にはホームセンターでそろえた野菜の苗と培養土
それから人数分のスコップ。
興味深そうに眺めている昴さんと
対照的に呆れた顔のコナンくんと
そしてなぜか集まった少年探偵団の皆。
哀ちゃんは録画ドラマの消費があるからパスらしい。


「家庭菜園するぞー！」

「「「おー！」」」

ノリノリでスコップを手にする少年探偵団の３人
それを見ながらコナンくんが
「なんで急に？」

なんてもっともな話をしてくる。

「いや、私ずっと考えてたんだけどさ」
「何を」

子供たちにせかされるようにコナンくんも
半分嫌々スコップを握り、土を耕しながら話を続けた。

「あんなに料理できなくてどうやって生きてるんだろうな、って」
「…昴さんのこと？」

ちらりと横目で軒先に腰かけて涼しい顔をしている昴さんを見る。
おい、何やってんだ手伝えよ。

コナンくんは何やら意味深に「ははは、」と苦笑いをした。

昴さんに一体何があるというのか。

「で、家庭菜園ってわけ？」
「そ、野菜なら最悪洗えば丸かじりできるし
工藤邸もバカ広いからちょうどいいかなって」
「別にいいんだけど、そう言うの昴さんに言う前に
新一兄ちゃんに相談しようよ…」
「ま、アイツは帰ってこないからいいんだって」
「あのねえ……」

小学一年生にお説教されるというよく分からない状況の中
ちびちびと土を耕し続ける。

「もう歩美つかれたー！」
「いつまでやっても終わりませんよ！」
「おれハラへった！」

さっきまで楽しそうに作業を続けていた３人の声が聞こえた。
この炎天下の作業だ、あんまりし続けるのも大変か。

「よし、じゃあ「皆さんはこちらで休憩していてください
あとは僕がやっておきますよ」…え、」

今までのんびり見ているだけだった昴さんが
突然腰をあげてそう言った。

と申し訳なさとやる気があるなら最初から手伝えよ、という
戸惑いでいっぱいになってしまい
きょとんとする私たち４人をよそに
１人だけ何かを察したようなコナンくんがあっさりと

「じゃあよろしくね！」

といってリビングに戻っていった。

「え、じゃあ…お願いします？」

本当にいいのか、そんな気持ちも含めながら
ショベルを肩にかけてこちらに向かってくる昴さんに声をかけた。

「ええ、私に任せて休んでいてください」

そう言った昴さんの横顔はいつもの数倍頼もしく見えたのはなぜだろうか。

「はあ？かっこよすぎかよ」

先に戻ったコナンくんが用意してくれた麦茶を片手に
昴さんの背中を見つめながらそうつぶやくと
これまた呆れたように笑っているコナンくんが

「もう、そんなとこにいたら熱中症になっちゃうでしょ
はやく部屋の中入って」
といって私を部屋のソファまで無理やり移動させてしまったので
それ以上昴さんの背中を見ることはできなかった。